4.0
ボンドを使ったフォルムの官能的表現
1960年代、大阪神戸の約20人の前衛芸術集団「具体」に参画。人の真似をするな、誰もやらないことをやれ、の気概で、心の中を抽象化し表現しようと若き日より模索。
そんな松谷氏のライフストーリーの展覧会です。
ボンドの液体をキャンバスに垂らして制作された作品の数々が中核。
初期では、ボンド粘液の塊りにストローで息を吹き込み、風船・泡のようなふくらみが作られる。風船・泡のフォルムが残るものもあれば、破裂・切断されているもの、更には破裂した泡が二重になっているものもある。
作品番号・タイトル・キャプションの表示はなく、ソリッドな展示空間が演出されている。これはやや、不親切とも言える。だが、そもそもタイトルだって「無題」とか「繁殖」とか。あまり作品の主題を理解する手がかりにはならない。
もとより、物質自体の流れや動き自体がオーガニックに作り出す形状によって、心象表現を追求している。表現したい主題が作家の方で事前に定まっていないのだから、タイトルには意味がないのかもしれない。
観る者が破れた泡から連想するものは、瞼か、唇か、女陰か、孵化した卵か。そこから感じとるイメージは、生殖、誕生、生命、官能、か。
ボンド作品はその後、ドライヤーや扇風機でさざ波のような形状を織りなすように、変遷・進化する。青の顔料塗料で厚みある土台を作り、その表面に鉛筆・グラファイトを擦り付けた立体感ある作品が多数。
松谷氏は「有機的、官能的」な表現を求めたと述べているが、私の鈍いセンサーでもこれは感じ取れたように思う。
横幅10メートルの紙の全面を、ひたすら黒鉛筆のストロークで塗りつくした《流れ6》(1982)。離れて見れば黒光りする単色の壁紙のようだが、近くに寄るとストロークの強弱やムラの跡が生々しい。気の遠くなる肉体作業、ゼイゼイした息遣いが聞こえてくるようだ。松谷氏の五感に訴えた生命感表現の形、印象に残る作品です。
現在87歳、パリを拠点に現役でご活躍中。素晴らしいことです。