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美のハンターが集めた名品にうっとり
特別展 大阪市立東洋陶磁美術館 安宅コレクション名品選101

泉屋博古館東京にて、2023年5月21日まで開催

内覧会・記者発表会レポート

展示風景より 《加彩 婦女俑》(部分) 唐時代 8世紀 大阪市立東洋陶磁美術館(住友グループ寄贈/安宅コレクション)
展示風景より 《加彩 婦女俑》(部分) 唐時代 8世紀 大阪市立東洋陶磁美術館(住友グループ寄贈/安宅コレクション)

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世界有数の東洋陶磁の名品を有する大阪市立東洋陶磁美術館の中核をなす「安宅コレクション」は、ひとりの「美の求道者」によって25年の歳月をかけて収集された。日本に伝わる中国陶磁のなかで、国宝に指定されている天目茶碗は五碗ある。同館はそのうちのひとつ、国宝《油滴天目 茶碗》(ゆてきてんもく ちゃわん)を所蔵する。泉屋博古館東京で開催中の「特別展 大阪市立東洋陶磁美術館 安宅コレクション名品選101」では、至高のコレクションから選りすぐりの逸品が展示されている。

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特別展 大阪市立東洋陶磁美術館 安宅コレクション名品選101
開催美術館:泉屋博古館東京
開催期間:2023年3月18日(土)~5月21日(日)
見込みに広がる小宇宙。国宝《油滴天目 茶碗》南宋時代 12-13世紀 大阪市立東洋陶磁美術館(住友グループ寄贈/安宅コレクション)
見込みに広がる小宇宙。国宝《油滴天目 茶碗》南宋時代 12-13世紀 大阪市立東洋陶磁美術館(住友グループ寄贈/安宅コレクション)
展示風景より
展示風景より

「安宅コレクション」とは、安宅産業株式会社の会長であった安宅英一 (あたかえいいち 1901-1994) 氏が収集した中国陶磁、朝鮮陶磁を中心とする961件を指す。安宅産業はかつて大阪に存在し、日本の戦中戦後に十大商社の一翼を担った大企業のひとつで、企業の社会的還元と社員の教養の向上を目的に、会社の事業の一環として美術品の収集を1951年から25年かけて行っていた。ところが、1975年、安宅産業の経営破綻によりコレクションは散逸の危機に直面。世界に類を見ない貴重なコレクションの行方は、当時の国会で取り上げられるほど話題となったという。そんなとき、同じく大阪を本拠とする住友グループ21社(当時)がコレクションの買い取り資金を大阪市に寄贈し、美術館の建設に寄与した。そして1982年、大阪の中之島公園内に誕生したのが大阪市立東洋陶磁美術館である。本展覧会は散逸を免れたコレクションを収める同館の開館40周年と、住友グループの文化・メセナ活動の一翼を担う泉屋博古館東京の開館20周年を記念し、初めてコラボレーション開催が実現した。

静謐な佇まいからにじむ、凄み

手のしぐさは小鳥を愛でていたから、と言われる。繊細な作品のため、東京での対面は今回が最後か? 《加彩 婦女俑》唐時代 8世紀 大阪市立東洋陶磁美術館(住友グループ寄贈/安宅コレクション)
手のしぐさは小鳥を愛でていたから、と言われる。繊細な作品のため、東京での対面は今回が最後か? 《加彩 婦女俑》唐時代 8世紀 大阪市立東洋陶磁美術館(住友グループ寄贈/安宅コレクション)

展示は「第1章、珠玉の名品」からはじまる。「安宅コレクション」を代表する名品が居並ぶ展示室内は壮観だ。弓なりにしなる美しい立ち姿で鑑賞者を最初に出迎えるのは、《加彩 婦女俑》(かさい ふじょよう)。通称「MOCOのヴィーナス」として知られる、ふっくらとした姿が愛らしい中国、唐時代の美人像である(MOCO=モコはThe Museum of Oriental Ceramics, Osakaの略称)。正倉院宝物の《鳥毛立女屏風》の美女は、この唐美人の姿が反映されたもの。

《青磁刻花 牡丹唐草文 瓶》重要文化財 北宋時代 11~12世紀 耀州窯 大阪市立東洋陶磁美術館(住友グループ寄贈/安宅コレクション)
《青磁刻花 牡丹唐草文 瓶》重要文化財 北宋時代 11~12世紀 耀州窯 大阪市立東洋陶磁美術館(住友グループ寄贈/安宅コレクション)

さらには、中国中西部の中心都市、西安から北に100キロほど行った現・陝西省銅川市に位置する耀州窯(ようしゅうよう)は宋代「六大窯系」の一つとされる青磁窯だが、その最盛期につくられた唯一無二の名品、《青磁刻花 牡丹唐草文 瓶》(せいじこっか ぼたんからくさもん へい)も静謐な佇まいでそこに置かれている。

透明なオリーブグリーンの釉薬と鋭く深い彫りの技が競演するさまを、うっとりと眺めて足を進めよう。展覧会を担当した泉屋博古館東京の学芸員 森下愛子氏も「今回、展覧会の準備で初めて手に触れて、品性あるコレクションであることをしみじみ実感しました」という作品が放つオーラには、のっけから圧倒されずにいられないのだ。

《粉青鉄絵 蓮池鳥魚文 俵壺》朝鮮時代 15世紀後半~16世紀前半 大阪市立東洋陶磁美術館(住友グループ寄贈/安宅コレクション)
《粉青鉄絵 蓮池鳥魚文 俵壺》朝鮮時代 15世紀後半~16世紀前半 大阪市立東洋陶磁美術館(住友グループ寄贈/安宅コレクション)

狙った〈獲物〉は逃さない! 美の探究者の神髄

果たして、国宝2件、重要文化財12件(本展では国宝2件、重文11件を展示)を含む全961件のコレクションをつくりあげた安宅英一氏とはいったいどんな人物だったのだろうか。本展では、安宅氏の収集にかけた情熱と執念を物語る3点が並んで展示されている。

「三種の神器」のひとつ、《五彩 松下高士図 面盆》(「大明萬暦年製」銘)明時代 万暦(1573~1620) 大阪市立東洋陶磁美術館(住友グループ寄贈/安宅コレクション)
「三種の神器」のひとつ、《五彩 松下高士図 面盆》(「大明萬暦年製」銘)明時代 万暦(1573~1620) 大阪市立東洋陶磁美術館(住友グループ寄贈/安宅コレクション)

それらは、白い肌がなまめかしい定窯《白磁刻花 蓮花文 洗》(ていよう/はくじこっか れんかもん せん)と、見込みの青と外側の紫のコントラストが映える鈞窯《紫紅釉 盆》(きんよう/しこうゆう ぼん)、赤、青、緑の鮮やかな色彩で高士と童子が描かれた景徳鎮《五彩 松下高士図 面盆》(けいとくちん/ごさい しょうかこうしず めんぼん)の3つ。「三種の神器」と称されて、12歳から古美術の世界に身を投じ、20世紀の日本を代表する古美術商となった廣田松繁(ひろたまつしげ 1897-1973 号 不弧斎/ふっこさい)氏がかつて秘蔵したものだ。これをなんとか手に入れたいと考えた安宅氏は廣田氏に書簡を送ったが、断られてしまう。しかし、それでも安宅氏は諦めることなく、数カ月後、廣田氏を自宅へと招く。座敷に通された廣田氏がそこに観たものは……丁寧に額装された自らの送った断りの書簡だった。そうして、すかさず「例のものを、なにとぞお譲りを」と安宅氏に頭を下げられた廣田氏は「参りました」と譲ることを決めたのだった。

ほかにも、所蔵者の子を安宅産業に入社させ歓待し、頃合いを見計らって古美術商を通して所有者に打診して譲渡を得た品もいくつかあるとか。「美の猟犬」とも称され、狙った獲物は必ずや手に入れる。茶の湯的な美意識や近代以降の鑑賞陶磁や民藝的な美意識をも超えて、美に妥協することのなかった英一氏が集めたのが「安宅コレクション」なのだ。

展示風景より。泉屋博古館所蔵作品と安宅コレクションのコラボレーション展示も本展覧会の見どころ。
展示風景より。泉屋博古館所蔵作品と安宅コレクションのコラボレーション展示も本展覧会の見どころ。
重要文化財《青磁象嵌 童子宝相華唐草文 水注》 高麗時代 12世紀後半~13世紀前半 大阪市立東洋陶磁美術館(住友グループ寄贈/安宅コレクション)
重要文化財《青磁象嵌 童子宝相華唐草文 水注》 高麗時代 12世紀後半~13世紀前半 大阪市立東洋陶磁美術館(住友グループ寄贈/安宅コレクション)

自然採光のもと、作品そのものの色味や風合いが鑑賞できるのが大阪市立東洋陶磁美術館の醍醐味だが、泉屋博古館東京の展示では、選び抜かれた美がひとところにギュッと凝縮されることで放たれる濃密な時間を体感できた。二度、三度と足を運びたい展覧会だ。

※参考文献 展覧会図録『大阪市立東洋陶磁美術館 安宅コレクション 名品選101』大阪市立東洋陶磁美術館、公益財団法人泉屋博古館編・著、青幻社、2023年

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
泉屋博古館東京|SEN-OKU HAKUKO KAN MUSEUM TOKYO
106-0032 東京都港区六本木1丁目5番地1号
開館時間:11:00〜18:00(最終入館時間 17:30)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)、展示替期間

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