2023年 現代アーティストの課外授業は刺激的【ワールド・クラスルーム】
酷暑気温のまま夕方になる中、訪問しました森美術館開館20周年記念の展覧会「ワールド・クラスルーム」。
現代アートを国語・社会・哲学・算数・理科・音楽・体育・総合の8個の授業項目に分けて、各自の世界が表現されています。
出展しているのは国内外から全部で約50組のアーティストで内容もけっこうなボリュームです。
じっくり見てると2時間はあっという間、サクサクしっかり見て4時間コース。じっくりだと1.5倍かも・・・時間に余裕を持って行くのをお勧めします。
五感に訴える現代アートはどっかの映画のセリフではないですが”考えるな 感じるんだ”を前提に鑑賞してるので、体感できる出会いが面白いです。
ちなみに会期半ば過ぎた8月上旬の平日夜は空いていて、見栄えの良い写真も撮りやすいです、満足w
アーティストの授業の中、独断で出色な鑑賞推奨作品をいくつか。
◆森村泰昌『モデルヌ・オランピア2018』2017‐18:大型写真パネル。エドゥアール・マネによって描かれた『オランピア』パロディ。
写真家の森村氏自身が娼婦とメイドの2役やってます。左隣には『肖像(双子)』という、旧バージョンの同じ構図がありますが、最新版の方が色彩構図とかインパクトとか大きいですね。
2018年の作品集刊行に寄せた森村氏のコメント
『自分自身の手によって、歴史を再構成してみたいという欲望があります。(略)当然の事実として歴史を受け入れることに抵抗を覚え、歴史=権威を壊してしまいたいと考えています。
ちょうど子供がおもちゃを壊したくなる衝動に近いかもしれません。子供は(略)大人から遊びかたを指導されるのを拒否して(略)勝手気ままな組み合わせを楽しみ、自分自身が満足の行く「子供の王国」を作り上げて行く。
私の芸術表現は、子供の破壊と再創造の行為の延長線上に位置しているのかもしれません。』
上記の考えを知ってから作品を見返すと、
●全裸の白人女性娼婦 → 東洋人で花魁ヘアスタイルの男性
●ふくよかな黒人メイド → シルクハット(紳士設定?)の東洋人
●黒猫(生物)→ 招き猫!(陶器)
マネの『オランピア』発表当時、裸体女性モデル(ヌード)を女神や聖母のフィルター掛けをすることで【性】への後ろめたさを誤魔化していたことに対して、マネは娼婦を堂々と前面に出すことで現実の性差別を問題提起していました。
この作品では更にその性差別な固定観念を壊し、人種やジェンダーな問題提起をしているように見えます。既定を壊す森村氏らしいなと思います。
◆田村友一郎『見えざる手』2022
私的に今展覧会ではNo.1に推したい作品。
ライトセーバーを振り回す某SF映画のエピソード0.5のような、歴史イベントの裏側を暴露するショートフィルムを見ている気持ちで上映20分凝視しました!面白いです。
映画館のような真っ暗な空間の横壁に、リヤドロ陶器人形のような中年男性6体の人形の頭部だけが並びます。
日本の陶器産地、瀬戸人形のようで、真っ暗な空間に白の陶器人形の首6つ、既にホラーの様相です。
正面の壁には等身大の縦長鏡サイズのモニターが3つ横並びになり、画面に各1人の真っ黒なの黒子(くろこ)が立っています。
お話としては、過去の経済の偉人亡霊3人が、日本経済失速の原点と言われる1985年の「プラザ合意」について暴露と考察をしているもの。
ナレーションの合間には人形浄瑠璃舞台のような琵琶や三味線の相の音が入り、独特の世界観です。
6体の人形になったプラザ合意出席者は、顔は似せてますがマイセン人形のような18世紀の貴族衣装。前時代なファッションは見通しの甘い時代錯誤という意味なのか、エスプリが効いてます。
そして唯一のアジア圏からの参加者は消費税を導入した亡き竹下登元首相(=当時大蔵省)。
ひとりだけ何故かゴルフウェア。。。。ものすごい違和感、場違い感です。
他5人がヨーロッパ宮廷服なのになんで1人だけ、、、しかもゴルフ?
意味づけを疑いましたが、どうやら実際にマスコミの目を欺く為に竹下元首相(当時大蔵大臣)はゴルフバッグを抱えて出発し、成田空港近くでプレーしてから飛行機乗って出席したんだとか。
そこまでして参加した結果が欧米都合に振り回されて日本経済の失速って、、あ、コメントは差し控えますが強烈な風刺が伺えます。
とにもかくにも田村氏の世界観の独自性は際立っていました。
◆杉本博司「観念の形」シリーズ 2004
日本の写真家にして現代美術作家、建築家、演出家とマルチタスクなアーティスト杉本氏の作品。
モノクロの立体模型写真は数理模型という、三次関数の数式を立体的に表したもの・・・だそうです。
立体の横に小さく数式が書かれていますが、数学鬼門の私には判別不可能なので、この数式を立体にするとこうなのか!とひたすら感嘆です。
ふとこの展覧会の前に行った、ガウディ展を思い出しました。捩じれた円柱形や円錐、数式を目に見える形に出来る数理の世界。
数式なのに、見る人によってはこうした立体形が思い浮かぶのが面白いです。
この他のベトナムアーティストによる戦後のミサイル跡池写真、さっぱり謎なポーランド重量持ち上げドキュメンタリー映像、照明多用のオブジェなど、個性のサラダボウルのようなワールド・クラスルーム展。自らの感性に刺さる作品を見つけに訪問推奨します。
最後に、本展覧会鑑賞の機会を頂きましたこと、事務局様に感謝申し上げます。