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渡邊庄三郎の業績
新版画と聞いて、真っ先に、川瀬巴水を思い浮かべる人は多いと思います。
今回の展示は、渡邊庄三郎がこれぞと見込んだ作家とタッグを組んで作られた作品たち
川瀬巴水の展示数も多いのですが、伊東深水の美人画、名取春仙の役者絵、笠松紫浪の風景画、小原祥邨の花鳥画、がある程度の数まとまって展示されています。
渡邊庄三郎は木版画の良さを活かしつつ、芸術性にこだわり、新しい摺り方、題材など、積極的にチャレンジしました。
ざら摺りは、バレンの節目を残す技法で、その強弱で表現の幅を広げています。
ざら摺りは摺師からは反発をくらったそうですが、庄三郎自ら摺ってみせ、その表現の面白さをやってみせたそうです。
今回の展示で、1番摺りの技を魅せていたのは、
伊東深水「初夏の入浴」です。
これは女性がお風呂に浸かっている絵です。
主版の輪郭線を空摺りにし、
湯の水面を横にざら摺り、
立ち上る湯気をくるくる回すようにざら摺りで表現していて、
水のやわらかさ、湯気のほわほわが、手に取るようでした。
指先や頬も温まって赤みがさしたところのボカシ具合も絶妙です。
本やネットで画像は見られますが、
この絵は特に実物を観た方が、驚きとともに美しさを堪能できます。
衰退していた浮世絵を、庶民の娯楽から、芸術性を高めつつ木版画の良さを残すことに成功した、渡邊庄三郎の業績がよくわかる展覧会でした。
最後に
伊東深水「泥上船」
笠松紫浪「うろこ雲」
「 霞む夕べ 不忍池畔」
版画ではないのですが、
橋口五葉 夏目漱石「草合」の装幀
が、特に心に残りました。
会期末だったので、すでにフライヤーも作品リストもなくなってしまったのは残念でした。
ミュージアムショップ(と言うか、コーナー)も、図録をはじめ商品はほぼ無いような状態でした。