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仏像ファンを十分満足させてくれる 少数精鋭の奈良の仏たち
大安寺の仏像群を、トーハクの展示で拝することが出来るこの機会を、とても楽しみにしていました。日本で最初の官立寺院である「大安寺」は、いわゆる南都七大寺の筆頭とされた、日本仏教史上重要な寺院でした。現在大安寺では宝物殿が増改築中だそうです。この機に貴重な御仏方には揃ってトーハクまでご出座頂いた今展は、いつも仏像展示の本館11室が会場で、総合文化展のチケットで鑑賞出来、更に出品目録に写真入りの詳細な解説までが載った冊子が無料で配布されていて、しかも個人なら撮影可と、とことんありがたい破格の特別企画です。会期末の迫った平日の午後、観覧者はやはりやや多めで、特に外国の方が多くいらしていました。入って最初のガラスケースには、四天王のうち最もビジュアルが美しいといわれている、多聞天がいらして出迎えて下さいました。右手中央段には、菩薩なのに憤怒の表情の楊柳観音菩薩立像、静かで優しくてシンの強いお母さんのような不空検索観音菩薩立像と、7体の仏像群と弘法太子座像に瓦6点や資材帳(複製)などが展示されていました。大安寺の仏像は、肩幅があり、くびれた腰にどっしりとした体躯という、奈良時代の代表的な作風のものが中心です。全て一木造です。一部、持物の何かは失われているものの、また彩色等も失われているものの、何れの方もほぼ完璧な形です。トーハクではスポットライトも当たり、全身を色々な角度から拝することが出来、現地では決て観ることのできない部分までしっかり鑑賞出来るのが凄いです。頭の先から足元まで、また礼拝対象として絶対に目にされることのない像の背面にまでも、隙のない造形が施されていることが分かりまし、緻密な文様が彫り込まれた鎧や、胸や腕の装飾品に、衣の柔らかなドレープやひるがえりなども、更に僅かに残る彩色までも、とても詳細に分かります。少しエキゾチックな奈良の仏たちの力強さと繊細さとに触れることが出来、数多の渡来僧たちが集った大安寺の国際色豊かな様相に思いを馳せつつ、とても貴重な体験になりました。秘仏なので今回今展にはいらしていませんが、ずっと以前に一度ずつですが、春に馬頭観音菩薩立像御開帳と秋に十一面観音菩薩立像御開帳に出かけたことがありました。どちらもとても素晴らしく、強烈な印象があったと記憶しています。資料の片隅にでも、二体の写真があったなら、更に嬉しいのに、などと思いました。