FEATURE

レアンドロ・エルリッヒ展「見ることのリアル」
常識的なイメージや思考の転覆の先にあるもの。

。新鮮な驚きに満ちたレアンドロ・エルリッヒの作品によってゆさぶられる感覚を起点として

展覧会レポート

レアンドロ・エルリッヒ 《建物》 2004年 展示風景:104-パリ、2011年 ※参考図版
レアンドロ・エルリッヒ 《建物》 2004年 展示風景:104-パリ、2011年 ※参考図版

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「スイミングプール」「建物」「試着室」「美容院」「エレベーター」「雲」「教室」といったタイトルを持つ、レアンドロ・エルリッヒの作品は、どれも新鮮な驚きに満ちている。

タイトルから、わたしたちが等しくイメージするはずのものを逸脱していくアートである。写真だけでは、その仕掛けは全くわからない。実際に作品に出会って、体験して感じられるアートであり、「楽しい」だけでは終わらない、インパクトが胸に残る。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル」
開催美術館:森美術館
開催期間:2017年11月18日(土)~2018年4月1日(日)
(左)レアンドロ・エルリッヒ 《スイミング・プール》 2004年 所蔵:金沢21世紀美術館 撮影:木奥惠三 画像提供:金沢21世紀美術館 ※参考図版(右)レアンドロ・エルリッヒ(ポートレイト)撮影:Alejandro Guyot
(左)レアンドロ・エルリッヒ 《スイミング・プール》 2004年
所蔵:金沢21世紀美術館 撮影:木奥惠三 画像提供:金沢21世紀美術館 ※参考図版
(右)レアンドロ・エルリッヒ(ポートレイト)撮影:Alejandro Guyot

レアンドロ・エルリッヒは、アルゼンチン出身のアーティストで、日本国内では、過去にも「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」や「瀬戸内国際芸術祭」などでも作品が展示されている。作品「スイミングプール」は、金沢21世紀美術館にて恒久展示されることで知られ、2014年には同館で個展も開催された。

森美術館にて、11月18日から開催スタートとなった「レアンドロ・エルリッヒ」展は、館長の南條史生氏によると、10年以上前に発案した企画が今回実現したものとのこと。森美術館における、南米作家初の大規模回顧展となり、全44点の作品中8割が日本初公開である。

レアンドロ・エルリッヒ 《試着室》 2008年 展示風景:イグアテミ・ショッピングモール、サンパウロ、2016年 撮影: Luciana Prezia Courtesy: Iguatemi Shopping Mall, Luciana Brito Galeria
レアンドロ・エルリッヒ 《試着室》 2008年
展示風景:イグアテミ・ショッピングモール、サンパウロ、2016年
撮影: Luciana Prezia Courtesy: Iguatemi Shopping Mall, Luciana Brito Galeria

大都会の真ん中、六本木ヒルズ森タワー53階で、「建物」「試着室」「美容院」といった大型インスタレーションによる体験型などの現代アートを楽しむ感覚は、高層にある美術館というシチュエーションとともに、エンターテイメント性も高く、作品への感動も膨らむ貴重な鑑賞体験である。

また、「今回は、社会構造への批評的な視点に基づく作品もある」(森美術館館長 南條史生氏談)とのことだが、アーティストが込めたその意味を汲み取るには、注意深く作品を見ていく必要がある。

レアンドロ・エルリッヒ 《教室》 The Classroom 2017 少子化や地方の過疎化を背景に、廃校となった学校の教室が舞台の作品。ガラスで仕切られた2つの部屋の一方に入ると、ガラスに自身の姿がうっすらと映り込み、まるで亡霊となった自分が、もう一方の廃墟と化した教室にいるかのように見える。
レアンドロ・エルリッヒ 《教室》 The Classroom 2017
・・・少子化や地方の過疎化を背景に、廃校となった学校の教室が舞台の作品。ガラスで仕切られた2つの部屋の一方に入ると、ガラスに自身の姿がうっすらと映り込み、まるで亡霊となった自分が、もう一方の廃墟と化した教室にいるかのように見える。

この展覧会は、常識や既成概念にゆさぶりをかけられることが「起点」となる。レアンドロ・エルリッヒが作品に込めたメッセージ性は、作品の仕掛け同様に観るものに直感的に伝わってくるものではないかもしれない。しかし、ただ単に不思議だったね、面白かったね、で終われない、強いインパクトが残る。

できることならば、このインパクトをやりすごさずにおきたい。突き詰めていけば、わたしたちの暮らす社会の諸相が、良くも悪くも変化を続ける中で、その結果としてある現在のシステム(例えば、政治や経済、教育のあり方など)に対して、あまりにも受け身になっているのではないだろうか、と思わずはっとさせられる。

レアンドロ・エルリッヒビデオ・インスタレーション《眺め》 都会で暮らす人々は、見るだけではなく見られる存在にもなるうることを示唆した作品。
レアンドロ・エルリッヒビデオ・インスタレーション《眺め》
・・・都会で暮らす人々は、見るだけではなく見られる存在にもなるうることを示唆した作品。

自分たちが日頃当たり前に持っている既成概念を覆されることで、社会を形づくるわたしたち一人一人の主体性が問われているのかもしれない、と思うと同時に、思考の方法を変えてみることで、見えるはずの世界が思いもしなかったものに変わっている様に気が付く。

レアンドロ・エルリッヒ 《反射する港》 2014年 展示風景:「ハンジン・シッピング・ザ・ボックス・プロジェクト2014」韓国国立現代美術館、ソウル、2014年 Courtesy: National Museum of Modern and Contemporary Art, Korea; Art Front Gallery; Galleria Continua
レアンドロ・エルリッヒ 《反射する港》 2014年
展示風景:「ハンジン・シッピング・ザ・ボックス・プロジェクト2014」韓国国立現代美術館、ソウル、2014年
Courtesy: National Museum of Modern and Contemporary Art, Korea; Art Front Gallery; Galleria Continua

わたしたちは、自分の思考の中だけでつくりあげているかもしれない世の中の「常識」や「あたり前」に、縛られすぎてはいないだろうか。自分を取り巻く世界全体をあらためて捉え直したり、発想を転換してみることで広がる新たな側面やその大きさに気づかせてくれる展覧会である。

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「レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル」
開催美術館:森美術館
開催期間:2017年11月18日(土)~2018年4月1日(日)

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