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写真と見紛うほどの細密な絵画による表現は、
静かな深い感動を呼び起こす

世界で初めての「写実絵画」を専門とするホキ美術館。
ロマンある建築表現と細部に渡る洗練されたこだわりの設計も見どころ。

美術館紹介

世界で初めての「写実絵画」を専門とするホキ美術館。ロマンある建築表現と細部に渡る洗練されたこだわりの設計も見どころ。写真と見紛うほどの細密な絵画による表現は、静かな深い感動を呼び起こす

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「ホキ美術館」は、千葉県千葉市緑区、鳥のさえずりも聞こえてくる「昭和の森」に隣接した、都会の喧騒を離れて、空気の澄んだ気持ちの良い場所にある。

東京駅から京葉線「蘇我」駅で乗り換え、「土気(とけ)」駅まで約1時間。南口から路線バスに乗り込めば、5分ほどで到着できる。

一見すると、街の景観に溶け込んだように存在しているホキ美術館であるが、近づくほどに、胸の躍るような個性的な建物の外観が表れる。

ホキ美術館は、「キャンチレバー(片持ち梁)」といわれる、下から支えるもののないまま、建物の一部が、宙に飛び出すように浮いている部分を持つ建築構造で知られる。実際に訪れてみると、本当に四角いチューブ状の建物の一部が、カーブを描きながら、約30mほど飛び出している。硬くて重いはずの鉄の構造物が、重力に従って下方にたわむことのなく、宙に浮いたままの不思議さに、ロマンを感じさせる。それでいて、震災が起きた日も、館内にいた半分の人々は、地震に気付かなかったというほど、耐震強度の強い構造となっているそうだ。

ホキ美術館は、株式会社ホギメディカルの創業者である保木将夫(ほきまさお)氏が、日本の洋画家 森本草介の「横になるポーズ」と題した絵画に出会ったことをきっかけに写実の絵画を蒐集するようになり、そのコレクションを元に開館した美術館である。現在では、巨匠から若手まで約50作家450点の写実絵画を所蔵している。

保木氏は、美術館を創設するにあたっては、何か特色を打ち出した美術館である必要があると考えていた。それまで、日本で写実絵画の作品を見る機会があまりなかったため、写実絵画専門の美術館を作りたい、という思いに至る。これまで世界各地の美術館を巡ってきた経験を持つ保木氏にとって、手先の器用な日本人だからこそ得意とする細密画の世界は、これから脚光を浴びてくるのではないか、と考え、日本の写実絵画をここから世界に発信していけるようになれば、という願いから、2010年11月、世界初、写実絵画専門の美術館として、千葉市緑区にホキ美術館を開館した。

写実の絵画は、その細密さゆえ、1年に数点しか描くことができない。保木氏が大切にコレクションしてきたそれら写実の絵画を、訪れるものが、1対1で静かに向き合える場所を作って公開したい、という思いは、現在その建築でも話題になっている建物の館内で、見事に実現されている。

ホキ美術館の建築を手掛けたのは、建築設計事務所 日建設計である。設計を担当した山梨知彦氏は、昭和の森に隣接した敷地という自然の一部となれる場所において、自然光を展示空間へと導き入れることで「森の中を散策しながら絵画を鑑賞しているような状態」を作りあげた。

「また、写実絵画を鑑賞することを、食事をすることや、ワインを飲むこと、森・光・自然・環境など、あらゆる行為や事象と等価に扱い、再構成し、美術館でありながら美術館以上のものを考えることでもあった」と語る。

可能な限りシンプルな空間を目指し、鑑賞時の視界には目の前の絵画以外、鑑賞の妨げとなるものが入らないように徹底したつくりにこだわった。実際に、写実絵画の持つ、リアルな描写の迫力が、最大限にこちらに迫ってくるような臨場感の感じられる展示空間になっている。シンプルな空間でありながら、全く無機質な感じを与えることなく、隣接する森の自然に包まれるような安心感さえ漂う。

展示照明は、全館ほぼLED照明が採用されており、調光しても色温度に変化が無いことを特徴としている。それは、作家一人ひとりのアトリエの光環境に近いものを作り出す、という目的もあった。

LEDとハロゲンの照明は、散りばめられた夜空の星のように天井に埋め込まれ、ゆるやかなカーブを描く回廊の天井を見上げれば、まるで天の川のようである。

そして床には長時間の鑑賞に疲れないゴム素材が採用されており、歩き心地がとても良い。

鑑賞者の目線と、作家の思いを徹底的に追求しようとする美術館側の思いと、それをくみ取って完成された建築は、「美術館でありながら美術館以上のもの」という設計者の思いを結実させたものである。

写実絵画を一堂に眺めていると、写実という技法を用いながらも、作家がそこに浮かび上がらせようとしているものが、当然のことながらそれぞれに異なっていることに気づく。リアルに描かれた対象の本質が、二次元の画面上に昇華された、胸に迫りくる作品に出会うことがある。静かな深い感動が待っている。

1点1点、細密に描かれた絵画に込められた静かで揺るぎない力の集積は、この美術館から、まるで呼気のように、ゆっくりと未来に広がっていくようで、期待に胸が膨らむ。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
ホキ美術館|HOKI MUSEUM
〒267-0067 千葉県千葉市緑区あすみが丘東3-15
開館時間:10:00〜17:30(最終入館時間 17:00)
定休日:火曜日

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