「水木しげるの妖怪 百鬼夜行展-お化けたちはこうして生まれた-」 ~日本の【お化け】のルーツ~

終幕直前になりましたが、水木しげる生誕100周年を記念した【百鬼夜展】を訪問しました。
会場は東京港区の六本木ヒルズ52F東京シティビュー。
眺め抜群です、高所恐怖症の方はおススメできませんが。
本展覧会は、日本人が思い浮かべる妖怪の姿を認識定義した水木しげるの描く鬼太郎を始めとした『妖怪ようかい』の誕生ルーツを水木しげるの所蔵品、作品を中心に展示紹介しています。
【ゲゲゲの鬼太郎】といえば昭和世代は正解回答率90%行きそうですが、今の平成・令和の若年層は妖怪とかに親しむアニメとかあったかな?
と客層に首を傾げましたが、会場には高校、大学生くらいのグループもチラホラ見かけて鑑賞世代の幅は意外に広い。
ちなみに私が知る一番新しい妖怪モノ作品では少年ジャンプ連載の【ぬらりひょんの孫】。
雪女が可愛かった。
耳鳴りのする高層エレベーターでたどり着いた52Fの会場を、入場から出口まで順繰りにレポートします。
第一会場では、景色丸見えの見晴らしの良いフロアに出身地の境港市に並ぶブロンズ妖怪たちが鎮座してお出迎え。
なんだかこのフォルム、見ているとどっかのアニメとか漫画で見た記憶が・・・となにかを彷彿とさせる姿に後の世代の漫画、アニメのルーツを感じます。
例えば。。。
◆『キジムナー』 =沖縄諸島周辺で伝承される妖怪。樹木(一般的に ガジュマル の古木等)の 精霊。
→顔が大きく短い手足。樹木の精霊…ジブリのもの●け姫の森にたくさんいた白い木霊が思い浮かびます。
◆『べとべとさん』=夜道を歩く人間の後をつけてくるといれる妖怪。奈良では暗い夜道で 、静岡では小山を降りるときに遭うという 。
→まんまるの体で歯並びの良いスマイルの形に笑う顔。腕がオートメイルの少年錬金術師の話に出てきたフラスコの中の小人そっくり。。。
などなど。上記の他にもどこかで見たような、あるいは異界のお風呂屋で働く少女のお話にいなかったっけ?と連想したり、どこか懐かしくなるような妖怪像が並びます。
ブロンズ像コーナーに続く2番目の撮影不可のコーナーでは妖怪絵画の祖と言われる江戸時代の絵師、【鳥山石燕とりやませきえん】の妖怪解説本「画図百鬼夜行がずひゃっきやこう」、昭和初期の民俗学者【柳田國男やなぎだくにお】の「妖怪談義ようかいだんぎ」など、水木しげるが所蔵した妖怪関係資料が初公開。
水木しげるの描く妖怪は明らかにこの資料に大きな影響を受け、参考にした事が伺えます。
そして彼が民俗学や妖怪に関する書籍を探して資料を読み込んでいた事が次の原画コーナーの作品からも良くわかる、わかりみの深い動線配置です。
原画コーナーの中に組み込まれた彼のアトリエを再現した空間。
「山」「水」「里」「家」に棲むテーマの妖怪画の【百鬼夜行】コーナーの作品を見ると本当に写実的で、妖怪の多彩さと同時に水木しげるの画力に驚きます。
妖怪部分だけは【海坊主】やら【夜雀】やら【二口(ふたくち)】やら【ぬらりひょん】等、妙にデフォルメされたアニメキャラの描き方なのですが、背景の海や山、昭和初期の日本家屋の中がとにかく細かくて写実的でリアル。
今はアプリやPCのフォトショップで写真をモノクロ絵に一瞬で変換できますが、当然水木しげるの時代にそんなソフトはありません。
影や服の色彩を表現する漫画で必須のスクリーントーンも無いんです。
当たり前ですが全て手書き!光の陰影とか斜線のみなんです!
写真に見紛う実写絵のペン書きの痕跡に慄きます。しかも彼は第一次世界大戦時の負傷で左腕を失うハンデがあるのに、どうやったらこんなに細かく描けるのか。。。高い描写力にひたすら感嘆するしかありません。
どれだけ時間がかかるんだろうかと想像して気が遠くなりました。
一つ目の傘とか砂かけ婆とか、たくさんの妖怪画を見ていて思うのは、彼の描く妖怪達が不思議に怖くないということ。
もちろん恐ろしい外見のものもいるのですが、その在り方が「あれ?でもそれって退治しなきゃダメなレベル?」と勧善懲悪に親しみやすい私たち現代人でも首を傾げてしまいます。
気づかない内にご飯を食べてしまったりいたずらをするけれど、棲む家に繁栄をもたらす【座敷童】、
同じくふらりと家に上がり込んで無銭飲食だけする【ぬらりひょん】、鬼太郎にも出てくる【ぬりかべ】は、道往く人の通せんぼをしますが、おまじないを唱えれば通行可能です。
そしてコロナで話題になった【アマビエ】はパンデミックを予言して対策まで教えくれる親切な半魚人(神?)。
ハリウッド映画のように侵略してくる未知の生物ではなくて、日常生活の中でふと気付いたら隣にいる『人』ではない生きもの達。
不思議だけど、ちょっと怖いけど妙に愛嬌のある『日本人の思い浮かぶ妖怪』が水木しげるによって形を持ったのだなと自然に腑に落ちました。
隣接したグッズコーナーにはマスキングテープやステーショナリー、カップにハンドタオル等、ついつい財布が緩むグッズが充実しています。
記念にグッズを購入してほくほくした気分で会場を出る時、ふと思い出した【となりのト●ロ】のポスターに書いてあったキャッチフレーズ、妖怪にピッタリだなと思いました。
『このへんないきものは、まだ日本にいるのです。たぶん』
六本木ヒルズの展覧会は終了しましたが、9月16日より滋賀県の佐川美術館で巡回展スタートします。
■会場■ 佐川美術館
■会期■2022年9月16日(金)~11月27日(日)
佐川美術館 (sagawa-artmuseum.or.jp)