土方久功と柚木沙弥郎
両者の多岐にわたる創作の世界を探る二人展が開催
「土方久功と柚木沙弥郎――熱き体験と創作の愉しみ」が世田谷美術館にて、2023年11月5日まで開催中
立体、平面、絵本など多岐にわたる仕事を手がけている土方久功(ひじかたひさかつ 1900-1977)と柚木沙弥郎(ゆのきさみろう 1922- )。分野も年代も異なる二人の創造の世界を紹介する展覧会が、世田谷美術館で開催中だ。
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- 「土方久功と柚木沙弥郎――熱き体験と創作の愉しみ」
開催美術館:世田谷美術館
開催期間:2023年9月9日(土)~11月5日(日)
柚木沙弥郎は、1922年東京生まれ。父と兄は洋画家、祖父も画家という芸術一家に育ち、終戦後に岡山県倉敷市の大原美術館で働く中で、柳宗悦が提唱する「民藝」の思想や後に人間国宝となる芹沢銈介に出会い、これを機に芹沢銈介に師事。以来、80年近くにわたる創作活動により、鮮やかな色彩と大胆な構図の型染による作品を発表するほか、立体作品、絵本まで精力的な創作活動を展開する。100歳を超えて今なお、現役染色家として老若男女の心をとらえる作品を生み出し、国内外で評価を得ている。
一方、土方久功は、東京美術学校の彫刻科を卒業後、1929年から42年まで、当時日本の委任統治領であったパラオ諸島や、カロリン諸島中部のサタワル島で過ごす。現地の人々と生活しながら制作に励む一方、周辺の島々を巡り、生活様式や儀礼、神話などの詳細な調査も熱心に行った経験を活かし、帰国後は世田谷区の自宅でミクロネシアの人物や風景を主題とした木彫レリーフやブロンズ彫刻、水彩画を数多く制作し、民族誌学的調査の成果をまとめた著書を発表。詩集、絵本などの出版も手掛けている。
パラオ諸島では現地の子供たちが通う学校で1年ほど木彫りを教えていたという土方。本展覧会では、ブロンズ彫刻やマスクに加えて、ミクロネシアの自然や人びとをモチーフに制作された木彫レリーフも展示され、現地で暮らす人々の生活や、それを観察する土方の温かい眼差しを感じとることができる。1942年の帰国以来、ふたたびミクロネシアを訪れることはなかったが、その後も土方の人生の中心にあり、滞在中に出会った人々や風景は土方の制作の永遠のモチーフとなった。
世田谷美術館ではこれまでも収蔵品を中心に、二人の作家を取り上げる展覧会を数多く行なっている。今回の二人の作家は年代やジャンルも異なり、直接的な接点はないものの、ともに日々の何気ない生活の中から創作の楽しみを見出し、その美しさや喜びを教えてくれるという点で共通している。また、もう1つの共通点はともに絵本に関わる仕事をしていることだ。
パラオ諸島から日本に帰国したばかりの土方は、義理の弟宅に身を寄せ、姪に読み聞かせをする際、動物の鳴き声や動作を擬人化した即興のおはなしをする中で、絵本のストーリーを思いついたという。また、サタワル島の民話を子供向けにした物語も絵本として出版されている。童話の挿絵や文章からは、子供好きだったという土方の朗らかな一面と、子供の心情や行動をとらえることに長けた表現力が感じられる。
会場には、枠にとらわれない自由な創作活動を意識するようになった柚木の1982年以降の染色作品も数多くそろっている。中でもデザイナーのアレキサンダー・ジラードの世界各国の民族玩具のコレクションや、プラハ生まれの彫刻家、ズビニェク・セカルとの出会いは、柚木を解放し、より精神性の高い表現へと向かわせる契機となり、シンプルで力強い造形の染色作品を生み出した。アートを楽しみ、「たのしくなくちゃ、つまらない」をモットーとしてきた柚木。日常にあるものから発想し、自由な心から生まれた柚木の作品は、生き生きとして生命力に満ち溢れている。その作品たちは見る人の心を温かく、嬉しい気持ちにさせてくれる。
もし、土方久功と柚木沙弥郎が生前交流していたら、どんな話をしていただろうか?どんなコラボレーションが生まれていただろうか?二人の作家の生き方を感じることができる展覧会に足を運んでみてはいかがだろうか。