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尾形光琳の最晩年の最高傑作であり国宝、
装飾芸術の代表とも評される《紅白梅図屏風》

この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩 Vol.10
MOA美術館 / 尾形光琳筆 国宝《紅白梅図屏風》

名画・名品

国宝 尾形光琳筆「紅白梅図屏風」 江戸時代 MOA美術館
国宝 尾形光琳筆「紅白梅図屏風」 江戸時代 MOA美術館

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この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩

私たちが普段、美術館や博物館に足を運ぶときは、あるテーマの企画展や特別展などを鑑賞しに出かけることが多いのではないだろうか。多くの美術館や博物館では各館のコンセプトに沿って、絵画や彫刻、版画、工芸など様々な作品を収蔵している。それらの作品の購入や寄贈により形成されていくコレクションとはどのようなものなのか、そういった各美術館や博物館の特徴や個性を知ることで、作品鑑賞をより深く楽しむ手掛かりとなるのではないだろうか。「この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩」では、そんな美術館・博物館のコレクションから注目すべき作品を1点ずつご紹介していく。

「琳派」という日本美術の流派の名前の元ともなっている尾形光琳(1658-1716)は、江戸時代中期に京都で活躍した人気絵師である。5歳年下の弟は陶工の尾形乾山で、二人の合作も多く残されている。京都有数の呉服商 雁金屋に生まれ、幼い頃から衣装文様の装飾性に触れてきた影響もあり、光琳の作品は「装飾的」と評されることも多い。構図感覚、色彩感覚に優れ、造形力や発想力が豊かな才能あふれる芸術家 尾形光琳が手掛けた作品の数々には、いずれの作品にも尽きせぬ魅力がある。

現在、尾形光琳の代表作のうち3点が国宝に指定されている。その中でも晩年の傑作が『紅白梅図屏風』である(他2点は『燕子花図屏風』根津美術館蔵、『八橋蒔絵螺鈿硯箱』東京国立博物館蔵)。

二曲一双の屏風の金地の中央に大胆に描かれた水流はまさに装飾的で、意匠化された水紋が目を引く。左右に描かれた紅白梅の写実性との対比や、その余白から奥行きを感じさせる全体の構図もはっとするほど美しい。平安朝以来の大和絵の伝統的なモチーフを独創的に描いたこの作品は、当時の人々にはさぞ前衛的で、斬新なものに映ったのではないだろうかと想像する。

この名品『紅白梅図屏風』を所蔵するのは、静岡県熱海市にある、創立者・岡田茂吉によって1982年に開館したMOA美術館である。『紅白梅図屏風』の入手までの経緯や、作品の特徴について、MOA美術館の学芸員 尾西 勇さんにお話しを伺った。


MOA美術館創立者・岡田茂吉は、日本の絵師の中で尾形光琳を最も高く評価し、多くの琳派作品を蒐集しました。日本美術を代表する傑作として有名な「紅白梅図屏風」は、岡田が入手するまでに数奇な運命をたどっています。

この屏風は第二次世界大戦が終わるまで津軽家(現在の青森県津軽地方を領有した大名家、弘前藩主)に所蔵されていましたが、戦争中空襲の際、収蔵されていた倉庫に焼夷弾が落ち、焼失する寸前に家人の働きで消し止められ無事であったといいます。また戦後は人手から人手へと渡り、流転の後に昭和29年(1954)、岡田が入手することとなりました。

光琳が俵屋宗達(「琳派」の祖と言われる江戸時代初期の画家)に私淑し、その画蹟に啓発されながら、独自の画風を築き上げたことはよく知られています。水流を伴う紅梅・白梅の画題や二曲一双の左右隻に画材をおさめる構成のやり方がそれです。しかし、白梅の樹幹の大部分を画面外にかくし、紅梅は画面いっぱいに描いて左右に対照の妙をみせ、中央に水流をおいて末広がりの微妙な曲面をつくり上げた構図は光琳の独創ということができます。

国宝 尾形光琳筆「紅白梅図屏風」(部分) 江戸時代 MOA美術館
(上)花弁を線書きしない梅花の描き方や蕾の配列は、後に「光琳梅」として意匠化されて認識され、愛好される。
(下)向かって右隻に「青々光琳」、左隻に「法橋光琳」と落款があり、それぞれ「方祝」の朱文円印が捺されている。
国宝 尾形光琳筆「紅白梅図屏風」(部分) 江戸時代 MOA美術館
(上)花弁を線書きしない梅花の描き方や蕾の配列は、後に「光琳梅」として意匠化されて認識され、愛好される。
(下)向かって右隻に「青々光琳」、左隻に「法橋光琳」と落款があり、それぞれ「方祝」の朱文円印が捺されている。

後に光琳梅として愛好される花弁を線書きしない梅花の描き方や蕾の配列、樹幹にみられるたらし込み、更に他に類を見ない卓越した筆さばきをみせる水紋など、こうした優れた要素が結集して、画面に重厚なリズム感と洒落た装飾性を与えています。本屏風が光琳画業の集大成であるといわれる所以でありましょう。向かって右隻に「青々光琳」、左隻に「法橋光琳」と落款があり、それぞれ「方祝」の朱文円印が捺されています。

(MOA美術館 学芸員 尾西 勇)


平成23年には、科学調査が実施され(デジタル顕微鏡、ポータブル蛍光X線分析装置、ポータブル粉末X線解析計による)、その結果、屏風全体を占める「金泥」と考えられていた金地には「金箔」が用いられていることが確認された。また、水流の部分には一面に銀が残存し、黒色部分より硫化銀が検出された。そのことから、銀箔が硫黄で硫化され、黒色に変化したことが推測されている。

風雅な金地の背景に工芸的な技法で描かれた水流、紅白梅の樹幹に見られる「たらし込み」(先に塗った水墨や絵の具が乾かないうちに、異なる濃度や色の水墨、絵の具を加える技法。宗達が発案したといわれる)の質感による重厚な趣や構図の美しさ。魅力の尽きない傑作が現存していることへの喜びを感じられる、いわずとしれた名画である。

今回ご紹介の名画、国宝 尾形光琳筆《紅白梅図屏風》は、現在MOA美術館にて開催中の「開館40周年記念名品展 第1部」にて観ることができます。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「開館40年記念名品展 第1部」
開催美術館:MOA美術館
開催期間:2022年1月28日(金)〜2022年3月27日(日)
美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
MOA美術館|MOA Museum of Art
413-8511 静岡県熱海市桃山町26-2
開館時間:9:30〜16:30(最終入館時間 16:00)
定休日:木曜日(木曜日が祝日の場合開館 ※展示替期間は休館)

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