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“木がせり出してくるような感覚を味わえる”
実在感がみどころ、円山応挙筆「雪松図屏風」

この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩 Vol.08
三井記念館美術館 / 円山応挙筆 国宝 《雪松図屏風》

名画・名品

円山応挙筆 国宝 《雪松図屏風》(上:右隻)(下:左隻) 江戸時代・18世紀 三井記念美術館蔵
円山応挙筆 国宝 《雪松図屏風》(上:右隻)(下:左隻) 江戸時代・18世紀 三井記念美術館蔵

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この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩

私たちが普段、美術館や博物館に足を運ぶときは、あるテーマの企画展や特別展などを鑑賞しに出かけることが多いのではないだろうか。多くの美術館や博物館では、各館のコンセプトに沿って、絵画や彫刻、版画、工芸など様々な作品を収蔵している。それらの作品の購入や寄贈により、形成されていくコレクションがどのようなものか、あるいはそれらの所蔵作品がどのような変遷を経ているかなども、各美術館や博物館の個性や特徴を知って、より深く鑑賞を楽しむ手掛かりとなるのではないだろうか。
「この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩」では、そんな美術館・博物館の収蔵作品から注目すべき作品を1点ずつご紹介していく。

手を伸ばせば、松の木を覆う真っ白な雪に触れられそう。墨と金泥と紙の白色のみを用いて、松の木とその背景だけが描かれたシンプルな構図でありながら写実的であり、ひんやりとしていて、静謐な物語世界に瞬時に誘い込まれる。松の梢にこんもりと積もった雪と、その合間から顔を覗かせる針状の松葉の描かれ方には、神秘性さえ感じさせる。

江戸時代中期の画家 円山応挙によって描かれた《雪松図屏風》は、国宝である。国宝の第一義は、「国の宝」である。そのような言葉で価値づけられた作品であることに満足を覚えるほど、絵の前から去りがたい名品である。

この名品を所蔵するのは、三井記念美術館(東京都中央区日本橋)である。三井記念美術館は、三井家※から寄贈された美術品の展示・保存のためにできた美術館であり、その収蔵品は、江戸時代以来約350年におよぶ三井家の歴史の中で収集され、今日まで伝えられた、日本でも有数の貴重な文化遺産となっている。

※三井グループで知られる三井家は、家祖 三井高利(1622~94)が延宝元年(1673)に江戸本町一丁目に「越後屋」(現在の「三越」のルーツ)を開店したことに始まる。

この「雪松図屏風」を描いた画家 円山応挙は、三井家と親交があったという。どのような経緯で、この作品を収蔵することとなったのか、また国宝に指定されているこの作品の名画・名品たる所以、この作品の魅力などを、三井記念美術館の学芸員 藤原幹大さんにお話しを伺った。


三井家の中でも特別な作品として伝来した「雪松図屏風」

当館の所蔵品の大半は三井家から伝来したもので、「雪松図屏風」は十一家ある三井家のうち、惣領家の北家(家祖 三井高利の長男の家系)から寄贈された作品です。意外に思われるかもしれませんが、この作品が描かれた経緯を記す史料は未だに見つかっていません。北家での男子誕生の祝い品との説もありますが定かではなく、作風や印章の状態から天明6年(1786)ごろの作と推定されるに過ぎません。

しかし、三井家の中でも特別な作品として伝えられてきたことは確かで、明治20年(1887)の京都博覧会における、明治天皇への献茶席に際しても、この雪松図屏風が用いられています。また、多くの屏風が紙を継ぎ合わせて一扇分をなすのに対し、紙継ぎのない大型の画紙を用いている点も、本作が特注品であったことを想像させます。

作品の前に立つと木がせり出してくるような感覚を味わえる。
「実在感」の感じられる描写と空間を意識した画面構成が見どころ

円山応挙は一般に「写生の画家」としてのイメージが強く、見たままをリアルに、写真のように写すという印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。しかし実際の作品を観察すると、葉脈や羽毛といった細部にわたる詳細な描写を、必ずしも全てのモチーフに施していないことが分かります。

むしろ「実在感」、すなわち、まるでモチーフがその場に存在しているかのように描くことが優先されているようです。たとえば雪松図も細部を見ると、樹皮は陰影をつけて一枚ずつ描くのではなく、面的に用いられた墨と、線描によって適度に省略しながら描かれています。つまり、近くで見ると筆のタッチが分かるような描き方がなされているのですが、離れて見ることでそのタッチはたちまち樹皮に変化していくのです。当時の人々にとって、こうした視覚体験がイリュージョンのように感じられたことは想像に難くありません。

くわえて注目したいのは、空間を意識した画面構成です。応挙の作品に限らず、屏風に描かれる絵は一般に、立てた状態の凹凸を考慮して制作されます。たとえば雪松図の場合、右隻の松は太い幹が凸面に来るよう描かれているため、作品の前に立つと木がせり出してくるような感覚を味わうことができます。美術館でご覧になる際には、近付いたり離れたりしながら鑑賞するのと同時に、図録等で見慣れた、平らに広げた状態とは違った印象をお楽しみいただければと思います。

一流画家としての確固たる地位を築いていた円山応挙と三井家との関わり

三井十一家のうち、特に応挙との関わりが深いのは「雪松図屏風」の伝来した北家です。現存する作品から、四代・高美(たかはる)(1715-1782)の晩年にあたる明和年間(1764-1772)の終わりごろには、既に応挙と交友を結んでいたと考えられています。

交流のきっかけは不明ですが、当時の京で一流画家としての確固たる地位を築いていた応挙と、京住まいの豪商である高美とは、文化圏的に近しい位置にいたのでしょう。当館には、この高美が自身の弟の隠居を記念して応挙に描かせた「郭子儀祝賀図」(安永4年・1775)や、高美の一周忌に際して応挙が描いた「水仙図」(天明3年・1783)など、三井家との交流によって生まれた作品も伝わっています。

円山応挙「郭子儀祝賀図」
※こちらの作品は、現在開催中の「三井記念美術館コレクション名品展」には出品されておりません。
円山応挙「郭子儀祝賀図」
※こちらの作品は、現在開催中の「三井記念美術館コレクション名品展」には出品されておりません。
円山応挙「水仙図」
円山応挙「水仙図」

高美の死後も、三井家はパトロンとして応挙を支え、香川県の金刀比羅宮表書院の障壁画制作に際しては資金援助を行いました。

また、応挙亡き後もなお、その弟子たちが三井家に出入りし、絵画の注文を請け負っていたことも記録に残されています。京の文化を支える画家たちを継続的に支援することで、自身もまた、京の文化の担い手たる矜持を示していたのでしょう。

(三井記念美術館 学芸員 藤原幹大)


今回ご紹介の名画、円山応挙筆 国宝《雪松図屏風》は、2021年7月10日(土)より開催の「三井記念美術館コレクション名品展 自然が彩る かたちとこころ -絵画・茶道具・調度品・能装束など-」で観ることができます。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「三井記念美術館コレクション名品展 自然が彩る かたちとこころ -絵画・茶道具・調度品・能装束など-」
開催美術館:三井記念美術館
開催期間:2021年7月10日(土)〜2021年8月22日(日)
三井記念美術館 展示室
三井記念美術館 展示室
美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
三井記念美術館|Mitsui Memorial Museum
103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目1番1号 三井本館7階
開館時間:11:00~16:00(最終入館時間 15:30)
定休日:月曜日 ※祝・休日の場合は開館、翌平日休館、展示替期間、年末年始、臨時休館日

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