サラ・モリス 日本初の大規模個展 大阪中之島美術館で開催中
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- by morinousagisan

ニューヨーク在住のサラ・モリス(1967~)の初期から今日までの代表的作品を展示する大規模回顧展「サラ・モリス 取引権限」が大阪中之島美術館で開催中(4月5日まで)です。
出展作品の約90%が日本初公開です。映像作品の動画撮影以外は、全作品撮影可で、鑑賞レポートも投稿しましたが、撮影した画像を掲載して改めてアートブログへ投稿いたします。内容は鑑賞レポートとほぼ同じです。
2022年2月2日に開館した大阪中之島美術館の開館前、2019年秋に「大阪中之島美術館 開館プレイベント2019 『新収蔵品:サラ・モリス《サクラ》』」が開催されました。その時は見逃してしまっていたのでしたが、「サラ・モリス」というアーティストの名前は記憶に残りました。しかし、彼女の作品については全く予備知識がないままに本展覧会に出かけていきましたが、観終わってこれがサラ・モリスなのかと大きな充実感で満たされた展覧会でした。大阪以外の巡回がなくあと1か月で終わってしまう日本初の大規模個展で、彼女はこれからも次々と個展を控えており、現時点でモリスの作品を振り返ることが出来る貴重な機会です。
展覧会サイトや展覧会のチラシにある「図式的なグリッドを用いた幾何学的な抽象絵画」とはどんな作品なのでしょう。

大阪中之島美術館は、モリスの作品を日本で初めて収蔵した美術館です。アートアジェンダの本展紹介に掲載されている2作品も収蔵作品です。本展「サラ・モリス 取引権限」は、モリスの初期から最新作品まで、代表的な絵画41点、絵画制作と並行して取り組んできた映像作品も最新作《クリス・ロック》個人蔵を含めて17点が会場にて上映されています。これらに加えてドローイングやポスター、資料も展示され、制作過程も知ることができる、サラ・モリスの現時点までを知る展覧会となっています。
映像作品は上映時間が決まっていますのでご注意ください。【上映リスト】⇒◆
【作品リスト】⇒◆

展示会場にはよくある作家の経歴年表のようなものはありません。サラ・モリス自身のバックグランドも知りたいと思いました。
1967年イギリスに生まれ、アメリカで育ち、現在ニューヨーク在住。幼い頃より絵を描くのは好きだったが、美術を専門に勉強した訳ではなく、アメリカの名門大学ブラウン大学の記号学部に学んでいます。図録掲載のモリスとジョン・ケルシーとの対談で「私はブラウン大学で[美術ではなく]記号論と政治哲学のプログラムを受講したのです。」とありました。そして建築にも興味があったそうです。「記号論」というのがそもそも私にはよく分からないのですが、ケンブリッジ大学ジーザス・カレッジを経て、『バルーン・ドッグ』で有名なジェフ・クーンズや美術批評家ハル・フォスターの知己を得て、ホイットニー美術館インデペンデント・スタディ・プログラムに参加し、その間にジェフ・クーンズのアシスタントもつとめています。彼女に決定的な影響を与えたのは1989年ニューヨークに拠点を移したことであると図録に解説されています。1989年は、ベルリンの壁が崩壊し、翌年東西ドイツが統一しました。マルタ会談が開催され、第二次世界大戦後のヤルタ体制が終わり、東西の冷戦も終わったと世界は感じた年でした。世界の体制が変換するかに思えた激動する80年代終わりから90年代にかけてモリスは多感な時期を過ごし、ニューヨークで1989年を迎えました。この時期はモリスの作品制作の基礎となるヒントがありそうに思いました。
以下主な展示作品は、本展覧会サイトの「出品作品」に解説されています。
1.「サイン・ペインティング」シリーズ
アメリカのホームセンターで売られている私有地の境界への注意喚起用看板のタイポグラフィを引用して再解釈した最初期のシリーズです。

2.「ミッドタウン」シリーズ
モリスは、1990年代初期ニューヨークのタイムズスクエア近くにスタジオを借り、世界経済の中心地でもあるマンハッタンの高層ビル群をテーマとしました。その後の都市名を持つ絵画シリーズへと続いていきます。あぁ、これが「図式的なグリッドを用いた幾何学的な抽象絵画」と説明されていたものなのかと思いました。幾何学的ではあるのですが、夜に下から見上げた高層ビルそのもののように見えました。

3.「サウンドグラフ」シリーズ
映像作品《有限のゲームと無限のゲーム》の撮影時にモリスが録音した音声をもとに、モリス自身の声を絵画に転換しました。

4. 「スパイダーウェブ」シリーズ
コロナ禍のステイ・ホーム中に蜘蛛の巣という小さな身近な自然に目を向けて生まれたシリーズで、まさにネットワークです。

絵画制作と並行して映像作品も制作しています。映像制作に向けてのリサーチ資料も展示されています。サラ・モリス自身によるインタビュー映像作品もあり、インタビュアーとして投げかける彼女の問いかけは彼女の関心のありどころであり、目まぐるしく次々と流れていく都市の情景は、彼女の関心の先を紡ぎながら、それぞれの対象物(者)を浮き彫りにしていきます。都市の絵画シリーズは、映像制作を通してモリスの中で整理されて「図式的なグリッドを用いた幾何学的な抽象絵画」、平面の表現となったように思いました。
大阪との関わりでいうならば、2017年と2018年に大阪を訪れたモリスが制作した「大阪」シリーズや
大阪中之島美術館が所蔵する映像作品《サクラ》があげられます。東京でも京都でも奈良でもない大阪。モリスが幼い頃父のラボで働く科学者からお土産でもらったサクラクレパスが着想源の1つだったともいわれています。身近な街や桜の季節に私たちが見落としている、見過ごしていた、光景も映し出しています。
※上映リストによれば映像作品《サクラ》は、12:36から上映時間50:06 min 必見です!

住吉大社の松や「松ぼっくり」シリーズ、《ゆず[大阪]》、更には大阪、天王寺区に本社がある世界最古の建築会社を作品にした《金剛組》、モリスの視点や関心の先がとても興味深く作品の前に立ちました。

展示室の1壁面全体に本展のために制作された新作壁画《スノーデン》は、18.85m×5.9mという大きさです。本展内覧会の直前まで制作されていた「サイトスペシフィック」な作品、つまり設置場所の建築や空間に直接的に呼応する作品です。この壁画の立面図、テクニカル図面、制作スケジュールなどの資料も展示され、モリスの厳密にして緻密な制作過程が伝わってきます。都市や森や建物のイメージや画面に描かれた雪に由来するものと考えられますが、私も映画を観たことがある「スノーデン事件」の「スノーデン」ともリンクすれば決して能天気に眺める壁画ではなさそうで、多様な解釈がありそうです。「サイトスペシフィック」な本作は、展覧会が終了すれば元の白い壁面に戻されるとのこと。本展覧会会期中にしか観ることができない貴重な作品ですので、お見逃しなく!

本展には、新聞社やテレビ局などのメディアの協賛はなく、グッズ展開もありません。なんだか潔い!あるのは図録だけです。「モリスの日本語文献としても貴重な一冊です。」と紹介されています。
世界情勢は刻々と変化し、その変化の速度も加速しているように感じています。アート界もAIやChatGPTも内包し、図録掲載の対談でもモリスも語っています。今後サラ・モリスはどのように展開していくのかその制作も大いに注目されるところです。
本展覧会のタイトル “Transactional Authority” 「取引権限」難解!「自己と他との関係性」でしょうか。皆さんはどのように解釈し受け止められたでしょう。
※作品はすべて©Sarah Morris
学芸員によるギャラリートークも開催されます。詳しくは ⇒◆
【開催概要】「サラ・モリス 取引権限」
- 会期|2026年1月31日(土)~4月5日(日)
- 会場|大阪中之島美術館 5階展示室
- 休館日|月曜日
- 開館時間|10:00~17:00(入場は16:30まで)
- 観覧料|一般1800円(団体1600円)、高大生1200円(団体1000円)、中学生以下無料
- お問い合わせ|06-4301-7285(大阪市総合コールセンター)
- ウェブサイト|https://nakka-art.jp/exhibition-post/sarahmorris-2026/
※参考:モリスがアシスタントをつとめたこともあるジェフ・クーンズの展覧会『JEFF KOONS PAINTINGS AND BANALITY SELECTED WORKS FROM THE COLLECTION』がエスパス ルイ・ヴィトン大阪で開催中です。⇒◆