櫛、かんざしの多彩に広がる美の世界 寄贈記念展 澤乃井櫛かんざしコレクション―美を継ぐ―@細見美術館
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- by morinousagisan

2023年5月末に休館、2024年8月に閉館した東京都青梅市にあった「澤乃井櫛かんざし美術館」から約5,000点の装身具の寄贈を受けたことを記念する展覧会です。
細見美術館はこれまでも「澤乃井櫛かんざし美術館」の所蔵品を紹介する展覧会を開催してきました。そのご縁もあり、この度コレクションを散逸させたくないとの「澤乃井櫛かんざし美術館」の前館長の強い思いが細見美術館へ引き継がれることになりました。
東京方面の方ならお出かけになったことがあるかもしれません。今は美術館のHPも閉じてしまわれていますが、「澤乃井」で有名な東京・青梅にある酒造メーカー「小澤酒造」です。HP を見てみるとええとこですねぇ。ここに「澤乃井櫛かんざし美術館」があったのですね。
元は京都祇園の芸妓で、後に東京へ出て料亭の女将となった岡崎智予さん(1924-1999)の蒐集品を一括継承して、小さな細工物がお好きだった初代館長が1998年に開館したのが「澤乃井櫛かんざし美術館」です。江戸から昭和までの櫛、簪を主軸として、新たに作品、資料をも加えて、装身具の魅力を紹介してきました。
アートアジェンダ掲載の本展の紹介にある画像、ピンクの”かいらしい”かんざしを見て、画像のキャプションも確認せずに「実物を見たい!」と思ったのでした。現地でその素材に驚いたのでしたが。
友の会会員向けに 櫛、簪や本展の見どころについて、前澤乃井櫛かんざし美術館館長で現 青梅市観光協会副会長の小澤徳郎さんの解説会がありとても興味深く拝聴しました。
「櫛、簪」については、女性の装身具の一分野として、日本髪に関連することとして研究している方はいますが、「櫛、簪」に特化した研究書や研究者はなく、専門家がいない分野の1つだそうです。

第一展示室は、「多様な髪飾り」その種類の多様さを紹介しています。
- 櫛:髪を梳いたり、まとめたりするためのものです。髷の根元などに挿して飾としたり、櫛に髪を巻き付けて髷を作る髪形もあります。黄楊、象牙、鼈甲などで作られ、そこに様々な文様が施こされました。木地や象牙に蒔絵を施したもの、鼈甲に蒔絵で図柄を施したもの、硝子と鼈甲を組み合わせたものなどなど様々。
- びらびら簪:「歩揺簪」とも書くように、簪の飾から垂れ下がる鎖などが歩くたびに揺れて微かに音がする。揺れる様がビラビラなのか、音がビラビラと聞こえたのかもしれません。
- 平打簪:飾りの部分が薄く平たい簪です。先の飾り部分は、水晶、玉、ガラス、鼈甲など。
- 大振りで豪華な秋田花嫁簪は、3日3晩かけて行われた秋田のある地方での結婚式で花嫁を飾った簪です。その金銀細工は超絶技巧です。とにかく派手!
- 笄(こうがい):頭を搔いたり、耳掃除用の小道具であった笄は、長い下げ髪を細長い棒状の笄に巻き付けるようになり、江戸時代に髪飾りとして用いられるようになりました。ギヤマンやビードロといった洒落たものや、櫛とセットになったものも展示されています。
- 世界の櫛コレクションの中からスペイン、イギリス、中国のものを展示しています。女性の髪質や髪の結い方、民族衣装に合わせるなどそれぞれのお国柄が髪飾りにも表れています。
- 旭ダイヤ簪:熱海美術館(現MOA美術館)の創設者でもある岡田茂吉さんが大正時代に考案した光るアクセサリーです。完品は珍しいのだそうです。
- いち止め:髷の上に細長いヘアピースのような「橋(の毛)」を装着するときに用いたもので、「髷止」とも呼ばれました。
時代を写したアール・ヌーヴォー簪や、洋髪用の髪飾りも展示されていました。
メインヴィジュアルの《桜花文蒔絵櫛》江戸時代(18世紀) は、「澤乃井櫛かんざし美術館」のシンボルマークにもなっていたそうで、最初のコレクター岡崎智予さんの一番のお気に入りだったそうです。巧緻で写実的な意匠が多い櫛のなかで、抽象的といいますか、シンプルなデザインの大振りの櫛で、厚みがありその厚みとなっている部分にも桜文様が施されています。
《桜花文蒔絵櫛》のお隣は、初代館長のお気に入り、そのお隣は前館長お気に入りの《蜻蛉秋草蒔絵螺鈿象牙二枚櫛》「芝山」銘 江戸時代(19世紀)で、二枚櫛は横に並べて時間の経過も表されているとの説明でした。
唯一無二の光琳の櫛
《鷺蒔絵櫛》「法橋光琳」銘 印「方祝」江戸時代(18-19世紀)京の呉服商雁金屋に生まれた光琳ですが、若い頃は遊興にふけり、江戸に下った先で世話になった家の女主人にお礼に贈った品なのではないかという前館長のお話で、髪飾りとしては光琳唯一の品と思われるそうです。素人目にも作りも豪華であることは明らかな、特別な一品です。

第二展示室では、材質や意匠、蒔絵師や絵師にも注目します。また、細見美術館のコレクションとのコラボ展示や浮世絵をデザインにした櫛なども紹介されています。
櫛や簪は付ける人の身分や立場、年齢、TPOなどによって選ばれるものも違うでしょう。また、材質にあう意匠を職人、あるいはデザイナーが考案したり、反対に意匠から材質を選ぶこともあったでしょう。女性の髪型と共に髪飾りの流行も当然の如く変化していきました。
櫛には、鼈甲、黄楊などの木製、象牙、金銀からアルミなどの金属、珊瑚、ガラスなどがあり、装飾法も漆、蒔絵、螺鈿、象嵌、透かし彫りなどがあります。櫛の上部「棟部(むねぶ)」、時には歯の部分にまで及ぶ装飾もありますが、いずれにしても小さなスペースに精緻に意匠が施されており、職人の技術の高さと矜持をも感じます。時代を経ると有名絵師とのコラボやその時代を代表する職人の手によるものもあり、絵師名や職人名も伝わり、「銘」が記されたモノもあります。名匠による誂えの1点ものだったかもしれません。
「抱一筆・羊遊斎」銘などは、江戸琳派の酒井抱一がデザインをして、蒔絵師の原羊遊斎が装飾を担当した品です。細見館長のお話によると、姫路城主の次男であった抱一にデザインを依頼するなどそう容易なことではなく、蒔絵師の第一人者の一人、羊遊斎でもコラボするなどなかなかできる事ではないそうです。抱一は、俳諧も嗜み遊郭へも通い、やがては吉原の遊女を身請けするほどで、抱一筆の櫛などはその方面にプレゼントしたものかもしれません。
意匠、デザインは、本当に多種多様です。吉祥模様、王朝物語や和歌に詠われた名所絵、嫁入り道具としての家紋を入れたものや、南蛮ものの異国趣味や隠れキリスタンが所持したものなのかクルスなどなど、題材を櫛や笄の小さな空間にデフォルメしたりトリミングしたりしてどのような構図で配置して表現するかそこがまさに匠の腕の見せ所でしょう。季節を題材にしたものは多いですが、今回は秋をデザインしたものが展示されています。まだまだ残暑の頃、ファッションは季節を先取りするのが「粋」。
『今様櫛きん雛形』(文政6年(1823))は、葛飾北斎が「櫛」と「煙管」の職人のために手がけた図案集で、実物大に描かれています。「櫛の形からはみ出した部分については、反対側へ折り返して裏面の図案としてください」と北斎の注意書きがあるそうで、職人たちは、ページを切り取って櫛や煙管用の部材に直接貼り付けて使用したそうです。《北斎「富嶽三十六景」尾州不二見原写蒔絵印籠》「巨満遠舟写」銘《北斎「富嶽三十六景」尾州不二見原写蒔絵櫛》、作りかけの大きな桶の中にはいった職人越しに見える富士山の有名な図柄で、これが印籠と櫛がセットとなっています。他に人気の「伊勢物語」の一場面「業平東下り」を意匠にした印籠と櫛のセットもあり、ペアルック!お揃でもって気分があがるのは今も昔ものようで微笑ましい。
第二展示室の独立ケースには明治期以降の櫛、簪が展示されており、そこに私のお目当てがありました。あの愛らしい櫛は、セルロイド製でした。昭和期に作られたものですが、セルロイドは可燃性が高く、今では製造されていません。
坂東玉三郎さんが寄贈された木箱に入った簪もあります。玉三郎さんは、舞台に上がるとき小道具さんが用意した簪でなく、本物の簪をご自身で用意されたそうです。演目や衣裳にあう簪を岡崎さんのコレクションから借りられることもあり、そのご縁が繋がり「澤乃井櫛かんざし美術館」へご自身のお持ちのものをご寄贈されたそうです。
第三展示室では、小物装身具や超絶技巧に注目しています。
変り形簪、仕掛け簪、細工物など、おやっとなる簪が紹介されています。中には”くのいち”が毒針を忍ばせた簪(ありそう)やちょっとしたからくり仕掛けなど、面白い簪も紹介されています。キセルやタバコなど喫煙道具をまとめて収納した「たばこ入れ」、小型の携帯ポーチ「筥迫(はこせこ)」、印籠や矢立など男女ともに携帯用の小物に小粋なおしゃれを楽しむ文化が素敵です。
知らなかった髪飾りの世界が目の前に次々と広がる目が驚き喜ぶ展覧会でした。
【開催概要】
- 会期:2025年9月6日(土)~2025年10月13日(月・祝)
- 会場:細見美術館
- 休館日 月曜日(祝日の場合、翌火曜日)
- 観覧料:一般 1,800円、学生 1,300円
- URL:http://www.emuseum.or.jp/index.html
※京都国立近代美術館、京都市京セラ美術館で開催中の展覧会と相互優待割引あり(展覧会によって適用の有無があります)