白髪一雄の運動

兵庫県立美術館のコレクション展再訪。3連休のうち3分の2仕事でやってらんねーと思って出かけていった。
具体美術協会の作品をまた見たくて、芦屋の具体展で買った元永定正のTシャツを着ていった。
戦後日本の絵画のコーナー、キャンバスに木がぶっ刺さったり貼り付けられたりしている作品を見ていると、どうやって描いた(作った)んだろう、という制作過程が気になってくる。

元永定正「無題」。ポストカードサイズの作品でサッと見れるのだが、立ち止まると絵の具の混ざり具合とか広がり具合とかどうやったんだろうと思う。筆を使ったのか、絵の具を落として広がるのに任せたのか、絵の具を塗った上から紙などでおしつけたのか。そうやってじっと眺めてると、絵から風景が見えてくるから不思議だ。

そして、楽しみにしていた白髪一雄。「東方浄瑠璃世界」、最初見た時はスピード感があって面白いなくらいの感想だった。全体的に見ると速すぎてブレた被写体のような絵面と、美しい青色が目に入る(調べたら、浄瑠璃は芸能じゃなくて、浄瑠璃世界という仏教用語だった。また、ラピスラズリの色のこともそう呼ぶらしい)。

部分を見ると、絵画の表面に孔が空いていて厚塗りの感じが伝わってくる。また、画面の右側はおしやられた絵の具が溜まって盛り上がっていた。

白髪一雄「天空星急先鋒」、全体を見ると左上から右下へ走る線が勢いを感じさせて、さすが足で描いてるだけあるなと思う。

部分を見ると、絵の具が溜まった表面に襞が生まれているのがわかる。白いのは生クリームみたいで美味しそう。

通常の絵画だと、パレット上で絵の具を混ぜてそれを筆で画布に塗っていくが、白髪の場合、絵の具はキャンバス上で足を使って混ぜられていく。その混ぜられている最中の絵の具がキャンバスにそのままあって面白い。

また、厚塗りの絵の具の塊だけでなく、イチゴジャムのシミみたいな跡もある(右下にはラズベリージャムみたいな色の絵の具もある。美味しそう)。
このように、白髪の絵画は全体の勢いのよさだけでなく、部分部分の豊かさもあることがわかる。こういう部分部分を近くから見たあと、もう一度全体を見ると、うまく統合できなくて混乱する。絵画の全体を捉えることができないのだ。抽象画だから、風景のようには全体を捉えることができないのはわかるのだが。

コレクション展の1階の鑑賞が終わったところで、展示室の外に出るときに具体のパンフレットを見つけた。見ると、尼崎市総合文化センターで白髪一雄の展示をやっていて、会期が明日までである。コレクション展のあとは芦屋か山崎に行くつもりだったが、予定変更して尼崎へ行くことにした。
というわけで、「白髪一雄と具体Ⅲ〜1970年大阪万博との関わり〜」に行ってきた。尼崎市総合文化センターの4階に白髪一雄記念室がある。受付で財布を出そうとしたら無料で鑑賞できると教えてもらった。
まず、ずっと見たかった白髪の制作風景の動画が展示してあったので早速鑑賞する(26分程度)。床に置いたキャンバスの上へ、包みに入った絵の具の塊をペインティングナイフで落としていく。そして天井から垂らしたロープに掴まり、足で絵の具を広げていく。ここまでは想像していた通り。妻の白髪富士子が白髪に黙々と絵の具を手渡し、汗を拭いてあげる。キャンバス上の絵の具の量が多くなっていくにつれて足元はずるずるになって滑りやすくなっていく。これでは思い通りにはなかなか描けない。絵の具に水(?)を混ぜてシャバシャバになったものをばしゃっと画面にかける(これがイチゴジャムの跡の正体だった)。白髪がニコッと笑って赤の絵の具でサインを書き、作品は完成。絵の具まみれの足を新聞紙で拭く。
TVの横には白髪の画集が置いてあった。「東方浄瑠璃世界」は絵の具が均一に伸ばしてあって、本当に足で描いたのかな?と思っていたが、白髪はスキー板や、購入した紙を巻いていた長い芯を使って制作していた時期もあったと書いてあって、疑問が解けた。それから、「東方浄瑠璃世界」は具体の中心人物、吉原治良の追悼のための作品だったことも知ることができた。
展示室には白髪の大きい絵画が2点展示してあった。コレクション展みたいに全体と部分を交互に見ていたが、なぜ絵画の全体を統一的に把握できなかったのかがわかった。白髪は制作中何度もキャンバスの上を往復している。だから、複数の異なる運動が同一画面に共存しているのだ。もはやキュビスムだと思った。
帰りに白髪のステッカーを買ったら、スタッフさんに話しかけてもらった。熱心に見てもらえて嬉しい、と言われ、白髪は尼崎の人なのに地元の人にはあまり知られてないことを教えてもらい、最近白髪を好きになったことを伝えると、少し前に白髪の大規模な展覧会があったことを残念がってもらった。次はここで妻の白髪富士子の展覧会があることも教えてもらった。
THE BACK HORNの「コバルトブルー」を聴きながら帰った。
