4.0
レンブラントからルノワール、そして独自の境地へ
中村彝というとまず彝「つね」が読めなかった。そして旧ブリジストン美術館(現アーティゾン美術館)でレンブラントの影響が明らかな《自画像》を見たり、東京国立近代美術館で重文指定の印象派風《エロシェンコ氏の像》を見たりして、あまりよく分からないまま、なんでこうも画風が違うのかと漠然と疑問に思っていた。というか、最初はこの2つの作品の作者が同一人物とは思ってなかった。あるときどちらも「彝」であることに気がついて、少々驚いたのだけど、そのままにしてました。
というわけで、20年近く、ほったらかしにしていた疑問が、この展示会で解決しました。中村彝は、最初にレンブラントの影響を受け、次にセザンヌ、そしてルノアールの影響を受けて、そのテクニックを吸収して、独自の世界を構築した、といったところです。ただし、中村彝は肺結核を患っていたため、海外には行けず、レンブラントについては実物をおそらくは見ていない。明治末から大正のころですから、画集はモノクロだろうし、実物を見ないまま、想像力を駆使して挑戦していたんでしょう。
まあ、レンブラントは無理だったけど、ルノワールは実作品を目にすることができたそうです。今回は中村彝が目にした、大原美術館に収蔵されているルノワールの《泉による女》も展示されています。面白いのは、ルノワールを見た後で描いた作品《幼児》がルノワール作品と並べて展示していること。確かにルノアールの影響が見て取れます。
中村彝の作品はいろんな美術館に収蔵されていて、集めるのも大変そうです。出展リストで見ると118点の中村彝作品を集めて展示していて、それだけでも苦労が偲ばれる。えーと、撮影は不可。図録はなかなか詳しく、資料性が高いです。展覧会自体は巡回しないそうなので、お見逃しないように。