平成中村座・大歌舞伎にみる芸術文化と街まで創る歌舞伎パワーに刮目!
紅葉南下も足踏みしそうな、温い空気の10月下旬。人生初の平成中村座十月大歌舞伎を鑑賞に数年ぶりの浅草訪問です。
江戸時代を再現した芝居小屋の歌舞伎見物、令和の演出家と歌舞伎役者の創り上げる”今”の芸術文化爆誕の熱気にあてられて、興奮うなぎ登りの演劇芸術についてレポート。
まず平成中村座。幟(のぼり)や筋書にも書いてありましたが今回の公演は猿若町発祥180周年記念だそうです。この猿若町誕生物語もなかなか深イイ話なのですが、町は江戸時代末期に作られた芝居町。現在の浅草6丁目、浅草寺の道路1本挟んだ北東部周辺にあたります。
11代将軍徳川家斉の治世、奢侈を禁じた天保の改革で3つの芝居小屋がまとめて強制移転させられたのが出発点です。
当時この界隈は、浅草寺の他は全周囲ほぼ田んぼ。カエルやアメンボ、トンボにヤモリがバンバン飛び交う大自然の一等地。思い切り嫌がらせな移転です。
綱紀粛正とか風紀取締とか、いつの時代もお役所(行政)対応は本当に露骨というか。。。
が、しかし!!そんな全周囲田んぼな立地に中村一座を始めとした芝居小屋が演劇芸能で人をどんどん呼び込み、芝居を見るならと茶屋が生まれて、僻地なら泊まろうとばかりに宿屋ができて、屋台ができて呑み屋ができて、近くの吉原にも足を運んでみるみる人が流れて、あれよあれよと田んぼは一大歓楽街へ大発展!
いいですよねー、こういう下剋上(ざまぁ)物語(笑)
町の名前は、活気の中心である芝居小屋の中村座当主、猿若(中村)勘三郎に因んでいます。
そんなこんなで令和の現在も歌舞伎【中村屋】の本拠地はここ浅草。公演期間では浅草商店街も鑑賞者にクーポン割引するなど平成中村座を力強く後押ししています。
江戸時代とほぼ同じ立地で仮設建築の芝居小屋、ワクワクしながら小屋の中へ入ると、本当にタイムスリップしたみたいです。大体小学校の体育館くらいの大きさでしょうか。よくこれを2ケ月足らずで建設したなあと目を瞠ります。
天井の中央に吊り下げられた大きな『平成中村座』の提灯がなんだか誇らしげに微かにユラユラしています。
当たり前ですが小屋なので、歌舞伎座より狭く、椅子も当時の江戸時代(平均身長160cm以下)用か!?と思えるコンパクトサイズ。パイプ椅子を一回り小さくしたくらいです。座布団も小っちゃい!
座っていると低空飛行の飛行機のエンジン音や、小鳥の囀りといった外界の音が聞こえてきて、なんとも不思議な気分です。
小屋という仮設施設ですから防音は乏しく、逆に江戸の中村座もこうやって外の喧噪を小さなBGMにしていたに違いないと実感を伴った想像がどんどん膨らみます。
金属のような澄んだ拍子木の音とともに舞台がスタート。
鑑賞演目は【綾の鼓】・【唐茄子屋】。
【第一部 綾の鼓】
ざっくり言うと、美人だけどやや性格が難アリのお姫様に庭掃除の年下少年が弄ばれ、しかし試練とされた楽器(鼓)お稽古に励む内、恋愛より芸道に目覚めて、最後はお姫様を振っちゃって鼓にまい進する少年の成長物語。プラス少年の師匠になった年上女性の悲恋。
この演目、基は能楽の演目です。しかも内容が段違いに暗くてこう、、、いろいろ重い。
原作あらすじは時代が古くなった分、姫→帝の妻の女御、庭掃除の少年→雑用老人になっていますが、女御に恋した老人は
一心不乱に試みるも鼓が鳴らないまま絶望して亡くなり、とうとう怨霊になって女御を恨んで呪って終了というお話です。く、暗。。
しかし歌舞伎はより華やかに、より多くの観客に非日常の物語として訴えかける内容にアレンジして昇華しています。
こういうアレンジや時代に即した改変は、本当に歌舞伎という舞台芸術の真骨頂なのではないかと次の演目の【唐茄子屋】で前のめりに鑑賞しながら思わずにはいられませんでした。
【第二部 唐茄子屋----不思議の国の若旦那----】
本公演でも話題の新作『唐茄子屋』。新作なので、ネタバレは控えめに。演出脚本は『クドカン』こと宮藤 官九郎(くどう かんくろう)さん。
TV『池袋ウエストゲートパーク』でブレイクして、朝ドラ『あまちゃん』大河ドラマ『いだてん』等手掛け、特に現役世代や若い世代にファンを持つ脚本家さんです。
主役は中村屋一門を率いる六代目中村勘九郎さん。脇を固めるのは弟中村七之助さん、父方の再従兄弟の中村獅童さんなど40代のバリバリ現役世代と坂東 彌十郎 さん、中村扇雀さんなどベテランの超・超豪華な布陣。
新作ではありますが、【唐茄子屋】という話そのものは落語の【唐茄子屋政談】を基にしたお話です。
唐茄子=カボチャ。ハロウィンシーズンにぴったりな演目。
見て分かりましたけど、内容の8割は落語のお話に結構忠実で、そう考えると古典の現代アレンジにも見えますね。
2割のクドカンアレンジが不思議の国の要素で、ジェンダーやパワハラを訴えるカエルやアメンボの妖精(妖怪か?)や、時間を止めたり不思議の扉を開けたり、池に飛び込んだら若返るファンタジーさが今に即したスパイスと言えます。
下ネタの時間が長いと見るか、アクセントと見るかは他の批評でもあるように賛否両論といった処でしょう。
でも、とにもかくにも愉しい。笑って身を乗り出して舞台に見入って、運が良ければ丸々としたカボチャが貰えて、カボチャ色のバレーボールが客席に飛んできて(ちょっとネタバレ)。。。。
観客と舞台が一体になった時間にはテンションダダ上がりで、皆が興奮冷めやらぬ内に終幕を迎えました。
これが落語のままの内容であれば、これほどの盛り上がりは無かっただろうと思います。
セクハラ含め時事ネタ、下ネタのスパイスを散りばめて、今ここにいる観客が反応する題材でアレンジして変化させる歌舞伎。鑑賞とは少し違う、肌で感じる体温のある生きた芸術がここにはあるのだと実感しました。
主役の勘九郎さんはインタビューで、この作品がやがて古典作品になる予感がすると語っていましたが、こうやって日々上演され、アレンジされたものが何十年か後に息子の勘太郎君がまた推敲して上演するのかもしれません。賛辞も批判も吞み込んで、また次へと【歌舞伎】という芸術が何世代も続いていくのだなと思います。
180年前、田んぼのど真ん中から芝居という芸術だけで1つの歓楽街を作り上げた歌舞伎を始めとした芝居芸術の一門達。
同じ場所で、同じ芝居小屋で古典作品を刷新した歌舞伎を上演する平成中村座の面々。江戸も令和も観客を楽しませようと舞台創りに励んで、【歌舞伎】という舞台芸術を作り出す彼等に心からの拍手喝采を!
江戸時代の娯楽、空気を体感できる平成中村座大歌舞伎。ちょっと奮発して、江戸の非日常のエネルギーを愉しみ満喫してみてはいかがでしょう。
【詳細】
平成中村座 十一月大歌舞伎|平成中村座|歌舞伎美人 (kabuki-bito.jp)
猿若町発祥180年記念 平成中村座 十一月大歌舞伎
2022年11月3日(木・祝)~27日(日)
第一部 午前11時~
第二部 午後3時45分~
※開場は開演の45分前を予定
【休演】8日(火)、21日(月)
- 松席(1階平場席)15,000円=床で座布団。お行儀よく正座だと多分足痺れます。
- 竹席(1・2階長椅子席)14,500円=椅子は小さめ。荷物はコンパクトに。
- 梅席(2階長椅子席)11,000円=竹の後ろ列。観劇に影響は少ないです。
- 桜席(2階長椅子席)9,500円=舞台の横上。幕の内側なので役者がせり出すと表情が見えないが、舞台装置の移動や暗転中の裏方の色々が見えるレア席。
- お大尽席(2階特別席)30,000円=舞台真正面で、観劇中に色々御用聞きしてもらい、送迎も付くVIP。