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名画・名品

近代絵画としての「日本画」を確立させ、日本の近代美術の展開を牽引した横山大観。インド旅行の体験から主題を得て生まれた作品「流燈」。大観の画業に転機をもたらした、名作誕生の経緯と作品の魅力を探る。

横山大観「流燈」 明治42(1909)年 絹本彩色 ※8月16日(日)まで展示
横山大観「流燈」 明治42(1909)年 絹本彩色 ※8月16日(日)まで展示

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この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩

私たちが普段、美術館や博物館に足を運ぶときは、あるテーマの企画展や特別展などを鑑賞しに出かけることが多いのではないだろうか。多くの美術館や博物館では、各館のコンセプトに沿って、絵画や彫刻、版画、工芸など様々な作品を収蔵している。それらの作品の購入や寄贈により、形成されていくコレクションがどのようなものか、あるいはそれらの収蔵作品がどのような変遷を経ているかなども、各美術館や博物館の個性や特徴を知って、より深く鑑賞を楽しむ手掛かりとなるのではないだろうか。
「この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩」では、そんな美術館・博物館の収蔵作品から注目すべき作品を1点ずつご紹介していく。

横山大観「流燈」 この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩 Vol.05 / 茨城県近代美術館

横山大観といえば、日本画の巨匠中の巨匠であるが、その大観の画業の中でも、重要な転機をもたらした1点がある。それがこちらの作品「流燈(りゅうとう)」である。

この名作を収蔵するのは、大観の生地、茨城県水戸市にある「茨城県近代美術館」である。横山大観という画家について、そしてこの名作が誕生した経緯と、作品の魅力について、茨城県近代美術館の首席学芸員 吉田衣里さんにお伺いした。

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横山大観《流燈》は、茨城県近代美術館のコレクションを代表する作品と言っても過言ではありません。そのため、当館をはじめとするさまざまな美術館での展示、印刷物などメディアへの掲載をとおして、ご紹介する機会の多い作品です。

当館にとって《流燈》が重要である理由の一つは、この作品が「茨城」と深いつながりを有する点にあります。茨城県立の美術館である当館では、作品を収集する方針の一つに「茨城ゆかりの美術」が挙げられています。明治元(1868)年に水戸で生まれた横山大観は、茨城が生んだ重要作家として位置づけられますが、《流燈》はさらに、茨城県北茨城市の「五浦(いづら)」という場所で描かれことからも注目されるのです。

大観に転機をもたらした名作の誕生

横山大観は、明治22(1889)年、東京美術学校(現在の東京藝術大学)の第一期生として入学して日本画を学び、卒業後は岡倉天心(1863-1913)が創設した日本画の研究団体「日本美術院」の中心的存在となって、下村観山(1873-1930)や菱田春草(1874-1911)など仲間と共に制作に励みました。しかし、岡倉の「空気を描く方法はないか」という問いに対して試みた大観らの無線描法が「朦朧体(もうろうたい)」などと称され、悪評をきわめます。日本美術院も経営が悪化し、その再建をはかるため東京から茨城県の景勝地である五浦へと移転することとなり、大観も仲間と共に同地へ移り住みました。

五浦の日本美術院研究所での制作風景 明治42年(1909)年 手前から木村武山、菱田春草、横山大観、下村観山
五浦の日本美術院研究所での制作風景 明治42年(1909)年
手前から木村武山、菱田春草、横山大観、下村観山

当時、五浦までは、東京から鉄道で約6時間かかる上に山越えの道を2㎞ほど歩く必要がありました。このようは人里離れた場所では新たに絵絹を求めることもかなわず、《流燈》を二尺幅(約60㎝)に描いて失敗した後は、手元にあった尺八幅(約54㎝)に変えざるを得なかったといいます。

このような環境下だからこそと言えるのでしょうか。制作に打ち込んだ結果、《流燈》は、明治42(1909)年に開催された第3回文部省美術展覧会へ出品するや、朦朧体の実験から一歩踏み出し人物画に取り組んだ意欲作として評価され、今村紫紅や安田靫彦ら若い画家にも影響を与えました。《流燈》は大観にとって転機をもたらした作品であり、大観の画業において重要な作品と言えます。

透明感のある色彩の中に丁寧に描かれた美しい女性像

それでは、《流燈》の魅力は、どこにあるのでしょうか?
一つには、中間色を多用した透明感のある色彩の中に、美しい女性を描いた作品であることが挙げられるのではないでしょうか。

手を合わせ、祈るような仕種で石段に腰掛け、あるいはたたずむ3人の女性。ゆるやかな弓なりの眉、上下とも曲線を描く瞼、そこからのぞく大きな黒い瞳、主張しすぎない鼻梁と控えめな小鼻、小さな口元が美しい女性たちです。

身につけた衣装の朱あるいはピンクとも言うべき淡い色彩、足元に散る花びら、そして花びらをつなぎ合わせたかぶり物の白、透き通るように白い肌、その輪郭線や隈取りには朱色が用いられて赤みを帯び、対して髪の毛や瞳の黒、宝飾品の金、赤、青、緑がアクセントとなって全体をひきしめています。

また、女性が身につけているインドの民族衣装サリーの細やかな模様。中央の女性の衣装のペイズリー柄もよく見ると、細かな蔓草が模様を描き出しています。そのほか、宝飾品や女性の指先なども丁寧に描かれています。

「流燈(りゅうとう)」という主題の由来

《流燈》は、遡ること6年前の明治36(1903)年に大観が訪れたインドで目にした情景を元に描いています。「流燈」という主題については、正装した未婚の女性が素焼きの器に火を灯してガンジス川に流し、器が沈まなければ前途が幸福になるといういわれを聞いたと後に大観は語りました。また、同地では滞在中、サリーの着用の仕方を実践してもらったほか、装身具については古い彫像や絵、写真を見せてもらったといいます。

それでは、《流燈》はインドに取材した情景を見たままに描いた作品なのでしょうか。
もちろん、そうではありません。大観は、様々な角度から翻案した新しい「流燈」を創出したといえます。本展会場にて作品の細部までご覧いただきながら、大観の新たな試みについて、思いを馳せていただけましたら幸いです。

(茨城県近代美術館 首席学芸員 吉田衣里)

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この作品、横山大観の《流燈》は、茨城県水戸市にある茨城県近代美術館で7月11日(土)から開催される 「名作のつくりかた」で観ることができる。(ただし、《流燈》の展示は8月16日まで)

この展覧会は、「名作は、いかにして名作になったのか――。」をテーマにしており、横山大観や菱田春草、中村彝など茨城県近代美術館の中でも特に重要な収蔵作品を中心に、素材や技法、構図などに着目し、作家が作品をどのように構想して完成へと導いたのか、制作の裏側を探る意欲的な試みの展覧会である。

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「名作のつくりかた」
開催美術館:茨城県近代美術館
開催期間:2020年7月11日(土)~2020年9月22日(火・祝)
茨城県近代美術館 外観
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茨城県近代美術館
〒310-0851 茨城県水戸市千波町東久保666-1
開館時間 10:30~17:30(最終入館時間 17:00)
休館日 月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)

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