「丸紅ギャラリー開館記念展Ⅲ「ボッティチェリ特別展 美しきシモネッタ」at竹橋
1月下旬、2021年に移転オープンした丸紅ギャラリーへ「ボッティチェリ特別展 美しきシモネッタ」を訪問。
株式会社丸紅は三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事と五大商社の一つに数えられる総合商社。そのお抱え美術品を展示公開する丸紅ギャラリーは丸紅本社の3階にあります。マラソンランナーが周回する皇居の目の前で、地下鉄竹橋駅の改札出口出てすぐの好アクセスです。
《美しきシモネッタ》の作者はイタリアルネサンスの巨匠、サンドロ・ボッティチェリ。
《ヴィーナスの誕生》や《春:プリマヴェーラ》の作者として日本でも抜群の知名度を誇ります。
日本現存のボッティチェリ作品はこの《美しきシモネッタ》のみで、実は超・貴重な作品なのです。
とはいえ主要展示1点のみで展示構成がボリューム不足ではと少々心配だったのですが、それは杞憂でした。
ボッティチェリがいかにシモネッタ夫人の熱烈ファンだったかという点と、絵画の贋作スキャンダルを始めとした持ち主変遷ヒストリーを紹介する独特(?)な構成。また新たな世界が拓けましたね。
優美な横顔で描かれたシモネッタ・ヴェスプッチはジェノヴァ出身で、花と芸術の都フィレンツェを代表した絶世のイタリア美女。
15歳で富裕商人と結婚して、16歳でフィレンツェの社交界に出ると、その抜群の美貌でたちまち社交界の寵児になり、フィレンツェの支配者メディチ家の御曹司ジュリアーノ・デ・メディチの愛人だったと云われています。
有名なエピソードでは1475年に開かれた当時大人気の馬上槍試合で、優勝者に勝利の冠を授ける役「美の女王」に選ばれたシモネッタが、その美しさで闘技場の民衆を魅了したそうです。
優勝したジュリアーノ・デ・メディチも美男で知られており、美男美女の熱愛が伝えられています。
・・・・忘れそうですが、彼女人妻なんですけどね。
そもそも旦那様とフィレンツェに移住したようですが、熱愛云々が旦那様公認だったのかムニャムニャ気になります。
しかし美人薄命を地で行くのか、肺結核を患い、わずか23歳の若さで死去しました。
当時芸術を庇護していたメディチ家に重用されていたボッティチェリは、彼女の美貌にもの凄く心酔したのか、工房作含めれば6点のシモネッタとおぼしき肖像を描いています。
会場ではその複数分と、ピエロ・ディ・コジモやダ・ヴィンチが亡きシモネッタ夫人を描いた複製も比較紹介されています。
微妙に顔つきや表情が違いますが、現代感覚で見ても美人なのは一目瞭然。
ちなみに別パネルでは当時の文人(多分)アニョロ・フィレンズオラのルネサンス期の【美女の定義】なるものが紹介されていました。
”髪は褐色に近い淡い金色。肌は明るく輝き、眉は中央でふくらみ、鼻と耳にむかって細くなるのがよい。
眼は大きく、自眼は青味を帯び、まつげは長すぎず、厚すぎず、黒すぎないのがよい。
頬のピンクはカーブに添って描かれること。鼻はそれとわからない程度に上に向かって細くなること。
口は心持ち小さい方がよく、唇が半分開いたとき、6つ以上の歯が見えないほうがよい。
唇にはくぼみがあり、薄すぎないほうがよい。
歯茎の色は赤いビロードを思い起こさせ、暗すぎてはいけない。”
・・・・・・・・・・・・・・定義細かいな!!
というか、シモネッタの描写そのまんま。
果たして美女の定義がシモネッタに該当したのか、シモネッタを美女の定義にしたからこうなったのか。タマゴが先かニワトリが先か。。。
そのあたりは判然としませんが、涼やかなアイスブルーの瞳で通った鼻筋、長い淡い金髪に真珠の1連を編み込み腰まで流し、首元には真珠・ルビー・エメラルドの美しいネックレスが輝いています。
この丁寧な描写でもボッティチェリのシモネッタへの思い入れの深さが伺えますが、実は執着はこれに留まりませんでした。
展示によると、代表作《ヴィーナスの誕生》《春:プリマヴェーラ》も、メインのモデルはなんとシモネッタ。
《ヴィーナスの誕生》では、真ん中の美の女神ヴィーナスのモデルが該当とのこと。確かに長い淡い金髪と大きな瞳・・・・
そして《春》は、諸説ありますが、ほぼすべての登場人物のモデルがシモネッタ、若しくは彼女の影響下とのこと。全員になにがしかシモネッタを彷彿とさせる面影があるんだとか。
言われてみれば、登場人物女性(女神・精霊)達、全員淡い金髪で髪長いです。美の3女神の一人は肖像画と似たような真珠・ルビー・エメラルドのネックレス着けてますし。
・・・・・・・・・ボッティチェリ、どれだけシモネッタが好きなのか。
もしかしたら描く内に、シモネッタは画家にとって美の絶対的な象徴(ミューズ)になっていったのかもしれません。
その他は丸紅が絵を入手した経緯と、贋作騒動についての展示。1967年にロンドンのホースバラ画廊から約1.5億円で購入。日本のコレクターがルネサンス期の作品を購入したのは当時史上初めてだったそうです。
企業の購入した美術品としては、損保ジャパンのゴッホ《ひまわり》53億円の方が有名ですが。
しかし購入して約半年後の「ヨーロッパ巨匠名画展」でお披露目された際、写真と実物の絵の微妙な違いから、贋作疑惑が持ち上がり、けっこうな騒ぎになりました。
真相は絵の見栄えを良くしようと修復で上描きされていたのを、絵を洗浄して取り除いたので、洗浄前に撮影した写真とオリジナルの絵に差異が生じたせいでした。
美術の世界ではこうしたことはけっこうあるあるです。しかしこのすったもんだで作品は真作であることが証明されました。結果オーライ(笑)
思いがけず都内の真ん中でイタリアルネサンスの風を感じました。
所蔵品とは言え常設ではないようなので、機会があれば鑑賞お奨めです。
ちなみに入場料やグッズの支払いは全て電子決済だし、グッズには原材料にお米を使うSDGSの環境配慮など現代企業の社会貢献度もさりげなく主張しているのが流石です。
会期:2022年12月1日(木)~2023年1月31日(火)
会場:丸紅ギャラリー(東京都千代田区大手町一丁目4番2号 丸紅ビル3階)
開館時間:10:00~17:00 ※入館は閉館の30分前まで
観覧料:一般(大学生以上)500円
※高校生以下、障がい者とその介助者1名は無料
※着物・浴衣など、和装でのご来館の方は無料