2025年アート初め①【古典芸能×能】

快晴続きでカラッカラに眩い御来光を日本各地で迎えた2025年。
昨年に引き続き、元日明け早々に都内銀座SIXビル『観世能楽堂』を訪問。
『書初め』ならぬ『アート初め』は日本古来の神前舞踊発祥である能楽鑑賞です。
ここ数年毎年開催されている新春能は3部制で、誰でも先着順に鑑賞できるとあって、キンキンに空気の冷えた今年も整理券入手のために長蛇の列。
インバウンドの海外観光客と思しき方も並んでいて、なんか前より列が長くなっているような気がします。。。
朝の寒さに動きの鈍い私も人数枠に入れるのか不安でしたが、はじめから最終の第3部希望の為、鑑賞券を無事に入手できて一安心。

新春能第3部の内訳:①挨拶と解説②仕舞【弓八幡】【羽衣】【放下僧】③半能【土蜘蛛つちぐも】
仕舞は基本的に独りの舞。面(おもて)を着けずに素顔で舞います。
このプログラムでは前座的な意味合いの演目で、3演目でも1曲は5分もしませんし、切れ目なく続けての披露になるので体感時間としては『あっという間』という表現がぴったりだったように思います。
体感云々は別として、能楽に限らず日本古典芸能の愉しみ方は人それぞれでしょうが、私が実践している、というかそうなってしまうのは2パターン。
①= 『ちょこっと予習しとく』
古典の台詞を馴染みの少ない抑揚と音階で謡うので、演目が分かっているなら舞鑑賞に集中するにも予習をお勧めします。どういうシチュエーションか分かっていれば、能楽の衣の意匠だったり面だったり演出だったりと気が付くことも多いので。
そしてもう1つの真逆の愉しみ方。
②=『気持ち良くなって寝ちゃう』w
これは冗談ではなく学術的な根拠もあって、人間の脳を気持ちよくするαアルファ波(※)の波動範囲が能楽の謡の波動とバッチリマッチしているのです。
※α波=脳がリラックスしているときに優勢になる脳波の一種。
なので能楽鑑賞しながら気持ち良くウトウトする、記憶が飛ぶのも謡の効果を存分に堪能していると言えますので、それもまた善し。
私も正直言うと一瞬ちょっと意識がアヤフヤに。。。まぁ、古典芸能を堪能したんだと善しとします。

以下3つの仕舞演目をさっくり解説。
【弓八幡ゆみやわた】=定番の演目で、京都府八幡市の石清水八幡宮を舞台にした演目。
石清水八幡宮に参拝すると、神様が現れて颯爽と舞を舞って祝福するという内容で、お目出たいお正月にピッタリです。
【羽衣はごろも】=古来より人気演目で不動の地位を保っています。
元日のテレビ番組『~◎~格付けチェ◎ク』でも放映されていたので、タイトル知っている方も多かったかもしれません。
内容は美しい羽衣を持つ天女が海辺に降りたち、通りがかり(笑)の漁師と話をして舞を舞い、また天へ帰っていくお話。
【放下僧ほうかそう】=勧善懲悪というか敵討ちのお話。お正月の演目ではメジャーではないかもしれません。『放下』➡男性芸役者という意味で、中世の鎌倉⇒室町くらいまでは芸人+僧侶の放下僧は存在していたそうです。
芸人に扮したシテ役が芸披露にかこつけて敵討ちするので、体幹が一定で動きの控え目な能楽にしては動きが激しいです。

半能【土蜘蛛つちぐも】
今回の新春能で1番のお目当ての演目。主役のシテは観世流宗家の嫡男、観世三郎太氏が務めています。
室町時代末期に制作されたと言われている妖怪退治が題材で、能楽だけでなく、歌舞伎や歌川国芳の風刺浮世絵にも取り上げられているメジャーな演目です。
個人的に蜘蛛の糸が投げつけられる演出の派手さは、釣鐘の中に入って大蛇に変身する『道成寺』と甲乙つけ難いと勝手に思っています。
あらすじは武将・源頼光と家来たちが、蜘蛛の化け物を追って葛城山(かつらぎやま)に向かい、古い塚から現れた土蜘蛛の精に糸を投げかけられる攻撃を受けながらも応戦して、最終的に土蜘蛛を退治するというお話。
半能=半分の長さなので、ダイジェスト版の演出になっていますが、前置きが短くすぐハイライトの土蜘蛛vs源氏武者たちのバトルになり、糸の投げつけは3回くらいかと思いきや、2桁に届く程バンバン投げつけて舞台も3名の武将も糸で真っ白になり、その状態で抜き身の太刀を振り回す姿に圧倒されました。
そして歌舞伎とは違って、舞が終わっても幕が降りてこない能楽では、演者も謡い手も観客の前で静かに退場。衣装が真っ白けでまとわりつく糸が相当に動きにくそうですが、ブレない姿勢でしずしず下がっていく武将たちがさすがです。
舞台周辺には投げつけられた白い糸くずが散らばったままですが、満員の観衆は万来の拍手を演者達に贈りました。

さて、その後は解散になるのですが、写真を撮ろうと舞台に近づくと、観客の皆様が土蜘蛛の糸くずを我も我もと手に取っていきます。
え?掃除?と眺めていると、手に取った女性が「縁起物よ」と教えてくれました。
舞台横の松の枝に引っかかっていた糸をありがたくいただき、出入口に鎮座する真っ白な巳年仕様のダルマさんにお参りして会場を後にしました。
ちなみに後から調べたら、土蜘蛛の糸は厄除けになり、お財布に入れると金運アップの効果もあるんだそうです。金運アップ…ちょっとお年玉頂いた気分です。
2025年の乙巳きのとみ年は干支の意味で「再生や変化しつつも柔軟に発展」する年なんだとか。
再生や変化・・・おみくじのコメント同様、意味深いですね。
年明け早々の芸術鑑賞、縁起の良いスタートになった事を感謝しつつ、今年もアートとの新たな出会いと情報発信に勤しまねばと徒然思う三が日となりました。
※観世能楽堂では定期的な能楽の披露があるので、ホームページからもチェック可能です。
※観世流ホームページ=https://kanze.net/publics/index/267/