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水面に映し出された、黄昏の燃えるような光
巧みな筆遣いが圧巻のモネの名画《黄昏、ヴェネツィア》

この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩 Vol.09
アーティゾン美術館 / クロード・モネ《黄昏、ヴェネツィア》

名画・名品

クロード・モネ《黄昏、ヴェネツィア》1908年頃 石橋財団アーティゾン美術館蔵
クロード・モネ《黄昏、ヴェネツィア》1908年頃 石橋財団アーティゾン美術館蔵

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この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩

私たちが普段、美術館や博物館に足を運ぶときは、あるテーマの企画展や特別展などを鑑賞しに出かけることが多いのではないだろうか。多くの美術館や博物館では各館のコンセプトに沿って、絵画や彫刻、版画、工芸など様々な作品を収蔵している。それらの作品の購入や寄贈により形成されていくコレクションとはどのようなものなのか、そういった各美術館や博物館の特徴や個性を知ることで、作品鑑賞をより深く楽しむ手掛かりとなるのではないだろうか。「この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩」では、そんな美術館・博物館のコレクションから注目すべき作品を1点ずつご紹介していく。

印象派を代表する画家として、あまりにも有名なモネ。みなさんは、モネと聞いて、まず頭に浮かぶのは、どの作品だろうか?「印象派」という名称の由来となった作品《印象、日の出》や晩年の連作《睡蓮》、《積みわら》や《日傘をさす女》など、誰もが知る名画が多々あるが、いずれの作品も、光を浴びて変化する色彩や効果的な水面の表現が特徴的である。その中でもドラマティックなほどに、黄昏の燃えるような光やそれが映し出された水面の描写が圧巻の作品、《黄昏、ヴェネツィア》を取り上げたい。

クロード・モネが67歳のとき、妻アリスとともに訪れた、水の都ヴェネツィア。すっかり魅了されたその街で、海に浮かぶ小さな島に建つサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会の夕景を描いた作品が《黄昏、ヴェネツィア》である。モネは、約2カ月のヴェネツィア滞在中にも多数の作品を制作し、その中には、ほぼ色彩や構図を同じくする作品も存在する。《サン・ジョルジョ・マッジョーレ、黄昏》と題したその作品は、ウェールズ国立美術館(イギリス)が所蔵している。

《サン・ジョルジョ・マッジョーレ、黄昏》1908年 ウェールズ国立美術館所蔵
《サン・ジョルジョ・マッジョーレ、黄昏》1908年 ウェールズ国立美術館所蔵

モネは1890年、ジヴェルニー(フランス、ノルマンディー地方)に家と土地を購入し、睡蓮の自生していた池を、自らの手で日本風の庭園へと生まれ変わらせた。太鼓橋を架けて、藤棚をのせ、橋のたもとには菖蒲やかきつばたを植え、池のほとりには柳や竹林を配したという。また、モネは1870年より浮世絵を収集しはじめ、構図には、広重などの浮世絵からの影響を受けたと考えられる作品も多数あると考えられている。

日本人との交流もあり、川崎造船所の初代社長であり、コレクターであった松方幸次郎は、ジヴェルニーのモネの家を訪れ、信頼関係を構築していた。松方には、現在、国立西洋美術館が所蔵する《睡蓮》の作品を譲っている。そして、松方の姪夫婦である黒木三次夫妻も、1921年にジヴェルニーを訪れ、その際に入手を切望して譲り受けたのが、《黄昏、ヴェネツィア》であった。その作品は、現在、アーティゾン美術館(東京都中央区京橋)のコレクションとなっている。

どのような経緯でこの名画が、アーティゾン美術館のコレクションとなったのか、また、この作品の名画たる所以や作品の魅力について、アーティゾン美術館の学芸員 賀川恭子さんにお話を伺った。


1908年にモネと妻アリスはヴェネツィアに滞在しました。このときモネは30点以上の作品を制作しています。1911年に妻アリスが亡くなったこともあり、これがモネにとっての最後の制作旅行となりました。

1912年、パリのベルネーム=ジュヌ画廊でヴェネツィアの風景画29点からなる個展が開催されました。この個展の最末尾29番に展示されたのは、黄昏時のサン・ジョルジョ・マッジョーレを描いた作品でした。この作品は1912年の個展で直接購入されたのち、1952年にウェールズ国立美術館に遺贈されました。それとほぼ同じ構図、同じ色調の作品を、アーティゾン美術館が所蔵しています。

現在アーティゾン美術館が所蔵する作品は、妻アリスとのヴェネツィア旅行の記念としてモネが手元に残していたものでしたが、1921年にジヴェルニーを訪れた黒木三次夫妻に熱心に請われて譲りました。当初モネは作品を譲るのを断ったものの、黒木竹子が「私が欲しいのです」と言うと、画家は仕方ないという風に譲ってくれたそうです。この作品は、その後、和田久左衛門ら、他の日本人コレクターの手にわたったのち、1950年代に石橋正二郎によって購入され、アーティゾン美術館の前身となるブリヂストン美術館に寄贈されました。

印象派の画家たちは、光を浴びて変化する色彩をカンヴァスの上で表現しようとしました。なかでもモネは、生涯を通じて、水面の表現に関心を持ちつづけました。《黄昏、ヴェネツィア》はモネの特徴をよく伝えてくれます。

作品の左側に描かれているのは、サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会。逆光の中、教会はシルエットで表されています。黄昏の燃えるような光が、建物や空、水面をオレンジ色に輝かせ、水平線に向かうほど赤みが強くなっています。空にはうねるような筆致、水面には横向きのタッチを使っています。モネの巧みな筆づかいを見て取ることができます。

(アーティゾン美術館 学芸員 賀川恭子)


今回ご紹介の名画、クロード・モネ《黄昏、ヴェネツィア》は、2022年1月29日(土)より開催の「はじまりから、いま。1952ー2022 アーティゾン美術館の軌跡—古代美術、印象派、そして現代へ」で観ることができます。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「はじまりから、いま。1952ー2022
アーティゾン美術館の軌跡—古代美術、印象派、そして現代へ」
開催美術館:アーティゾン美術館
開催期間:2022年1月29日(土)~4月10日(日)
アーティゾン美術館外観
アーティゾン美術館外観
美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
アーティゾン美術館|ARTIZON MUSEUM
104-0031 東京都中央区京橋1-7-2
開館時間:10:00~18:00 ※祝日を除く毎週金曜日は20:00まで (入館は閉館の30分前まで)
定休日:月曜日 (祝日の場合は開館し翌平日は振替休日、展示替え期間、年末年始)
※最新の開館状況は、公式サイトをご確認ください。

参考文献:「モネ作品集」安井裕雄 (著)、「もっと知りたいモネ 生涯と作品」安井裕雄 (著), 高橋明也 (監修)

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