音楽における絵のパワー 『希望のレクイエム ~人類の叡智 バチカンの美術画像とともに~』
先日ご縁を頂いた、Bunnkamuraオーチャードホールで実施された
『希望のレクイエム ~人類の叡智 バチカンの美術画像とともに~』
より、セレクト映像から音楽における絵のパワー恐るべしとつらつら考察です。
楽曲はイタリアの作曲家ジュゼッペ・ヴェルディ(1813-1901)が作った死者の安息を神に願う教会のミサ曲レクイエム(鎮魂歌)。
ヴェルディはモーツァルト、フォーレと並んで「三大レクイエム」と知られています。
世界でも数少ない女性指揮者の西本智実さんとバチカンの美術画像のコラボ、どんな世界が広がるのかとわくわくします。西本指揮者は2002年のTBS『情熱大陸』で初めて知りました。え?指揮者に女性っていたんだ?と深く考えず驚きだったのですが、個性がキラッキラな、アクの強そうな音楽家達を束ねるオーケストラ指揮者の世界の厳しさが垣間見えて、なろうと思ったのも凄いし、なったのはもっと凄い!
と現実の男女平等の厳しさと共に衝撃を受けたのを覚えています。
休憩無し80分ちょっとのレクイエム曲(WCは先に行っとくべきだったと少々後悔)。
曲の性質上に加えて指揮者の出す空気感なのか、悲壮ではないのですけど張り詰めた緊張感が漂います。
奏者もソロを歌う歌手も全員がブラックフォーマルな姿で、その背景に壁面10m四方くらいの画像が代わる代わる投影されます。
使用された美術は、彫刻が4点、絵画が2点です。ただしミケランジェロ絵画は範囲が広いので1点?のカウントか微妙です。
絵画①ミケランジェロ作【システィーナ礼拝堂天井及び壁画】※天地創造、最後の審判含む
〃②カラヴァッジョ作【キリストの埋葬】
彫刻①ミケランジェロ作【ピエタ】
〃②作者不詳 【ラオコーン】
〃③ベルニーニ作 【サン・ピエトロ大聖堂祭壇天蓋】
〃④作者不詳 【天使像】
この美術のチョイスが深イイ。奏でる音楽の深みが何倍にも増すのを感じました。
特にミケランジェロとカラヴァッジョ。彼らは順風満な人生とは対極で、波乱に満ち満ちた人生の持ち主。他の誰よりも、人の何倍も神に問いかけ、祈ったであろう男達です。
裏切りや犯罪に手を染めたり苦悩しながらも、それでもキリスト教の教えを説く絵画の説得力は他を圧倒します。
映し出されるシスティーナ礼拝堂壁画の【最後の審判】はまさにレクイエムの【怒りの日】章を視覚化したよう。。。
世界の終末の日、高らかに鳴るラッパと共に現れる神にに裁かれる全人類。
畏れ慄きながらも容赦も忖度もなく神の怒りにさらされて地獄に落とされる絵と、神への許しを請う歌声がすごい相乗効果です。
ドラマティックな情景と感情表現の巧みなカラヴァッジョの【キリストの埋葬】も、人々の後悔、嘆き、悲哀が強く伝わります。
本人は現実の殺人犯で、逃亡しながらも絵を描き続け、教会からの恩赦を願いながら各地を流転する人生を送りました。神への許しを請うミサ曲にこれほど相応しい画家もいないでしょう。
どの作品を投影させるかを選ぶのが指揮者なのか、それとも別の人なのかは不明でしたが曲と絵のメッセージ性が本当に明瞭。
映画のBGMや小説の挿絵、テーマソングなど、絵を見せたら音楽が思い浮かんだりその逆だったり、お互いを連想させる力は凄いと改めて感じるプログラムでした。
今後もこうした絵と音楽コラボのプログラムがあれば、絵の作品背景も調べるとより深イイ話に出会えるかもしれません。
曲目・演目
「オラショ」原曲 グレゴリオ聖歌より 「O gloriosa Domina」
ヴェルディ作曲 「レクイエム」
【日本語字幕付】※休憩なし
出演
指揮:西本智実
管弦楽:イルミナートフィルハーモニーオーケストラ
合唱:イルミナート合唱団
ソプラノ:幸田浩子
アルト:山下牧子
テノール:宮里直樹
バス:桝 貴志