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藤田美術館の新しいテーマは「雨」

《伊賀青蛙手焙》江戸時代 18世紀 藤田美術館蔵

寒さがいつまでも続いて、最寄駅から徒歩1分というアクセスのよい藤田美でさえ行き難かったり、そうこうするうちに春の展覧会が始まり、ついついいつでも伺えるということに甘えて少しお久となった藤田美術館です。6月1日に館長と武者小路千家第15代家元後嗣千宗屋さんの対談イベントが披かれるという事で伺ってきました。あみじま茶屋のフロアーと座敷も満員の大盛況でした。

そもそも藤田美さんのご所蔵が当然のことながら良いものばかりなのもあるが、3つのテーマでの展示で、毎月新しい1つのテーマが加わる。そのテーマに沿ってセレクトされた品々が秀逸。展示品は決して多くないのですが、日々老化最前線、ゆっくりゆっくり1つ1つ観たい者にとっては30件程の展示件数がちょうどなのです。解説もキャプションとして作品の側にあるのではなく、スマホで聴いたり読んだりする事が出来る。(私は読む派)つまり、展示ケースの中には余計なものがない。

『芸術新潮』の千宗屋さんの連載「飲みたい茶碗、点てたい茶碗」が3月号で終わってしまった。毎号楽しみで真っ先に読んでいたのに残念でならなかった。そこで見つけたお二人の対談、「千宗屋×藤田清 似タモノ同士」、お二人のことではなく、藤田美コレクションと似たものが・・・のお話でした。

テーマ「似~似て秘なる、秘して似たる」」について、藤田美術館の説明を引用させて頂くと

「似ると書いて「にる」とも「かたどる」とも読む。 つまり形を作ることは何かに似せることと同義。似せて作るとは美術というものの本質を表している。 人は何かに似ているということからものを認識し形を読み解いていく。そして数が少ないほど稀少なものとして価値付け大切にする。」テーマ「似」のキュレーションは千宗屋さんで、図録解説もすべて千さん執筆だそうです。


左から:重要文化財《交趾大亀香合》中国・明(17世紀)藤田美術館蔵、《交趾大亀香合》個人蔵

まずは、藤田美蔵の黄色い《交趾大亀香合》にまつわるお話。藤田傳三郎最期の収集品、ネットで調べてみると「看取りの亀」とも書かれています。近代数寄者の一人、「日本のビール王」馬越恭平(化生)から唐物茶入・田村文琳を譲り受けた藤田傳三郎は、この茶入に見合う道具を揃えた茶会を披きたいとかねがね考えていました。そこで目を付けたのがこの《交趾大亀香合》です。江戸時代は鴻池善五郎が所持し、安政2年(1855)の「形物香合相撲」番付表では最高位の東の大関に格付けされた代物で、その後神戸の生島家にありました。すでに病床にあった傳三郎ですが、生島家売立てにこの香合が出されることを知り、谷松屋戸田商店へ入札を依頼、最高値で落札となりましたが、予想を下回る金額に持ち主が売却を撤回することになり、結局9万円という破格の値で藤田家に入ることとなりました。(下世話のものはツイツイ今の価格では?・・・との話になりますが、ちょっと想像がつかないとのお話でした。)傳三郎は落札の知らせを聞きましたが、そのまま息を引き取ったと伝聞がのこる香合です。茶会では、前半の見せ場ともいえる炭手前で渋いお道具の中で色のあるお道具が香合です。亀の香合はお目出度いこともあって好まれたようで、現在日本では、雲州松平家伝来品で野村美術館所蔵品と根津美術館蔵品がよく知られていますが共に緑色のような「惣萌黄」です。藤田家蔵の香合は大振りで、炭手前でも片手で女性が扱うのはなかなかに大変だろうとのお話でした。

本展に展示されているもう一つの個人蔵の《交趾大亀香合》も「惣萌黄」です。数年前に宗屋さんのもとへ見てほしいとこの香合の画像が送られてきました。「交趾」とは、現在のベトナム北部の地名を指しますが、実際には中国福建省漳州窯系の民窯で明末期から清代にかけて焼かれた、緑・黄・紫色の三彩のいわゆる交趾釉が施された焼き物のことで、そのうち香合は型による生産で、掌に収まる小ぶりな合を、茶の湯の道具とし日本にもたらされました。当の香合が保管されていた次第を実見された宗屋さん、春慶塗の箱から取り出されたいちご裂の四つ手の仕覆、これを解くと現れたのが所謂「藤田箱」のようだと思われたそうです。藤田家では、お道具が入ると直ぐに保管する仕覆や箱を仕立てられるように、それ専門の指物師、袋師が常駐していたそうです。そこで館長にお尋ねになると、藤田家に伝わっている蔵帳にもう1つ《交趾大亀香合》が記載されていました。型による生産で同じ型、あるいは近しい型によってつくられたものかもしれません。その後調査されてこの香合が藤田家旧蔵のものと判ったそうです。掲載画像、藤田美術館蔵の《交趾大亀香合》が、他家に渡った《交趾大亀香合》を喜んで出迎えているように見えたのでした。6月からの展示では、国宝《曜変天目茶碗茶話》と共に藤田箱も展示される予定とスタッフさんから伺いました。


左から:《Sleek》個人蔵、《茶杓 茶瓢》珠光作 藤田美術館蔵

《Sleek》は、Achille e Pier Giacomo Castiglioni(アキッレ・カスティリオーニ&ピエル・ジャコモ・カスティリオーニ兄弟)デザインによるAlessi (アレッシィ社) の瓶の底などに残るソースやマヨネーズやジャムを掬い取るためのスケルトンのスプーンで、樹脂製です。もともとは、マヨネーズのノベルティグッズだったそうです。《茶杓 茶瓢》は、最も初期に作られた竹茶杓で、侘び茶の創始者、村田珠光が作った茶杓と伝えられています。中間の節で括れ、その上下が膨らんでいる姿から、宗旦が「茶瓢」と命銘しました。さて、この二つの似ている所とは?

相通ずる機能美をもつ日本美術と現代のプロダクトを並べて語るというデザイン雑誌の企画が始まりです。初めは、金属や象牙で作られた薬匙が用いられたが、茶の湯点前が始められると、小さな茶入の口から抹茶を掬い出すには匙の形ではスムーズにいかないことから、細工もしやすく、何処にでもある素材から竹の茶杓が作られるようになり、形状が変化し、利休によって形式が定着していきました。瓶の底のマヨネーズやジャムは普通のスプーンではきれいに掬い取れず、それならと考え出された《Sleek》は、同じものを大量に生産できる樹脂製です。プロダクトデザインが共通項です。

・参考「ART TALK_20|茶事とアート前編 千宗屋さん(武者小路千家第15代家元後嗣)」


左から:一翁宗守(似休斎)作《茶杓 共筒》江戸時代 17世紀 官休庵蔵、千利休作《茶杓 織部筒》桃山時代 16世紀 藤田美術館蔵

確かに似ていますけれど、茶杓の相似は、手元で扱っている方でないと実感はとしてはないかもとも思いました。画像のキャプションが間違っていないことを祈ります。60年に一度、100年に一度の竹が枯れる時期なのか、環境の変化の影響なのか、近年素材となる竹が入手しにくくなり、茶筅などの材を入手するのも難しいとのお話も伺いました。

ちょっと余談になりますが、「茶杓」と言えば、一生分の茶杓を見た!の感があった忘れられない展覧会があります。2018年秋「百のてすさび 近代の茶杓と数寄者往来」@MIHO美術館 その時書き残したものから

監修者の竹芸家・池田瓢阿先生は、「竹という、ごく身近で手仕事のしやすい素材を用いたことこその美学といえ・・・竹茶杓の魅力は、その茶杓を削った我が国の茶人の歴史そのもの」と書いておられます。

茶杓には金属製や象牙や木製、現在ではガラスやプラスチック製まであるそうです。

しかし、茶杓といえば竹茶杓を指すようになり、「茶杓削り」は茶人の嗜みへと変えたのが、かの千利休でした。自作茶杓を総称して「折タメ」と呼ぶようになりました。折るように櫂先を「撓めた」茶杓で、同時に中節の竹の茶杓を指しています。利休には下削り(茶杓を造る手助けをする職方)が10人以上も居たらしく、それほどに利休の茶杓を求めるものも多かったのでしょう。利休の手の温もりも伝わる思いもあったのでしょう。利休は「折タメ」に筒を添えて贈りました。織部が利休の形見となる茶杓銘《泪》徳川美術館蔵 を筒に窓を開けて毎日手を合わせたとの逸話も残っているほどですから。なーんてことないと見えるシンプルな形状の茶杓に高い値が付きなどもあり、そこがまた秀吉などの癪に障る所だったかもしれません。利休亡き後も、利休を思い、利休に倣って自作の竹茶杓を削り残すこととなりました。


《黒楽茶碗 銘 まこも》長次郎 桃山時代 藤田美術館蔵

この長次郎茶わんと並ぶのがMOA美術館蔵《黒楽茶碗 銘 あやめ》です。私なんぞにはその違いはよく分かりませんが、「あやめ」の方がかせている感じでしょうか。手取りはどうなのでしょう。そもそも「まこも」(真薦)を分かる人も少ないかもしれません。マコモダケの”まこも”、 古くから日本にあるイネ科の植物で、鏡開きなどに使われる日本酒の菰樽はマコモを編んだものらしいです。久須美疎安の箱書からから、「あやめ」「まこも」の2つの茶碗があり、千宗旦が「まこも」、千宗守が「あやめ」を所持しました。「あやめ」に似ているけれど、より侘びているため「まこも」と宗旦が銘を付けたそうです。「まこも」と「あやめ」はどちらも水の中で生育する植物でよく似ているそうです。「まこも」は、中村宗哲⇒久須美疎安⇒銭屋江原忠七⇒泉州岸和田の矢倉与一⇒山下祐巴、道具屋勝兵衛(通称道勝)⇒鴻池伊兵衛⇒藤田家。MOA所蔵の「あやめ」は、宗旦の先妻の子で、武者小路千家の祖一翁宗守が所持し、そのまま官休庵に伝わったようです。並べて見比べて初めてその違いに気づくのかもしれません。画像が《あやめ》と間違っていないと良いのですが、それほどにヘボイ私の画像では見分けがつかない。

《黒楽茶碗 銘 まこも》


《本手利休斗々屋茶碗》朝鮮時代 16世紀 藤田美術館蔵

なり、ころ、ようすがそろった高麗茶碗、優しい佇まいです。茶道具は、それぞれに物語を担って現在ここにあります。本茶碗も特別な来歴を担ってきました。利休が雑器を茶の湯の茶碗とした美しい枇杷色の高麗茶碗です。箱書きは遠州です。利休所持から織部に渡りましたが、秀吉の朝鮮出兵の際に仕覆を手元に残して茶碗を質に入れて支度金に充てました。織部の弟子である遠州が、この茶碗を受け出して、後に織部をこの斗々屋茶碗でもてなし、織部は手元にあった仕覆を遠州に譲ったという逸話が伝えられています。後の世の茶人たちは、遠州の茶事に招かれてこの茶碗と再会した織部の気持ちに思いを寄せてきたのでしょう。近代までは小堀家にありましたが、幕末の松代藩士、明治期の検事の渡辺驥に渡り、明治37年(1904)に藤田家に納まりました。

この本《本手利休斗々屋茶碗》と並べられているのが《利休斗々屋手茶碗》個人蔵です。似ているのかなぁ・・・が私の個人的な感想です。こちらはかなり大振りで、色も枇杷色というよりももっとピンクがかっていて明るい色合いで、新しく作られたもののような印象を持ちました。毎日茶碗をご覧になっている宗屋さんが似ていると仰るのですから・・・。

《本手利休斗々屋茶碗》


国宝《両部大経感得図(龍猛)》藤原宗弘 平安時代 保延2年(1136) 藤田美術館蔵

廃寺となった内山永久寺の真言堂内にあった障子絵です。絹の大きな画面に、密教で重要な両部(2種)の経典「大日経」と「金剛頂経」に関する説話を描いています。本作「龍猛」は、「金剛頂経」を得た場面で、龍猛は秋の景色となっています。

この作品に並べてあるのが、本作の中に描かれている宝塔を造形に立体化して可視化した《鉄宝塔》鎌倉時代 小田原文化財団蔵 です。現代美術作家 杉本博司さんが収集してそのままでは終わるはずがありません。杉本さん後補として相輪の頂点から屋根を通って垂れ下がる飾りや本来は仏舎利をおさめてある水晶の代わりにガラスの球が納められ後ろから光が当てられ神々しく演出されていました。

国宝《両部大経感得図(龍猛)》

テーマ「似」は6月末までの展示です。自分の眼で確かめにお出かけになってはいかがでしょう。


道入(ノンコウ)《黒楽茶碗 銘 千鳥》江戸時代 17世紀、 《祥瑞砂金袋共蓋水指》明時代 17世紀

テーマ「鳥」では、コバルトブルーが鮮やかな祥瑞水指を背景にノンカウのモダンな茶碗の華やかで贅沢な空間。

《黒楽茶碗 銘 千鳥》

《祥瑞砂金袋共蓋水指》


藤原定家筆《時雨亭額》鎌倉時代 13世紀 藤田美術館蔵

テーマ「雨 雨を聴く」画像でご紹介。

メインヴィジュアル大きく口を開けた蛙さんが、あまりにも可愛くてメインヴィジュアルに抜擢しました。「手焙」ですが「花生け」としても使われたようで、紫陽花でも活けたのでしょうか


国宝《仏功徳蒔絵経箱》平安時代 11世紀 藤田美術館蔵

今回の締めは、この作品です。釈迦の教えが慈雨の如く降りそそぎます。

国宝《仏功徳蒔絵経箱》


5月に宗屋さんを迎えての茶会も催されたようです。トークショーにもその折に参加されたご婦人方なのか。お着物姿の方も多くおいでになっていました。展示室で展示品を前に語るのはまだしも、トークイベント中に私語をずーっとなさっている高齢のご婦人、どうなっているのでしょうかと思わざるを得ませんでした。茶道具の展覧会でしばし出くわす光景で残念です。

 

  • 藤田美術館  https://fujita-museum.or.jp/ 
  • 開館時間:10:00~18:00
  • 休館日:12/29~1/5 ※月曜日開館しています!
  • 入館料:1,000円(19歳以下無料)
  • お問い合わせ:06-6351-0582

プロフィール

morinousagisan
阪神間在住。京都奈良辺りまで平日に出かけています。美術はまるで素人ですが、美術館へ出かけるのが大好きです。出かけた展覧会を出来るだけレポートしたいと思っております。
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