歌舞伎の一大イベント【襲名】

端午の節句に鑑賞した五月大歌舞伎。
華々しい【襲名】のレポと伝統芸能の徒然草。
2025年春。歌舞伎の名門【音羽屋おとわや】2世代の襲名が発表されました。
ひとりは尾上丑之助うしのすけ(12)君⇒尾上菊之助きくのすけ。
そして父親の尾上菊之助きくのすけ(48)氏⇒菊五郎きくごろうを名乗ります。
文楽や歌舞伎、落語といった伝統芸能の担い手は出世魚のように名前が変わる、というよりも先達の名跡を継いでいく習わしです。
ちなみに祖父の菊五郎(83)氏は変化しないので、2名の『菊五郎きくごろう』がいることに。2名体制は珍しいとのこと。
芸能ニュースや今季の大河ドラマでも【襲名】という単語をよく耳にしますが、そもそも【襲名】とは何ぞや?
と、私も興味を持つまでスルーしていた言葉。ちょこっと調べるだけで、けっこう日本史を肌で感じられる行事なのです。
世襲や襲名で使う「襲しゅう」という漢字は襲う「おそう」など物騒な読みが宛てられがちですが「かさねる」という意味を持っています。
なので、先代の芸事の技術や精神を受け継いで、気持ちも新たにさらに名を襲ねるのが【襲名】。
今回の【音羽屋】の尾上菊之助・菊五郎のお披露目豪華歌舞伎演目が示すように、【襲名】は歌舞伎界あげての一大イベントです。
興行に先だってマスコミ発表して広く周知し、スポンサー企業へのご挨拶、ご先祖への墓前報告、他家門への周知と調整、お練りや記念品作成など諸々経済(お金)も生み出す大行事になります。

大河ドラマでも吉原の花魁が『瀬川』という名跡を継いだエピソードがあり、襲名の時には、吉原細見(ガイドブック)の売上げが爆上がりになるとのひとコマもありました。
今回は襲名の記念も兼ねて、歌舞伎界大御所の【成田屋なりたや】と【音羽屋おとわや】のコラボレーションで常に注目される團菊祭大歌舞伎がよりバージョンアップすることに。チケットも完売日続出しています。
ちなみに「團菊祭」というのは、9代市川團十郎と5代尾上菊五郎(2025年1~3月まで静嘉堂文庫で開催の豊原国周生誕歌舞伎を描く展で紹介されていた、三井財閥会長夫人が熱烈に推していた花形役者。7代目菊五郎の曽祖父。)の2大スターから始まった、毎年5月恒例の演目です。
豪華メンバーによる王道のお目出たい演目ばかりで、鑑賞側からすると全演目がメインディッシュというか、眼福な内容になっています。
今回鑑賞できた【昼の部】豪華なラインナップの簡略紹介。

①寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)
三番叟は能楽由来のお祝い舞踊で、1番目の『翁おきな』と2番目の『千歳ちとせ』に続く3番目という意味合いですが、演目名になっており、五穀豊穣を祈る舞踊です。
ここでは五穀云々よりも襲名披露を祝い、公演の無事や盛況、技芸発展を願う意味でしょう。
音羽屋一門や所縁のある若手の5人が黒・黄・緑・青・紫と色鮮やかな狩衣風衣装(なんだか戦隊ヒーローのよう)で足を踏み鳴らし、扇子や巫女舞で使うような鈴を使って舞台を所狭しと練り踊ります。これが多分20分くらい長く、息つく間もなく続くのが圧巻です。
②歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
江戸時代末期の七代目市川團十郎が市川宗家のお家芸として選定した、18個の歌舞伎演目でもトップクラスに有名な演目。
源義経一行が奥州(東北地方)に逃避行の際、関所突破を掛けての攻防の一幕です。
関所を守る冨樫左衛門を菊五郎、義経一行で交渉役となった武蔵坊弁慶を團十郎白猿が演じています。
同年代の八代目尾上菊五郎と十三代の市川團十郎、二人の顔合わせの勧進帳はハイライトというか、これぞ歌舞伎!と太鼓判押したくなる素晴らしい舞台。
團十郎の市川家お家芸『にらみ』も披露され、無病息災にあやかれたら良いなぁと思います。縁起物なんですよね。
しかし八代目菊五郎氏の冨樫左衛門の声、もの凄くよく通ります。『朗々と響く』とは正にこのこと。
③三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)
同じ吉三郎という名前を持つ3人の悪人(善人じゃない所が笑)が出会って、意気投合して義兄弟の契りを交わす場面。
非常に長いお話の有名な場面のみ上演。歌舞伎では長いお話のハイライトだけ上演するのもよくあります。
なので前後の話がわからないとちょっと不思議にも見える演目です。
この悪党三人組が誕生する名場面の見得がすごくカッコ良くて舞台映えします。
台詞にも「こいつあ 春から縁起がいいわい」という言葉があるので、もの凄く華のある場面を堪能。
④京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)
ハイライト連続の演目のオオトリというべき、これまた“超”有名どころ演目。
桜が満開の道成寺というお寺で、鐘供養の日に現れた美しい白拍子。
舞を披露していましたが、正体は鐘に取り憑く蛇の化身で、最後は鐘に巻き付いて終了というストーリー。
通常白拍子は1人ですが、今回は菊之助、菊五郎に加えて人間国宝坂東玉三郎氏が加わる3人の超・豪華バージョン。
めちゃくちゃ眩い…。
大名跡を継いで今が盛りの菊五郎氏とティーン世代特有の華奢で可憐な菊之助氏に加えて、女形最高峰で国宝の玉三郎氏。
冗談抜きに後光が指しそうなキラキラしさ全開でした。最後に3人が釣鐘の上に登って見得を切る姿は圧巻です。

襲名した役者がお客様に今後の抱負を語る「口上こうじょう」は夜の部になりますの見聞できませんでしたが、
名を継いだ役者達の決意のほどは、舞台でばっちりしっかり感じ取れるひとときでした。
『名は体を表す』という言葉があるように、それぞれ名跡を継いだ役者さん達が、どのような【菊之助】と【菊五郎】で観客を魅了していくのか、
視界いっぱいに拡がる襲名記念緞帳『雲上富士』が幕を開ける度に行く末への期待と、名前を繋ぎ伝える日本独自の芸能スタイルを噛みしめました。
公演は5月27日まで続きます。
お目出たさを極めた襲名記念歌舞伎、ぜひ一度訪問鑑賞お勧めします。
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尾上菊之助改め 八代目 尾上菊五郎襲名披露
尾上丑之助改め 六代目 尾上菊之助襲名披露
團菊祭五月大歌舞伎
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