総合芸術の温故知新―銀茶会2024―AUTAMN GINZAより
【茶道は総合芸術】
お茶を習っていた学生時代に先生から繰り返して言われた言葉です。
茶杓を持つタイミングとか、脚が痺れる(泣)とか点前を覚えるのに必死な頃は頭の中をスルーしてましたが、のんびりお客として少ぅしだけ周りを見る余裕ができた今、「う~ん、深いわぁ」とかつて聞いた言葉をしみじみと実感しています。
午後の銀座ギャラリー巡りの翌日は、銀座4丁目交差点を起点にした茶道各流派による野点手前の披露、【銀茶会2024】が催されました。
茶会参加で感じた日本茶道という総合アートの温故知新をレポートします。
毎年テーマを決めて、各茶道流派がそれぞれに野点手前(野外で複数相手のお点前)を30分単位で披露する銀座文化振興を目的とするこの茶会は今年で22回目を迎えます。
2024年のテーマは【嘻笑きしょう】朗らかに喜び笑い、銀座でのひとときを楽しむ事。
お客での参加は事前の申し込みが必要で、人数過多の場合は抽選になります。
ですが抽選漏れの場合でも、当日のキャンセル待ち枠が各回何名か分は確保されますので、気になる席で早めに待てば参加は可能です。
各流派の設えや道具を近くまで寄ってチラ見するのも楽しいひと時。
和敬清寂を心掛けつつも、毎回各流派が提供してくれるオリジナル和菓子はどうしても無視できず、どこの菓子の茶席に申し込み(1人1回限定)するかウンウン悩みます(笑)
……煩悩が強すぎる気がしなくもないです。
この日運良く参加の叶った二つの対照的な席についてご紹介します。
①表千家 薄茶席
会場:銀座三越の8階イベントスペース 菓子【みせばや】銀座風月堂謹製
お点前の披露は表千家。千利休の孫、宗旦の三男を祖とした流派です。
点前は「水が流れるように自然な動作」が望ましく、ありのままの自然体を善しとします。
唯一の室内席なのですが、特筆は茶席会場の創作茶席。
毎年日本建築学会が主催する”建築文化週間学生グランプリ銀茶会の茶席”コンテストで優勝した茶室デザインを学生が実際に造り、その会場でお点前をします。
今回のテーマは【鬼灯ホオズキ】。何百個もの薄い木の棒を円形にしたワッパを繋げて壁を造り、鬼灯が開いたような形に整えた茶室が美しいです。
しっとりとしたピンク色の白あんは優しい甘味で、中の黒餡が口の中で溶けていきます。。。。至福。王道の練り切り和菓子です。
茶室の傍には建築方法や工法、学生さん達の茶室デザインについてのパネル展示もあって、茶道における日本建築の重要さと、学びを活かした切磋琢磨を感じます。
床の間の設えや土壁、躙り口(にじりぐち)に網代天井、大黒柱、庭の露地デザイン等々、茶室は日本の建築史に欠かせない要素だと気づきます。
②裏千家 薄茶席
会場:銀座松屋横のマロニエ通り 菓子【煌輝こうき】東京風月堂謹製
お点前の披露は裏千家。千利休の孫、宗旦の四男を祖とした流派です。
ちなみに武者小路千家は宗旦の次男が祖なので、三兄弟で流派の祖になっています。
茶道の普及を掲げ、全国の教育機関の部活動でも積極的に広めている流派なので、学校の部活動はおおよそが裏千家。
点前は流れるような表千家よりも、ややメリハリが効いてるというか、所作の「美」を大事にしている印象です。
と言っても予備知識無く裏か表かの区別は正直分かりません。一番分かり易いのは抹茶の泡。
裏千家は茶筅で抹茶を点てる時に泡立ち推奨なので泡立ってることが多いです。表千家は泡立ちしない方を好んでいます。
点前も素敵ですが、この席の最大の魅力は使う茶道具が現役の藝大生徒や教員が作成した作品という点。
点前の最中に藝大の先生が作品解説される上に、道具の一覧も資料配布していただけるのでとても面白いですね。
一部紹介すると、床に飾る掛け軸を短冊を等間隔に並べて絵画のようにしたり、お湯を沸かす釜が鉄ではなくてステンレスだったり炭を入れる風炉の造形が見たこともないメタリック多面体だったりと材質や表現が本当に現代アートで見ていて楽しくなりました。
これまで見慣れていた道具の造形とは違う表現に、なんというか目から鱗な気分。
そしてお菓子(申し込み基準にしていたので大事です(笑))。王道の練り切り【みせばや】とは対照的な和洋折衷のお菓子【煌輝こうき】です。
抹茶フィナンシェを土台に、上にホワイトチョコと柚子ジャムを載せてサンドする蓋はマカロンという斬新さ!
しかもマカロン中央にはキラキラのラメが煌めていて、まさしく『名は体を表す』の菓子でした。
使う道具の様相が思い切り様変わりしましたが、それでも亭主の流麗な点前の所作は美しく、抹茶も美味しい贅沢なひと時でした。
芸事やアートの担い手の話で『温故知新おんこちしん』という言葉をよく耳にします。
過去の出来事や教えをよく調べて学び、そこから新たな知識を得るという意味の四字熟語。
おおよそ500年前に、千宗旦の一家から体系的に始まった茶道。
伝え続ける間に茶室は日本建築・日本庭園に結び付き、床の花は華道に、掛け軸は書道に、お香は香道、所作と着物は礼法に。
茶碗は陶芸、棗は漆芸といった具合に、【茶道】は日本美術の枝を広げる一大総合芸術となりました。
道具1つとっても戦国・江戸期にはないステンレス素材や化学染料を使った試みで、日夜アップデートしていく様は、まさに温故知新を地で行っている感が凄いです。
なので今後歳月を重ねた何十年後に生み出される茶道具も、今日見たものよりもまたもっと斬新だ!
と唸る姿に進化しているかもしれません。
賑わう銀座に集ってお茶を愉しむ人達が、これからも四季を愛でてお菓子や付随する芸事、技術を切磋琢磨していく限り、お茶の世界はもっと広く丸く広がるんじゃないかと思います。