4.0
100年前の巨匠アマ写真家の軌跡、圧巻
見応えあり。
100年前のアマチュア写真家(これは職業写真家が写真屋さんだった時代、アマの世界で写真芸術が育っていったということ)が38歳の若さで没するまでの約20年間の足跡が、時系列に5つの章で展示されている。
まずは20歳前後の第一章の作品群。これは絵画だ。ブロムオイル印画によるピクトリアリズムの芸術写真という括りなのだろうが、私は良く知らない。故に、実に新鮮だ。ソフトフォーカス、映像に動きはなく静謐の世界。大阪駅のシーンではエドワード・ホッパー、停留船舶のシーンはターナーを連想する。近くに寄って目を凝らすと、印画紙の表面は格子状のテキスチャーがあり立派なものだ。
その後、20歳台後半からはシュールレアリズムに傾倒してゆくのだが、その初期、謂わば試行期には、被写体オブジェクトに何かモノ(花、ネギ、等々)を置いてみたり。撮る対象の中に完成度高い造形美や含意を作り出す手法なのか、作品自体も堂々とした構図で立派だ。但し、好きかというと微妙ではある。
一方で、少年、横たわる裸婦後姿、労働者、云々の肌・身体の美しさを暗めに粒子粗くストレートに捉えた作品群は圧倒的だ。
メイデーの作品群は、エネルギー、躍動感に溢れる。作品の傍らに、スナップのごく小さな一角からトリミング、反転、超拡大、のプロセスが展示されており、工程がよく理解出来る。また、ネガのダイレクトプリントからわかるのは、この頃の作品制作に当たって、同じシーンを撮るカット数の少ないこと。
更には、多重露光、モンタージュの追及や静物写真とスタイルは変遷する。30歳台後半の晩年に至ると、人、周囲の情景をストレートに、丁寧に、切り取る作風となるが、これらは豊かで力強く、実に素晴らしい。そして、、、そこで終わるのであった。年代順の展示も従って、ここであっけなく出口に至る。残念なのだ。
作品に映り込む情景は100年前のものだが、写真家の目線に古さや時代感は全く感じない。実に新鮮だ。そして、およそ20年間の短い実働の間、未だ写真の表現手法が蓄積していない時代に、一人の写真家のキャリアの中でスタイル変遷を遂げたことに感嘆した。
途中に展示されていたライカfIII、ローライF3.5ズミクロンのかっこよさとともに、記憶にとどめたい。