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明治のインバウンド・ジャパン需要に振り切った京焼【マクズウェア】宮川香山

初代宮川香山の代名詞はやっぱり【蟹】カニ

展覧会情報の中には無かったので、アートブログに失礼します。

異端レベルの個性を持つ工芸の匠、宮川香山の徒然レポートです。


高さ10cmの3Dレプリカ。持ち上げると驚きの軽さ。

関東の海の玄関口、横浜港を擁する横浜駅から徒歩10分くらいの、宮川香山真葛ミュージアム。

現在2024年の12月8日まで『でかっ、ちっちゃ』展というユニークな企画展が開催中です。

こちらは本来の展示品を全てミニチュアサイズ約10cmの3Dレプリカで造り、専用のQRコードを読み込んでアプリ起動すると、スマホ画面上に3Dレプリカ画像が出現するというバーチャル体験。

狸の置物や鷹の壺が自分のかざすカメラの中に現れて、サイズも指を動かして自在に動かせるシュールさと自由さにビックリ!( ゚Д゚)

今後の美術展覧会の形態の新た試みというか、実証実験みたいというか、最先端と言える展示スタイルにワクワクしました。


ミュージアム展示室

宮川香山、特に初代は本当に独特な作品で知られています。

ここで注意なのは、【『真葛焼』マクズウェア】と呼ばれた作品が横浜の太田開窯で宮川香山が作った特定品を指している事。明治時代、真葛焼は2箇所の窯がありました。

香山は、清水寺エリア=京都東山を拠点にする京焼の工房『真葛焼』四男坊の生まれですが、兄を相次いで亡くし陶工の後を継ぐことになりました。

その後に薩摩の御用商人からのお誘いを受けて京都を出奔。横浜に工房を開き『横浜真葛』として京都の工房から区別というか独立しています。今の老舗の暖簾分けなイメージでしょうか。

横浜の真葛焼と、京都の真葛焼。西も東も『真葛焼』

・・・なんだか福岡と東京の両方から銘菓と謳われるお菓子の【ひよこ】が思い浮かびます。

東と西の【ひよこ】は定番の美味しさと、仲良く(たぶん)ほぼ同じフォルムでどちらも不動の人気を誇り続けていますが、東西の真葛焼は行く末が大きく分かたれました。



【花瓶】という用途が打ち消されるくらいの貝の彫刻

横浜に移った香山は2年掛かりで陶磁器に適した土を探して眞葛窯を開き(なかなか陶磁器向きの土が無くて大変だった様子)、当初は自分の慣れ親しんだ白地に鮮やかな色彩を描く京焼の技法で作品制作を開始します。

しかし万博をきっかけにどんどん増える欧米諸国の趣向と需要に応えるべく試行錯誤を続け、陶器の表面をものすごい浮彫で装飾する「高浮彫(たかうきぼり)」という新技法を生み出しました。

ミュージアムの終盤展示室にはこの高浮彫作品がズラリと並び、圧巻です。

【花瓶】と銘打ってますが、どう見ても花瓶じゃなくてホタテ貝の立体彫刻にしか見えませんし、壺を覆うゴツゴツした質感そのままの岩石があったり、ふっくらフォルムの鳩がヒナに餌やりしてたり、土瓶に張り付くカエルなどは海外のコレクターが目の色を変えて蒐集したそうです。

鉢に蟹が張り付いた褐釉蟹貼付台付鉢〈かつゆうかにはりつきだいつきばち〉は、国の重要文化財にも指定され、香山は陶芸分野では二人目の帝室技藝員(戦前まで宮内省が顕彰した名誉職)に任命されます。

しかしこの一世を風靡した高浮彫作品は、制作に大変な時間と手間を要すため、晩年の香山は輸出に効率が悪いと染付タイプに作品を一新しています。・・・あんまり作品へのこだわりは無い?

しかしちょっと調べると、二代目香山は初代についてのコメントで『(初代は)受注依頼を断る事はほとんど無く、断る前に、まず依頼主の希望通りにする為に何をすべきか考えろ』と言われたのだとか。

自分の美意識の発露ではなく、クライアントの満足以上の品を制作しようと突き詰め、納期も考慮する香山は芸術家よりも徹底したメーカー職人を感じさせます。

だからこそ日本最高峰の美術として求められた【マクズウェア】なのでしょう。


手間の掛かり過ぎる高浮彫は晩年染付に変更

こうして欧米需要に振り切り、突出した『横浜真葛』ですが、太平洋戦争末期の大空襲で当代香山は被災して死亡、工房も全焼して継承はかなわず途絶えてしまいました。

元々輸出の為の制作なので、香山の作品はイギリスの大英博物館、フランスのギメ美術館を始めとする世界各地に散っていて日本に残ったものはごく僅か。

現在、横浜のミュージアムに揃って展示されているのは眞葛・香山研究を続けてこられた田邊哲人(たなべてつんど)氏の尽力に依るところが大きく、今回の展覧会にも展示された3Dレプリカ等新しい試みを含め、今後も活動が注目されます。


京都の真葛焼 宮川香齋ギャラリー入口

一方で枝分かれした京都の真葛焼と宮川家は今も東山を拠点に連綿と続き、茶道具を中心に創作活動を続けています。

そしてかつての香山のように、現6代目宮川香齋の後継である宮川真一氏は、京焼の魅力を世界へ発信すべく十数年前から欧米での作品発表を行っているのです。

宮川氏は作品発表を単独ではなく、『茶の湯』という共通項の異業種の方とのグループ発表でより活動に手応えを感じているそうで、現在の日本観光人気のインバウンド影響もあるのか

パリで商品を購入するケースと同様に京都の店舗兼ギャラリーを訪れるお客様も増えているとのこと。

伝統的な京焼スタイルの『真葛焼』ですが、世界進出に躍進する気概は香山の【『真葛焼』マクズウェア】にデジャヴュを感じずにはいられません。

失われた香山を惜しみつつも、末広がりな未来を感じさせる京の真葛焼の躍進に心からエールを捧げたいと思います。


◆宮川香山眞葛ミュージアム◆

〒221-0052神奈川県横浜市神奈川区栄町6-1

TEL:045-534-6853

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開館時間

10:00 〜 16:00

開館日

土曜日、日曜日のみ開館 (但し年末年始など休館あり)

入館料

大人 800円/中・高校生 500円/小学生以下 無料


◆真葛焼 宮川香齋◆

〒605-0873 京都市東山区下馬町484

TEL:075-561-4373 / FAX:075-525-2360



プロフィール

uchiko
美術と骨董、宇宙と化石を愛でるアートウォッチャー。
カロリー消費に美術館、仏閣、史跡散策をして、終わればまったり食べて補給。
2022年よりインスタグラムとこちらのサイトでアートウォッチの記録始めています。
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