非凡な関雪、時間を留めた『昭和』を覗く
泉屋博古館に続き、今回の旅路での目的地のひとつ、【白沙村荘】訪問です。
◎十年京都に通ってるクセになんと初の訪い(-_-;)。
何度か目的地の1つにピックしてたんですが、何故かいつも優先順位が繰り下がってました。今思うと謎です。。。
橋本関雪の生誕140周年を記念して京都三館(東山の白沙村荘 橋本関雪記念館・嵐山の福田美術館・嵯峨嵐山文華館)の共催展というスペシャル企画を教えて頂き、3館全部!!・・・は時間に限りがありましたので、今度こそせめて1箇所!と泉屋博古館とハシゴしました。
庭園と記念館込みの入場料は1300円ですが、薦められるまま和菓子+抹茶付き2500円にランクアップw
暑い中ボーっとしてせいか自分の欲望に忠実になっていく気がします。。。でもせっかくの京都ですしね←旅人がよく使う言い訳(笑)
呈茶は関雪が居住スペースにしていた主屋(おもや)の瑞米山(ずいべいさん)にて。
玄関正面には来客を迎える金屏風が鎮座して、中央には釉薬の美しい花器に活けられた青や白の涼し気な紫陽花、半夏生といった初夏の草花。
花器の脇には可愛らしい青磁らしきウサギの陶器人形。【ようこそ・・・】と聞こえた気が。。。暑さの幻聴かも(笑)
呈茶席は40畳くらいのリビング+ダイニング空間にテーブル席が配されて、床の間には関雪の代表作《玄猿》の掛け軸。
壁際には乳白色のガラスランプが飾られて、大正レトロの美空間に霞んだ頭が完全覚醒しました!素敵すぎる!
他のお客様ゼロで貸切り状態にちゃっかり眺めの良い席を確保。涼んでいると、しずしずお茶とお菓子がやってきました。
白地に紺の波濤模様のテーブルクロス、ガラス製菓子皿に菓子に添えられた青紅葉も涼し気で・・・旅人が求める【京都】という非日常は正にここだ!と大福をもちもち嚙みしめながら浸ります。
ガラス窓の向こうで揺れる桔梗と石仏眺めて、枯渇した自分のバッテリーがみるみる補給されたので改めて散策スタート。
7400㎡(2000坪ちょっと)におよぶ池泉回遊式庭園は本当に広いです。池のほとりを散策して、蓮の葉にを囲むように配された四阿と2つの茶室を外から拝見。
小径には関雪が蒐集した石塔や羅漢仏が苔むした中に点在し、庭園中央には制作に勤しんだ【存古楼そんころう】画室が剣道道場のような広さで鎮座しています。
訊けばこの白沙村荘は庭園も建物も設計は関雪がこなしたとか。隣の哲学の道に桜植えたのも関雪だし、センス抜群、万能のルネサンス人ですね。
存古楼の縁側でふよふよ近寄る蚊を扇子で祓いながら、東山の一等地に東京ドームサイズの庭園を構える関雪の非凡さに圧倒されました。
本来の目的であった記念館の絵画は:《後醍醐帝》絹本着色 六曲一双屏風:など、伸びやかで大きなサイズの人物画は映画のワンシーンのように情感豊か。
この他代表作《玄猿》《旭日海波図》《南国》等、メインディッシュ並の作品が並んでいます、豪華。
しかし傑作揃いの中にあって、今回は単純な感動だけでなく昭和という時世を考えてしまう2作品をピックアップします。
①《俊翼しゅんよく》 軸装 1941年 福田美術館(旧山本憲治コレクション)
画面いっぱいに翼を広げて力強く海上を飛翔する鷹が美しいです。
猿、馬、狐など動物を描くのが巧みな関雪ですが、この鷹にも活き活きとした強さを感じます。
出品したのは1941年(昭和16年)の「橋本関雪聖戦記念画展」。この年は日本がアメリカ相手に宣戦布告した開戦の年であり、出品展覧会の『聖戦』から察してしまいますが、この作品は戦闘機を意識したオマージュなのでしょう。
力強く海を越える鷹の姿は美しいのに、開戦直後の威勢の良い国威発揚(プロパガンダ)が連想されて、魚の骨が喉につかえたような違和感を感じてしまいます。
関雪は藤田嗣治(レオナール・フジタ)のように従軍はしてないので、現場の泥臭さのようなリアルさは乏しく、余計にフィクションの美しさが際立つ作品ですね。
ちなみに制昨公開から82年ぶりの再公開。82年て・・・今回の展示を2回目に見るって人は果たして存在するんだろうかと疑問です。
②《香妃戎装こうひかいそう》 額装 1944年 衆議院蔵
いろんな意味で見たかった本展のお目当て大本命です。現在も国会の衆議院議長室に飾られている一般非公開の作品。
ひと言で言うなら戦装束の美人画。鎧を纏った黒髪の美女が犬を従えて短剣を握り締めています。
くっきりとした目鼻立ちは東洋的ですが、手前の大型ワンコがアフガンハウンドやボルゾイのようで西洋的でもあり多国籍な印象。
関雪自ら衆議院へ寄贈した制作年を確認すると、1944年(昭和19年)。終戦の前年です。
・・・・世相を考えるとうっかり川魚の内臓を食べたような苦い気持ちが湧いてきます。絵の美しさに反比例するかのように。
戦争末期は劣勢を隠すプロパガンダが盛んに叫ばれて『進め一億火の玉だ!!』(そもそも当時日本人口1億人いないのにサバ読み)とかもう男も女も子供も敵に当たって砕けろ推奨な意味不明の気運だった時期です。
作品モデル【香妃】は中国の乾隆帝に捕虜として献上されたウイグル族の王妃。清王朝に敗れて夫は戦死。
乾隆帝の捕虜→一目惚れ→後宮入り。しかし夫への貞節を守って寵愛を拒否、懐に短刀を忍ばせていたという伝説が残っています。
貞節を守る美女という図は、戦争末期の日本の女性に『かくあれかし』との範を示し、それを善しとする意図だとするとやるせない。当時の時世を考えれば当然なのですけど、古い価値観の象徴のようで、美人画の魅力に浸りきれないんですよね。。。
2022年の日本は世界男女間平等調査で146か国中125位。先進国中ぶっちぎりの最下位を爆走中で、「政治参加」の評価は女性割合が衆議院議員で10%、閣僚では8.3%の世界138位でこれまた海底並みの超底辺。
進歩の無さは昭和から時間が止まってるようです。絵が飾られている衆議院議長室の主は歴代78人いましたが、女性は土井たか子氏たった1人。
ほぼ男しかいない議長室に80年前の女性規範が飾ってあるのは皮肉が効いてるというか、効き過ぎというか。
せめて一桁年数以内にはこれを眺める女性が現れてくれないかと控えめながら願ってしまいます。
古き良き時代と懐かしまれそうな白沙村荘と、同じ時代の負の側面も考えさせられる橋本関雪記念館。
濃ゆい京都の1日となりました。。。。
【概要】生誕140周年 橋本関雪 KANSETSU -入神の技・非凡の画-
会期 2023年4月19日(水)~2023年7月3日(月)
※終了しています
【次回展示】
「美術と風土〜 アーティストが触れた伊那谷展」
2023年7月16日(日)〜8月13日(日)
※橋本関雪の作品展示を一時休止。