佐藤可士和展から考察するデザインとコミュニケーション
現在、六本木の国立新美術館にて、「佐藤可士和展」が開催中です。クリエイティブディレクター 佐藤可士和さんのおよそ30年に渡る活動の軌跡を紹介する展覧会です。
この展覧会を鑑賞すると、今の日本を代表する大手企業の実に多くのコーポレートのロゴマークや商品のデザインを佐藤可士和さんが手掛けていて、“デザイン”そのものが、人々の日常にもたらす影響力の大きさに気づかされます。
わたしたちの暮らしは、“デザイン”によって、メリハリを与えられ、情報をキャッチしたり、物事の取捨選択を行ったりしています。そのことに自覚があるなしにかかわらず、わたしたちの行動に与える影響は計り知れません。言い換えれば、「デザイン」には、人の行動を左右する力があるということです。
佐藤可士和さんは、大学卒業後、社会人1年目の時に、当時まだ珍しかったMacを買って初めて作ったのが、自分自身をテーマにした“アイコン”による「シックスアイコンズ」という作品だったそうです。その作品は、会場の最初に展示されています。
子供の頃からロゴや記号が好きで、ずっと興味を抱いてきた佐藤さん。当時のMacは、起動するとアプリケーションや拡張機能がシステムに埋め込まれ、モニターの下にポコッポコッとアイコンが表示されていました。そのアイコンパレード見ながら、「あそうか、広告ってこういうことか」と気づいたのだそうです。
パソコンのデスクトップを「社会」に見立てた場合、その中に「アイコン」のようにイメージが凝縮されたものを作ればいいんだ、と気づいて以来、アイコニック(わかりやすく象徴的)に機能するコミニケーション、としてデザインを展開していきます。
「アイコン」は、小さくて、最低限の要素で構成されているけれど、たとえばアプリケーションのように、クリックすればその先に展開するプログラムなどの世界がどのようなものであるかを示しています。視覚的に、瞬時に、わたしたちは、次に取りたい行動の入口を小さな「アイコン」から探しだしています。
佐藤さんは、「自分の仕事はコミュニケーションのデザイン。方法論としてはすべてを“アイコン”として捉えている」と語っています。「アイコン」をキーワードに展覧会を見ていくと、企業のロゴにしても、ブランドや商品のパッケージにしても、そこに何が凝縮されているのか、デザインにこめられたエッセンスが見えてくるのではないでしょうか。
デザインをコミュニケーションと捉えた場合、デザインされたものが、受け手にとって、説得力や魅力や共感、あるいは記憶にとどまるような強いインパクトをもって伝わってくるとき、コミュニケーションはうまく成立したことになり、そこに表現された「デザイン」が、果たすべき役割を果たしていることになります。
それによって、ブランドや商品が多くの人々の記憶にとどまったり、商品の売れ行きが伸びたり、ブランドや商品への好意的なイメージや親しみが持たれるようになることは、「デザインの力」が発揮された結果なのではないでしょうか。
ただ、「デザインの力」が発揮される場は、決して企業のロゴマークや商品だけではありません。わたしたちの日常の中で、思考においてや、日々のコミュニケーションにおいても、デザインすること、あるいは、デザイン的な考え方や視点によって、人の行動・判断に何らかの影響をあたることが可能になります。
例えば、参加者を募りたい講座案内のチラシや、会社の上司に提出する資料や、クライアントに提案する企画書などにおいても、必要な情報を説明的に記載するだけでなく、提示したい情報を一度分解して、情報を提示する順番や強弱・物語性の加味・魅力やポイントを伝える工夫・比較情報の追加、などによっても伝えたい情報の見え方は大きく変化して、受け手の意志決定に有効的に働きかけることも可能になるなのではないでしょうか。
「アイコン」のようにイメージが凝縮されたもの を考えることは、「人に伝える」ためにものごとの全体をどう捉えて、その中の核を見つけ、何をどういうメリハリをつけて提示するか、といった情報を整理・集約してアウトプットしていく方法を探る、思考のプロセスでもあります。受け手の立場や目線にたったときに、どのように見えてくるのか、どこに意識が向き、その後にどのような行動が取られるのか、といったところにも想像力を働かせることは大切です。
“アイコニック(わかりやすく象徴的)に機能するコミニケーション”は、クリエイティブな世界においてだけではなく、人間社会においても、デザイン的思考でコミュニケーションを図ることで、社会や人間関係をより円滑に、豊かにしていくことが可能なのではないか、そんな考察が促された展覧会でした。