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日本で出会える世界的名画、
ジャン=フランソワ・ミレーの「種をまく人」この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩 Vol.03
山梨県立美術館 / ジャン=フランソワ・ミレー《種をまく人》

名画・名品

ジャン=フランソワ・ミレー 《種をまく人》 1850年 山梨県立美術館所蔵
ジャン=フランソワ・ミレー 《種をまく人》 1850年 山梨県立美術館所蔵

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この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩

私たちが普段、美術館や博物館に足を運ぶときは、あるテーマの企画展や特別展などを鑑賞しに出かけることが多いのではないだろうか。多くの美術館や博物館では、各館のコンセプトに沿って、絵画や彫刻、版画、工芸など様々な作品を収蔵している。それらの作品の購入や寄贈により、形成されていくコレクションがどのようなものか、あるいはそれらの収蔵作品がどのような変遷を経ているかなども、各美術館や博物館の個性や特徴を知って、より深く鑑賞を楽しむ手掛かりとなるのではないだろうか。
「この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩」では、そんな美術館・博物館の収蔵作品から注目すべき作品を1点ずつご紹介していく。

ジャン=フランソワ・ミレー 「種をまく人」 この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩 Vol.03 / 山梨県立美術館

ミレーといえば、「種をまく人」「落穂拾い」といった名画は、世界的にもその名を知られた有名な作品であるが、今挙げた2点とも、日本の美術館に収蔵されているということをご存知だろうか?この2点以外の名画を含む、全70点ほどものミレーの作品を収蔵しているのは、山梨県立美術館(山梨県甲府市)である。

今回は、代表的な名画である「種をまく人」について、名画たる由縁と、山梨県立美術館にミレーの作品が70点も収蔵されている理由について、興味深いお話を山梨県立美術館の学芸員 太田智子さんにお伺いした。

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ジャン=フランソワ・ミレー(1814-1875)は、フランス北部のノルマンディー地方の小村に生まれ、1845年にパリに移りました。当時の画家たちが作品を出品していたサロン(官展)に出品し、次第に農民の主題を描き始めます。

パリでコレラが流行ったため、1849年には近郊のバルビゾン村に移住しました。この村で初めて手がけた大作が《種をまく人》でした。そしてこの作品を1850年にサロンに出品、称賛と批判の両方が寄せられ注目を集めましたが、働く農民の姿を堂々と描いたこの作品は、当時としては非常に革新的なものでした。

「種をまく人」の名画たる由縁

それまでの絵画において、農民は牧歌的な風景の中に理想化された姿で描かれることが多かったのに対し、ミレーは、斜面の畑を大股で下りながら、右手に握った種を大地にまく力強い農夫を描き出しました。目深にかぶった帽子のため、その表情はほとんど読み取ることができません。これほど働く人を象徴的に描いた作品は、ミレーの画業の中でも少なく、数多くの農民画を残した彼自身にとっても出発点となる重要な作品と言えます。

その姿は、ゴッホをはじめとした後代の画家にも影響を与え、日本では岩波書店のマークの源泉ともなりました。見る人に強い印象を残し、さまざまなかたちで後々に伝えられていることこそ、名画たる由縁ではないでしょうか。

同じ絵が2点存在!?ボストン美術館にも《種をまく人》

ミレーは《種をまく人》の制作にあたり、ほとんど同じ構図の作品を2点描き、後に描いた方をサロンに出品したと伝記には書かれています。ボストン美術館と山梨県立美術館にそれぞれ《種をまく人》があり、当館の作品が後に描かれたと考えられていますが、どちらがサロン出品作なのかは未だに分かっていません。

ゴッホを魅了し、ゴッホも描いた《種をまく人》

ゴッホ(1853-1890)はミレーを大変敬愛していました。ミレーの作品を雑誌や版画などさまざまな媒体をとおして目にし、自身の学びの糧としました。ゴッホによる《種をまく人》は、オランダのゴッホ美術館所蔵と、クレラー=ミュラー美術館所蔵の2点がよく知られています(ゴッホ美術館所蔵作品は、よく似た構図のものが、スイスのチューリヒ美術館におさめられたビュールレ・コレクションにもあります)。

どちらも、豊かな田園風景の広がる南仏プロヴァンスに移った1888年制作の作品ですが、ゴッホは1880年からこの時期までに、「種をまく人」というテーマで油彩やデッサンなどを約30点も描きました。ミレーにもとづくこのテーマに、ゴッホが非常に惹かれていたことがうかがえます。

なお、当館の《種をまく人》は、2019年10月4日から2020年1月12日までゴッホ美術館で開催されたミレーの展覧会に出品され、ゴッホの《種をまく人》とともに展示されました。この展覧会では、ミレーがゴッホをはじめとするモダンアートの巨匠たちにいかに影響を与えたかが、さまざまな作品を並べることで多角的に紹介されました。

(山梨県立美術館学芸員 太田智子)

今回ご紹介の名画、ジャン・フランソワ・ミレー「種まく人」は、6月2日(火)から再開となるコレクション展で観ることができる。では、一体なぜ、山梨県立美術館がこのような名画とともに、ミレーの作品を沢山収蔵しているのだろうか?

「当館の開館にあたり、自然豊かで農業もさかんな山梨の風土にあった、ミレーをはじめとするバルビゾン派の作品を収蔵するのが良い、という専門家からの提言がありました。

その後ミレーの《種をまく人》と《夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い》という2点を入手することができ、また他のバルビゾン派の画家の作品も少しずつ収集していきました。

開館から約40年経ち、ミレーの作品収集も継続して行われ、現在では油彩画12点を中心として、版画やデッサンなどを含め70点ほどのコレクションとなりました。」

とのこと。ミレーの故郷フランスに行かずとも、世界的名画である《種をまく人》のほか、多くのミレー作品やバルビゾン派の作品が、この日本で観られる贅沢な機会をぜひ多くの人に味わってもらえたらと思う。

山梨県立美術館の周りには、温泉やワイナリー、果樹園などもあり、豊かな自然も味わえる。ミレーをはじめとするバルビゾン派の作品を収蔵する理由となった、山梨の風土も、美術館を訪れた際には合わせて楽しみたい。

※お出かけの際には、公式サイトに掲載の「来館されるお客様へご協力のお願い及び館における感染症予防対策への取り組み」について、事前にご確認ください。

山梨県立美術館
美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
山梨県立美術館
〒160-8338 東京都新宿区西新宿1丁目26-1
開館時間 10:00~18:00(最終入館時間 17:30)
休館日 月曜日(祝日・振替休日の場合は開館)

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