杉本博司デザインの表具によって、新たな命が吹き込まれた二月堂焼経
お経が焼けている、それも下部だけ焼けていて、文字も焼失している以外は、焼け跡も含めて綺麗に残っている経典が展示されていました。
現在、大阪市立美術館で開催されている「天平礼賛」で出会ったその作品が、感動的だった上に、撮影がOKということで、ガラス越しではありましたが、写真に収めてまいりました。
「焼経(やけぎょう)」というようですが、1667年に、東大寺二月堂が修二会(お水取り)の期間中に焼失してしまった際に、焼け跡の灰の中から「華厳経」(六十巻本)が発見されたそうです。
紺色の料紙に、銀字で書写された経文の下部に残る焼け跡は、巻物となっている経典を広げたことで、まるで炎を描いたような形で、波状に残っています。
奈良時代に書かれたという経典が、焼け跡から発見されて、こうして今に伝えられていて、神秘的な姿を見せていますが、こちらは、その「二月堂焼経」が、写真家 杉本博司のデザインによって、表具として仕立てられ、あらたな命を吹き込まれた作品として、展示されているものです。
展示の三幅は、それぞれ鮮やかなブルー、グリーン、深緑に、金色の料紙を帯状に重ねた上に、焼経が貼り重ねられる形で仕立てられています。まるで今日に、表具に生まれ変わるために、焼け跡から発見されて、八世紀から現代まで存続してきたかのような、完璧な姿でした。
杉本博司という写真家というか芸術家は、まるで、あらゆる時代を行き来して、あらゆる国を瞬間移動して生きているかのような、計り知れない縦横無尽さで芸術を生み出していて、いつも大きな感動を与えてくれる芸術家の一人です。
思いがけず、大阪市立美術館の「天平礼賛」でこの素晴らしい作品に出会うことができました。