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「雪舟伝説」を検証する-「画聖」雪舟-いかにしてその評価は形成されてきたのか。

京都国立博物館の春の特別展は「雪舟伝説―「画聖」の誕生―」です。4月13日に始まったばかりの本展、平日の9時半の開館すぐは流石に混んでなく、スムーズに観る事が出来ました。

 

雪舟の国宝指定作品は6件で、狩野永徳4件より多く、一人の画家としては最も多い。それでは、何故それほど雪舟は高く評価されているのでしょうか。「画聖」雪舟誕生の過程を近世の雪舟受容を辿ることで解き明かそうという展覧会です。

 

【本展の】特色

1.   雪舟の国宝6件が勢揃い!しかも6件すべてが全期間展示されます。

2.   比べてわかる雪舟の影響力。雪舟作品とその影響を受けた作品を(横並びではないが)展示。

3.   こんな画家も!? 幅広いフォロワーたち。さまざまな、意外な画家たちも雪舟を学んでいました。

4.   京博だけ!巡回なしの京都限定開催

 

展覧会は5章構成です。

第1章 雪舟精髄

「※「雪舟展」ではありません!」と断りはあるものの、まずはその原点となる「雪舟」作品を今一度確認せねばなりません。と言うことで、本展では雪舟の国宝6件が通期展示されます。それを聞き及んで、取り敢えず雪舟の国宝が全部並ぶなら出かけてみようという方は少なくないはずです。雪舟作品は、国宝だけでなく、重要文化財指定も含めて「雪舟筆」や「伝雪舟筆」の作品も展示されています。(注)通期展示以外、前後期で展示替え作品もあるので、作品リストをご確認の上お出かけ下さい。

展示室は、あの最も有名な国宝から始まります。国宝6件に

・重要文化財《山水図》(京都国立博物館)「拙宗」と落款があり明へ渡る前に描いた作品です。

・重要文化財《四季山水図》(東京国立博物館)を私は初めて見ました。「日本禅人等揚」と落款があり、雪舟が明に渡り北京滞在中に描いたと考えられています

・重要文化財《四季花鳥図屏風》(京都国立博物館)款はないが、雪舟真筆と認められる唯一の花鳥画です。

9件の作品が混雑を避けるためにスペースをとって展示されています。この9件の作品を細部までじっくりじっくり観る事が出来るなら半日だってかかりそうなほどに3Fだけでも見どころはあるように思います。

 

第2章 学ばれた雪舟

「伝雪舟」の作品は、かつては雪舟の真筆と考えられていた作品で、現在では雪舟から直に教えを受けた弟子による古模本と考えられています。広く知られた図様で後の世にこれらをもととして同じ図様が多く描かれました。

 

ここで「雪舟」(1420-1506?)を図録の略年表を参考に簡単におさらい

室町時代、応永27年に備中国赤浜(現在の岡山県総社市)に生まれました。少年時代はその地の宝福寺で少年僧として修業します。雪舟が「涙でネズミの絵を描いた」という有名なエピソードはこのお寺での事で、江戸時代に語られるようになった天才伝説の類だろうとのことです。宝福寺には頼山陽書による巨大な『雪舟禅師之碑』が建ち、その拓本(京都 東福寺)が第4章に展示されています。上洛して相国寺(室町幕府三代将軍の足利義満により創建され、江戸期には若冲にも縁のある寺院です)に入り、「等」の名(法諱)を与えられました。後に拙宗の名(道号)を得ます。相国寺では天章周文に絵を学び、東福寺でも修業をしたようで、おそらくそこで明兆の絵からも学んだことでしょう。

雪舟は明に渡ったがその地で学ぶことはなかったという逸話は真実ではないそうですが、雪舟が中国画家の作風をもとに描いた(描き分けた)連作を見るに、当時の京の禅林ネットワークの中にいて、宋元画をそれなりのレベルまで学ぶことは可能だったのではないでしょうか。先輩明兆は京に居ながらにして描いていたのですから。

35歳頃に周防国山口(山口県山口市)へ移住し、やがて雪舟()と名乗り始めます。応仁の乱が始まった1467年、応仁2年48歳にして遣明使節の一人として中国に渡り、寧波の天竜山景徳禅寺で第一座(首座)の称号を得ます。つまり禅僧としても認められていたのでしょう。北京にも滞在して、紫禁城内の施設に壁画を描き、文明元年(1469)50歳にして帰国して、北部九州に滞在します。61歳頃に山口に戻り、雲谷庵に落ち着きました。雪舟直近の弟子たちは、帰国後の雪舟の活動拠点である周防や豊後の出身者が多いようです。国宝《秋冬山水図》の制作年代は分かっていませんが、他の国宝指定の5件は、雪舟60代後半から絶筆(とみなされる)作品までです。国宝《山水図》の了庵桂悟の賛の最後をよくご覧ください。「牧松遺韻雪舟逝」とあります。「牧松」は、もう一人の着賛者の以参周省のことです。了庵は永正4年(1507)3月遣明使節の帰りに雪舟の所(雲谷軒)に立ち寄り、二人が他界したことを知って着讃しました。この少し前ごろに雪舟は亡くなったと考えられています。

応仁の乱で洛中が混乱し多くのものが焼失した時期に、雪舟が京を離れていたことで雪舟の作品が後世に残ったことも注目すべきポイントです。また、「大内氏という世俗権力者のもとで、仏画だけでなくあらゆる主題を描いた」という点も福士研究員は言及されており、雪舟フォロワーの裾野が広い事に繋がっています。

 

第3章 雪舟流の継承―雲谷派と長谷川派―

雪舟の後継者と名乗りを上げた絵師現わる。

雲谷派の雲谷等顔を私はてっきり雪舟の弟子だと勘違いしていたのでした。雲谷等顔(1547-1618)は、大内氏滅亡後の毛利家に仕え、毛利輝元から雪舟の旧居雲谷庵と「山水長巻」を拝領して、雲谷庵主三代目として雪舟系の後継者となりました。「雪舟四代」を名乗ったのが等益(1624-1644)でこれには毛利家が「雪舟の価値」を対外的に利用しようとした点を指摘されています。雲谷派は「山水長巻」を代々引き継ぐことで独自の画流を展開していきます。国宝《四季山水図巻(山水図巻)》は、代々雲谷家に伝えられ、宝永5年(1704)以降は毛利家において保管され、現在も毛利博物館所蔵となっています。

 

この章あたりから何度も同じ図様が登場するので、雪舟の元の絵はどんなのだったかしら?と思うこと多しです。「山水長巻」、「西湖図」、「四季花鳥図屏風」と「富士三保清見寺図」のモチーフとその位置は大体分かっていた方が以降の流れが理解しやすいと思います。

 

長谷川等伯(1539-1610)は、《竹林七賢図屏風》(京都 両足院)の款記に「自雪舟五代」と記しています。等伯が庇護を受けていた秀吉が亡くなった翌年、慶長4年(1599)作の《仏涅槃図》(本法寺蔵)は、後陽成天皇の叡覧に供し、それに「自雪舟五代」と記して雪舟の画系の正統性をアピールしています。つまり雪舟の後継者であることが社会的な権威として認められていたことを裏付けています。

同時代を生きた等顔と等伯は、共に永徳の弟子でした。雲谷派と長谷川派の雪舟正統論争は江戸時代には広く知られていたそうです。

 

等伯がそうなら雪村(15世紀末~1580)は、どうなの?と思わぬではありませんが、雪村展の図録を覗いてみると雪村は、憧れ学びはしたが、そもそも東と西で接点もなく、雪村独自の画風を打ち立てたと考えられているようです。

 

第4章 雪舟伝説の始まり-狩野派の果たした役割-

雪舟の神格化に最も大きな役割を果たしたのは、狩野探幽(1602-1674)です。雪舟を学んで自らの画風を形成しました。幕府の御用絵師となった狩野派の様式は、江戸時代絵画の共通基盤となりました。端麗瀟洒と言われる探幽、《富士山図》は大きく余白を取って淡墨で描いていかにも探幽ですが、構図は明らかに伝雪舟筆《富士三保清見寺図》を踏襲しています。

 

第5章 江戸時代が見た雪舟

探幽をはじめとして狩野派の絵師は、膨大な縮図を残し、模本を作成し、それを継承して、粉本主義により広く流布していったと考えられます。

現在では雪舟筆と認められていない作品や所在が分からなくなった作品が、江戸時代には雪舟画として受容され、雪舟という画家像の形成に一役買いました。

見比べてみよう3件の「四季山水図巻」。雪舟筆 重要文化財《四季山水図巻》の巻末に雪舟の「神品」という狩野安信の極書があり、この図巻に付随していたのが、探幽筆《雪舟筆四季山水図巻模本》です。更に狩野信尚筆《雪舟筆四季山水図巻模本》は国宝です。八代将軍吉信の命により毛利家国元にあった雪舟筆《四季山水図巻》を江戸に運ばせて模写したものです。木挽町狩野家では、将軍家への献上品の他に模写を作成したと考えられ、代々に重模本が制作されました。

 

第6章 雪舟を語る言葉

雪舟について書かれた版本や手紙など文字資料が展示されています。松尾芭蕉著『笈の小文』の冒頭「西行の和歌における、宗祇の連歌における、雪舟の絵における、利休が茶における、その貫道する物は一なり」は象徴的です。

尾形光琳筆《上嶋源丞宛書状》(大和文華館)は、特に興味深い。江戸に滞在していた光琳がその中で毎日雪舟の画を五、七幅も目にし、写していると認めています。それほどに江戸では雪舟の画が流通していて、光琳は関心を寄せていました。光琳筆《雪舟筆山水図写》(大和文華館)が展示されています。光琳に私淑した酒井抱一も雪舟画に倣って《雪舟筆金山寺図模本》を残しています。


第7章 雪舟受容の拡大と多様化

雪舟の「富士三保清見寺図」を元として個性豊かな画家たちによって描かれた富士山を描いた風景画がズラリと並ぶ展示室。元の図様にモチーフを置きながらも伝言ゲームのようにそれぞれの絵師の個性が出た富士山の風景画です。富士山の山頂の形1つとっても変化していきます。超絶技巧の原在中筆《三保富士松原図》は、単眼鏡でしっかり細部まで確認してほしい。曽我蕭白筆 重要文化財《月夜山水図屏風》(近江神宮)右隻は西湖図を意識し、左隻は雪舟筆《唐土勝景図》に描かれる金山寺を想起させると説明されています。作品としても強烈なインパクトがある蕭白作品です。若冲の「双鶴図」は、東福寺に伝わった等益筆《四季花鳥図屏風図》を通して雪舟を受容した作品との説明です。雪舟や雲谷派の作品を目にして、研究熱心な若冲が雪舟作品を研究していたことは十分に考えられます。※チラシにもなっている出光美術館蔵の伊藤若冲筆《竹梅双鶴図》4/29からの展示ですのでご注意ください。

初めて知った、雪舟と牧谿から1文字ずつ取って号とした山口雪渓、《十六羅漢図》(京都 善導寺)ビックリしました。「背景描写に見られる粗放な筆の走りや独特のアクを持つ羅漢の面貌描写に雪渓の様式が顕著である」らしい。雪渓のこの羅漢さん現代作家さんが描いた羅漢のように見えました。もっと知りたい観たい山口雪渓です。北斎の春画の中の画中画に見つけた雪舟、捜していると何処かに見つかる雪舟受容です。「雪舟の影響を受けていない絵師はいるのでしょうか?文人画家はどうなのでしょうか?」大雅でさえ雪舟を研究しており、「雪舟受容として作品を見ているとどの作品にも雪舟の影響が見え隠れするよう」というのが正直なところでしょう。

 

本展を締めるのは、江戸と明治の橋渡しをした狩野芳崖です。さすがに巧い!狩野芳崖と橋本雅邦は、幕末に狩野派で学び、明治期になってアーネスト・フェノロサや岡倉天心へ雪舟受容を伝え、フェノロサも天心も日本美術史において雪舟を高く評価しました。大観の《生々流転》も雪舟の《山水図巻》をも念頭にあったのではないかと私なんぞは思ってしまうのです。

雪舟伝説を追う中で数々の個性豊かな雪舟フォロワー作品に出会い、改めて「画聖」雪舟を見直すことにもなったのではないでしょうか。1955年にウィーンで開催された世界平和評議大会で、雪舟はモーツアルトやレンブラント、ドストエフスキーなどと共に世界十大文化人の一人に選出されていました。なん層にも積み重ねられてきた雪舟受容と評価に、現在の私たちもそのレイヤーを重ねています。


  • 【開催概要】雪舟伝説―「画聖」の誕生― 
  • 会期:2024(令和6)年4月13日(土)~5月26日(日)
  • [主な展示替]※会期中、一部の作品は前後期以外にも展示替を行います。
  • 前期展示:2024年4月13日(土)~5月6日(月・休)
  • 後期展示:2024年5月8日(水)~5月26日(日)
  • 会場:京都国立博物館 平成知新館
  • 休館日:月曜日、5月7日(火) ※2024年4月29日(月・祝)から5月6日(月・休)までは続けて開館し、5月7日(火)を休館とします。
  • 開館時間:9:00~17:30(入館は17:00まで)※夜間開館は実施しません。
  • 観覧料   一般 1,800円(1,600円)/大学生 1,200円(1,000円)/高校生 700円(500円)
  • ※( )内は20名以上の団体料金。大学生・高校生の方は学生証を要提示 中学生以下は無料
  • TEL:075-525-2473 (テレホンサービス)
  • 展覧会サイト:https://sesshu2024.exhn.jp/ ☆参考画像がいっぱい掲載されています。

※展覧会サイトの京都国立博物館保存指導室長福士雅也さんへのインタビューはとても面白いので展覧会へ出かける前に是非チェックしてください。


※とらリンの「虎ブログ」がアップされています。Part1は、まずは雪舟を知ろうというところから

「特別展『雪舟伝説「画聖」の誕生』を見に行くリン♪Part1」

大陸へ渡って仏教を学ぶ僧侶や学者は多くいたが、雪舟の前に中国へ渡って画を本格的に学んだ画像は居なかったっていうことなのか。それで本場中国で学んできた人ってことも伝説の要因となったということなのでしょうか。



プロフィール

morinousagisan
阪神間在住。京都奈良辺りまで平日に出かけています。美術はまるで素人ですが、美術館へ出かけるのが大好きです。出かけた展覧会を出来るだけレポートしたいと思っております。
かつて関西のアートサイトに読者レポートとしてアートブログを掲載して頂いていたご縁で、展覧会担当の広報会社さんから私個人に内覧会や記者発表のご案内を頂戴し、「アートアジェンダアートブログへ投稿」という形を広報会社さんに了解頂いて、アートブログを投稿しています。アートブログは全くの素人の個人としての活動です。
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