ご当地の魅力をアートでブラッシュアップ。ホテルアートの世界@ザ リッツカールトン 日光
近年インバウンドの波に乗るぞ乗せるぞとばかり、日本各地(特に観光地)に雨後のタケノコのようにホテルがぽこぽこ乱立していますが、数が増えれば特色が出てくるのは自然な流れ。
ホテルの魅力を芸術に特化し、期間限定のギャラリーやアートスペースを設けたり、立地を象徴する作品を置き話題になっているのがホテルアートです。
ご当地と提携したイベントを開催するなど【旅×アート】の魅力は行き先決定の切っ掛けにもなる程で、ホテルという場で完成された世界は美術館とはまた別の趣き。
がっつりアーティストが全面に出ているベネッセハウスミュージアムホテルのケースもありますが、今回はホテルが観光地の魅力を増し増しする例をご紹介。
それが栃木県日光市、中禅寺湖のほとりに建つ外資系ホテル『The Ritz-Carlton,Nikko』ザリッツカールトン日光です。
世界に点在する系列ホテルで唯一温泉施設を構える館内には大小合わせて200以上のアート作品があり、様々な角度から『日光』『中禅寺湖周辺』という自然豊かな地の魅力を静かにアピール。寛ぎつつも発見を愉しむアート作品を何点かピックアップします。
『鳴巌めいげん』和紙:岩絵具 180 x 360cm春原直人すのはらなおと作
設置場所:1階ロビースペース。アフタヌーンティーおよび軽食利用時鑑賞可能。
寛ぎ場所の1階ロビーエリア中央に掛けられた巨大日本画は、新進気鋭の日本画アーティスト、春原直人氏の作品。
余白に質感を感じるモノクロの壁面に、真っ白な朝靄の中から厳然と現れる黒岩の山脈のような、粛然とした存在感が凄いです。
作品に近づいてみると、黒の顔料の箇所が妙に膨らみキラキラと光っています。これは天然の鉱石を砕いて使用する岩絵の具を使用している為だそうです。
私は岩山のイメージを受けましたが、水墨画の竜のように見えると仰る鑑賞者もいらっしゃいました。
春原氏は2020年に東北芸術工科大学大学院修士課程芸術文化専攻日本画領域(舌噛みそう。。。)を修了し、現在も山形にアトリエを構え制作を続ける未だ20代!の若きアーティスト。
作品対象の山中に分け入り、フィールドワークで感じ取った感覚を作品画面に反映させ落とし込むという制作方法をとっており、この絵も中禅寺湖近くに聳える男体山に登って感じた事を作品に映したんだそうです。
ちなみに作品前スペースはアフタヌーンティーの時間帯はホテルスタッフがオリジナルの緑茶を淹れる場所にしていて映画の1シーンのような佇まい。。。
※現在春原氏は5/26(日)まで、岡山県のギャラリーにて個展開催中です。お近くの方はぜひ。
https://www.instagram.com/p/C5xrz4KyAzz/?img_index=1
『扉(四季・春)』木製:平野工芸社(平野秀子ひらのひでこ×平野央子ひらのちかこ)作
設置場所:1階和食レストラン内。飲食利用時鑑賞可能。
便宜上表題をつけましたが、これはインテリア用途なので本来タイトル表示はありません。
が、一目見て「うわぁ」と感嘆の声が出てしまう木工彫刻作品。全面に日光周辺で見られる四季の草花を彫り込んだ素晴らしい日光彫工芸です。
東照宮や日光のお土産屋さんにも並ぶ日光彫は、元は江戸時代の東照宮造営に関わった大工さんが手慰みに興したと言われるこの地域の伝統工芸。
2mを超す扉の全面に桜、ニッコウキスゲ、シャクナゲ等が写実的なものとデザイン寄りそれぞれに美しく彫られています。
深い陰影がものすごく立体的で、これはインテリアの用途なので遠目からも彫刻が分かるように特に彫りを深くしているそうです。
制作した平野工芸の平野秀子さん・央子さん親子は女性初の日光彫職人だそうで、昨年の日光で行われたG7先進国会議でも贈答品として各国首脳にフォトフレームを贈られたのだとか。
現在はお店自体は閉められていますが、注文生産や実演販売でお見かけできるとの事。
『』襖絵:浅見貴子あざみたかこ作
設置場所:1階和食レストラン受付。出入り時に鑑賞可能。
こちらもタイトル不明ですが、ホテル敷地内の樹をモチーフに描かれたという水墨画。
作者の浅見貴子氏は埼玉県出身および在住の日本画家。
2004年のVOCA展選出、2度の日経日本画大賞受賞を経て、大原美術館を初めとしたミュージアム、都内のホテルにも作品を収めており、現在は武蔵野美術大学の非常勤講師も務めています。
彼女の作品はすぐにそれとわかる描き方が特徴的です。和紙の裏から葉っぱを点々とした墨で描き、紙をひっくり返して表に直接描く墨と併せて作品を創り上げます。
春原氏同様、和の空間にマッチしたさり気ない、けれど独特の存在感です。彼女の作品は他にも見る事ができるので、要チェックですね。
※浅見貴子氏HP https://www.takakoazami.com/」
ちなみに浅見氏の作品の中央部に端然と置かれた雫型の花器は、益子焼陶芸の人間国宝 濱田庄司氏のお孫さんで同じく益子焼陶芸家、濱田友緒氏の作品。
※濱田友緒氏FB https://www.facebook.com/people/%E6%BF%B1%E7%94%B0%E5%8F%8B%E7%B7%92tomoo-hamada/100063538303566/
『中禅寺湖』オブジェ(板・浮き〈釣り具〉製)『水鳥』ガラス製
設置場所:メイン棟に隣接のレストラン【レイクハウス】2階受付。出入り時に鑑賞可能。
敷地内の創作/イタリアンレストランの【レイクハウス】内のアートですが、こちらも本来タイトル表示はありませんので仮命名です。
壁に掛けられている絵に近づいて見ると、色鉛筆のようなものが1本1本縦に突き刺っていて、離れてみると中禅寺湖の湖と解ります。
湖部分の青色でも色に変化があるのは、水深を表しているのだそうです。
しかもよくよく鉛筆(?)を見ると、突き刺さっているのは鉛筆ではありません。見慣れない形状を尋ねると、釣りで使う【浮き】と呼ばれる道具なのだとか。
もっと細かい事に気づく人の中には、無数に突き刺さるカラフルな【浮き】の中にたった1本だけ、金色のものが紛れているのが分かるそうです。
探してみてください(^^)、と持ち掛けられた制限時間(10秒(笑))では判別できずギブアップすると、やや端のほうにさり気なく輝く金色が!
周囲に溶け込み過ぎて分からないですけど。この1本がホテルの場所を表しているそうです。
壁に飾られた湖の手前の受付カウンターにはフィンランド製の水鳥ガラスアートが鎮座して、湖と水鳥から中禅寺湖をアピール。
高い天井を見上げれば、照明のシェードの内側には魚のイラストがぐるりと描かれているのが見えます。
この照明も湖での釣りをイメージしていて、照明の上のステンレスアーチが釣り竿、照明のシェードは水の中を表していて演出が細かく心憎い。。。。
他にも金属造形家の留守玲氏の『赤』をテーマにした鉄のオブジェ、日系アーティストのコリン・K・オカシモ氏が制作した花崗岩・砂岩等個別素材で異なる3つの【男体山】を表現した作品(軽くても2.5t⁉)散見します。
また、かつて中禅寺湖の畔にあった旅館の東照宮の『千人行列』板絵を再利用したフロント壁面のインテリアや小さな子供がはしゃいで座り込んだ壁面の長椅子が2019年に逝去した現代彫刻家の田中信太郎【波の門】という作品だったりと、あまりにもさり気なく、けれど『日光と中禅寺湖』のテーマをしっかり体現したアートに旅の実感がしみじみとジワジワと、気持ち良く湧いてきます。
気持ち良い旅の実感が5割増しになるホテルのアート鑑賞。ちょっと奮発しますが、これも旅をより満喫する手段のひとつ。
他のホテルアートはどうなのかしらとムクムク旅心が膨らみます。
インバウンドの追い風に乗って、今後の旅の世界が広がりそうです。