4.0
マチスの影響 色構成の魅力
硲氏の色彩構成、まさにマチスに通じる印象です。
フランス留学時代に列車で偶然に出会ってからのマチスとの親交ぶりが本展で紹介されています。今とは時代が違うとはいえ、そんな交流の発展があるの、と驚きます。硲氏、きっとさぞかし、人を惹きつける人物だったのでしょう。作品を観て、また、マチス・ピカソ・ブラックの日本での展覧会開催の導火線になったご活躍からしのばれる人脈からも、お人柄を想像しました。
10代より若くして画壇で認められ、20代半ばでフランス留学、という華々しい若年期。キャプションの解説に拠ると、留学前年に父親が没。留学中は兄の潤沢な経済支援で苦学の跡を感じさせないどころか、今となっては巨匠の作品蒐集も始めている。ことほど左様に、この回顧展で紹介される硲氏のストーリーには、経済面だけでなく、私生活や制作葛藤も含めて、汗と涙の要素がなんと希薄なこと。もちろん実情はそんな生易しいものに非ずでしょうが、彼の色彩の世界観は汗・涙を持ち込んで観たくない、と思いました。
実際、展示前半は年代順に画歴を辿る構成ですが、フランス留学中のある時点を境に、濁りが消えて色彩が一変しています。この変遷に関しては、硲氏の「ヴァルール(色価)」への探求意欲として簡単に解説されています。静物画の2作《窓際の花》・《栗》の色構成では、その探求の成果に魅せられます。そして真骨頂は、メインビジュアル作《燈下》・《黄八丈のI令嬢》・《アンゴラのセーター》の女性肖像画3作。大戦中・直後の作ですから、あまりに耽美的と評されるのは致し方なし、そんな美の表現に惹きつけられます。
展示の最終章では、九谷焼作品と共に、40歳以上歳の離れた内弟子の海部公子氏の肖像画《A・K像》。ハッとする視線で描かれていて、ドキドキします。後に加賀の硲伊之助美術館の館長を務められた方であり、展示最後の年譜を読むと、なるほど、の謎解きでした。
推し出しが控えめの見せ方が洗練されており、当館らしくて良かったです。