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ポーラ創業家二代目 鈴木常司氏による
1万点以上に及ぶ名画の数々

19・20世紀の西洋絵画や日本の洋画のコレクションを核とするポーラ美術館。
箱根の自然に心研ぎ澄まされながら、作品との対話を堪能する。

美術館紹介

19・20世紀の西洋絵画や日本の洋画のコレクションを核とする、ポーラ創業家二代目 鈴木常司氏による1万点以上に及ぶ名画の数々。箱根の自然に心研ぎ澄まされながら、作品との対話を堪能する。

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温泉地としても有名な、人気の観光地である箱根は、実は「美術館」のメッカである。箱根彫刻の森美術館、箱根・芦ノ湖成川美術館、箱根ラリック美術館、箱根ガラスの森美術館、岡田美術館など、優に10館以上の美術館が点在する。

化粧品メーカーとして知られる「株式会社ポーラ」は、箱根の地、仙石原に2002年にポーラ美術館を設立している。

ブナやミズナラ、ヒメシャラなど、夏には青々と葉を茂らせる広葉樹林がどこまでも広がる森の中に建ち、鳥のさえずりが来館者を迎える。美術館の建物は、自然の景観に溶け込むように、地中に潜りこんでいくように建てられている。自然の全景をガラス越しに眺めながらエントランスから地階へ降りていくと、地下2階と3階に全部で5つの展示室がある。館内には明るく穏やかな光が差し込み、自然な照明が心地よい。

ポーラ美術館は、ポーラ創業者である鈴木忍に継ぐ2代目の鈴木常司(すずきつねし 1930-2000)が、27歳頃から40年近くコレクションしてきた美術品を展示公開するために設立された。

鈴木常司氏は、1930年7月、静岡に生まれる。1953年8月、経営学を学ぶためアメリカに留学し、マサチューセッツ州のウィリアムズ・カレッジに学んだ。コロンビア大学入学準備のためニューヨークへ移った翌年の3月、父、忍の急逝の知らせを受け、留学を中断して直ちに帰国。父の跡を継ぎ、ポーラ化成工業、ポーラ化粧品本舗の社長に就任した。

鈴木常司氏が、1950年代末から40年近くかけて収集したコレクションは、約10000点にもおよぶ。28歳のときに初めて購入した絵画作品のひとつに、「誕生日」と題された、藤田嗣治によって1958年に描かれた絵がある。

「部屋の中で子どもたちが、ケーキの載った円卓を囲み、誕生日を祝っている楽しそうな様子が描かれているが、よく見ると、窓の外でもたくさんの子どもたちが部屋をのぞき込んでおりさまざまな感情が交錯する複雑な場面であることに気づくでしょう。」とこの絵の解説に記載されている。

当時28歳であった若き鈴木氏はどのような思いでこれらの絵を見つめ、コレクションしたのであろうか。

アンリ・マティス《リュート》1943年

こちらは、1943年にマティスが描いた「リュート」と題した作品。画面全体の朱色があざやかながら、リュート(中世ヨーロッパの弦楽器の一種)を持つ女性の、裾の大きく広がった白地に薄いピンク裾や花模様のワンピースが女性らしさと優しい雰囲気を醸し出し、人を幸せな気持ちにしてくれる印象の絵である。鮮やかさを強く感じさせる色彩の効果について、「赤の補色関係にある緑を部分的に用い、植物をモティーフにした白いアラベスク模様を散りばめている」と説明書きが添えられている。

そのほかにもこの美術館には、世界的に名だたる画家らの作品が膨大にあるが、「コレクションハイライト」としてポーラ美術館の代表的なコレクションの展示コーナーが設けられている。この日に出会った4枚の名画を紹介する。

上から右へ順に、クロード・モネ 《睡蓮の池》1899年、ワシリー・カンディンスキー《支え無し》1923年、フィンセント・ファン・ゴッホ《アザミの花》1890年、岡田三郎助の《あやめの衣》 1927年(昭和2年)である。

これら4点の作品は、画家も違えば、描かれた年代も違い、主題も作風も異なるが、ここに集められたコレクションの作品と作品の間には、不思議と大きな温度差を感じさせないことに気づかれるだろうか?多岐に渡る作家らの膨大な量のコレクションにも関わらず、展示された作品の一点一点が、観る者に静かに対話を求めてくるようだ。

鈴木常司氏は、寡黙な人であったそうだ。コレクションの生成の経緯や美術作品について語った言葉は多くはなかったという。コレクションされた作品を鑑賞していると、そんな鈴木氏の心情が浮かび上がってくるような思いがする。

訪れたのは4月に入ったばかりの曇り空の日。夏緑樹の森である箱根では、これからの新緑の季節が、観光シーズンであり、美術館を訪れるにもより気持ちの良い季節であろう。しかしながら、まだ、枯れた葉をぶらさげた侘しさ残る森も、静かで、気持ちが研ぎ澄まされるようであり、このような季節の美術館も悪くはない。

ポーラ美術館には、“森の遊歩道”がある。ところどころに彫刻作品が顔をのぞかせたり、沢音が響いたり、マイナスイオンたっぷりの心地よい散歩道だ。この道を歩いていたら、箱根に美術館が多い理由がわかる気がしてくる。箱根の森の澄んだ空気に、精神がすっかり研ぎ澄まされて、どんな芸術表現も全身で受け止められるような、大らかな者に自分がなったような気がする・・・ のは気のせいだろうか。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
ポーラ美術館|Pola Museum of Art
〒250-0631 神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
開館時間:9:00~17:00
定休日:年中無休

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