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江戸っ子国芳 浪花で大暴れ

大阪中之島美術館の展覧会は多彩。モダンアートコレクションのTRIOと現代作家 塩田千春の次に始まったのは、大阪にはほぼゆかりのない歌川国芳(1797-1861)、オールラウンダーの浮世絵師国芳の人気の秘密を紐解く展覧会です。一部写真撮影可


歌川派の系譜

歌川広重と同じ寛政9年(1797)に生まれた国芳は広重の師である豊広の師と同じくする初代豊国に10代で弟子入りします。三代目豊国こと国貞とはあまりそりが合わなかったとも伝わります。30歳代初めに武者絵で一躍人気絵師となった国芳は、「宵越しの金は持たねぇ」の如く江戸っ子の親分肌で、「火事と喧嘩は江戸の華」、火事の半鐘が聞こえれば、弟子たちを連れて町に飛び出し、抱える弟子は70人ほども居たと言われています。明治期に活躍した河鍋暁斎や鏑木清方の師・水野年方の師である月岡芳年もその門下にあります。その系譜は昭和まで続いていたでしょう。大阪ゆかりの日本画家 北野恒富も月岡芳年門下の稲野年恒に入門しておりその系譜と言えるでしょう。

天保13年(1842)には、役者や遊女を描くことが禁止され、浮世絵の世界は大きな打撃を受けました。(名所絵を描いていた広重にはその影響は少なかったと広重展にあったように思います)禁制の網の目を潜り抜けながら、シニカルにしてユーモア溢れる絵を描き、大衆の人気をさらいました。安政2年(1855)に中風、今で云う脳卒中を患い、北斎の様には復活することなく、明治を間近にした文久元年(1861)65歳で亡くなりました。

展示会場最後の部屋に、国芳の門人である落合芳幾による《国芳死絵》があり、国芳と交流のあった人たちが賛を寄せています。後期は門人の歌川芳富による作品が展示されます。(後期作品は煙草入れの猫の根付にご注目だそうです)

 

 展覧会は、ジャンルごとの7章と特別展示から構成され、前後期ほぼ展示替えで約400点に及ぶ大規模展示で、全てが個人蔵というから驚きです。


《相馬の古内裏》弘化2-3年(1845-46)頃 個人蔵 通期展示

第1章    武者絵・説話-躍動する奇傑

国芳といえば荒ぶる武者絵のイメージです。

武者絵は浮世絵版画の初期から作られ、伝統的な画題が受け継がれていました。大きな変化をもたらしたのは、文政期(1804-1818)に大判三枚続きの武者絵が多く出版されるようになった事です。国芳が初代豊国に入門した頃、勝川春亭という絵師が武者絵で活躍しており、国芳の後期の武者絵にもその影響が見て取れるそうです。文化10年(1827)頃から出版された「通俗水滸伝豪傑百八人之一個(壱人)」シリーズが大評判となり、武者絵を人気のジャンルへと大きく進化させました。背景には江戸の町人文化が興隆し、文化文政期に芸術、文化が爛熟、その申し子となったのではないでしょうか。私はマンガやアニメ、ゲームの世界は全く分からないのですが、国芳の画力による武者絵は、血沸き肉躍る画面の人物の大胆なポージング、得体の知れないクリーチャーも登場し、背景の雨も風も雷も波もが渦巻く。3枚続きの迫力ある大画面が劇的、劇画的で刺激的、ワクワクぞわぞわ。現在のゲームやアニメの世界に相通じるところがあり現代においても人気のある所以なのかもしれません。


《国芳もやう正札附現金男 野晒悟助》弘化2年(1845)頃 個人蔵 前期展示

10図揃シリーズの1枚で、山東京伝の読本『本朝酔菩提』に登場する侠客、野晒悟助です。何といっても猫を集めて髑髏の形とした模様の着物に薄と蓮の花と葉で形作られた髑髏模様の袈裟を掛け、肩に担いだ刀に掛かった下駄も髑髏に見える、どこまでも髑髏に惹き寄せられる。


第2章 役者絵-名優奇優を描く

江戸時代は、芝居小屋があちこちにあり、江戸には公許の芝居小屋もあったそうで、庶民の娯楽でした。今で云うところのアイドル、推しメンが、歌舞伎役者です。役者絵は、美人画と共に二大ジャンルで、歌川派の独壇場でした。国芳の師である初代豊国や兄弟子の国貞(三代豊国)が人気絵師でした。その門下にある国芳も役者絵を手掛け、天保期には個性を発揮し国貞とは違った作風が人気となりました。


大阪中之島美術館のお楽しみエスカレーターから眺める展覧会の垂れ幕、そこに採用された《日本駄右エ門猫之古事》の化け猫です

大がかりな仕掛けがある舞台を描いた迫力ある作品は国芳の得意とするところで、巨大な化け猫が背後に現れる《五拾三次之内 岡崎の場》(前期展示)は有名です。この浮世絵を目にしたなら本物の歌舞伎も観たいと思ったでしょう。耳が猫の耳となり、行灯には猫の影が映る正体が現れた猫石の精、三代目尾上菊五郎の当たり役となりました。画面手前では猫が法被りして踊るのも国芳ならではです。

役者絵の団扇絵、現在も推しメンの団扇を手にコンサートや舞台に出かける気持ちと通じます。団扇という特異な形状に絶妙に描かれた歌舞伎の場面、着物の模様にもご注目ください。


第3章 美人画-粋と奇麗

役者絵と並ぶ浮世絵の二大ジャンルである美人画は、絵師それぞれに得意とするところがあったようです。天保13年町人に対して出された法令である「町触」により、役者や遊女、女芸者を描くことが禁じられて以降、その反骨精神も発揮してか、国芳の美人画の作画量が増えていきました。市井の女性、町娘をテーマに描き、おそらく逢いに行けるアイドルとなったでしょう。丸みをおびた輪郭に愛嬌のある表情を確立しました。(といっても、どの子もそれほど変わらないのに、口元や仕種でしょうか)日常を写し取り、生き生き、溌溂とした健康美の女性像です。国芳は紺屋(染物屋)の生まれで、彼女たちに着せた着物の柄がとっても素敵です。


《忠臣蔵十一段目夜討之図》天保2-3年(1831-32)頃 個人蔵 通期展示

第4章 風景-新奇の構図

天保前期には、北斎が《富嶽三十六景》や広重の保永堂版《東海道五拾三次之内》が世に出て、抒情的な世界観をもった風景画にも人気が集まるようになりました。国芳も北斎や広重の影響も受けながらも独自性を模索しています。国芳は西洋画法への理解を深め、洋書にある銅版画挿絵のモチーフを借りたりしながら風景画を制作しており、《忠臣蔵十一段目夜討之図》から受ける奇妙な印象は、遠近法とモノクロのトーンに陰影が描かれているところでしょうか。ニューホフ著『東西海陸紀行』の銅版画挿絵を元に描いており、同著は第7章に参考資料として展示されています。国芳の風景画は、人物が多く描かれ、その場の臨場感、その場の人の目線で描かれているところがポイントです。《相州江之嶋之図》は、ベックリンの「死の島」が浮かび、ハッピーな画には見えなかったです。


第5章 摺物と動物画-こだわりの奇品

摺物については、今年大和文華館で開催された摺物だけを展示した「レスコヴィッチコレクションの摺物―パリから来た北斎・広重・北渓・岳亭―」をご覧になった方も多いでしょう。マニアックな特別な注文によって制作された非売品の一枚摺、国芳ご指名の注文もあったのでしょう。摺物ならではの良さは素人にはまだまだ難しいですが、凝った絵柄を愉しみたい。


《みかけハこハゐがとんだいゝ人だ》弘化4年(1847)頃 個人蔵 通期展示

第6章 戯画-奇想天外なユーモア

見る人たちの笑いを誘う、ユーモラスで滑稽な絵の事を「戯画」と呼びます。動物たちの擬人化で世の中を茶化す?批判精神あふれた戯画が国芳の得意とするところで、本展の見どころともなっています。ところが私は、「鳥獣戯画」も含めこの擬人化がとても苦手、特に金魚が苦手の苦手。「人がかたまって人になる」などはアルチンボルドもビックリかもです。


《流行猫の変化》天保12-13年(1841-42)頃 個人蔵 通期展示

着せ替えなら分かるが、被り物を猫に着せ替えようとは、絵を前に吹き出してしまいました。その発想に驚く。新発見作品です。見ているものを「アッ!」と驚かせたい精神があったに違いない。そんなことを思いつくのも、日頃から国芳は何か面白いことはないかとさぐっていたはず。大の猫好き国芳、懐に猫を入れて絵を描いていたとも伝わるほどで、展覧会に横断的に登場する様々な猫も猫好きにはたまらないでしょう。(山東京伝作、歌川国芳絵『おこまの大冒険』をまだお読みになっていない方にお薦めです)



第7章 風俗・情報・資料-広がる奇想

庶民の暮らしと結びついた作品を紹介するともに、現存数少ない画稿や版下絵、版木などの参考資料も展示しています。

 

第8章 肉筆-奇才の筆

国芳の肉筆画の集積はいまだ進んでおらず、本展で出品されている肉筆画は過去最多で、貴重な機会となっています。

                                                  

本展出品作の色の鮮やかさにも驚きました。国芳の画力は勿論ですが、浮世絵は、絵師、版元、彫師、摺師の四位一体だなぁとつくづく思いました。猫に扮した声優さんの音声ガイドも楽しかったです。

国芳の世界なら、アニメやゲーム好きのお子さんも楽しめるはずなので、冬休みに出かけてほしい。イベント予定もたくさんありますが、あべのハルカス美術館館長・大和文華館館長 浅野秀剛さんと静嘉堂文庫美術館館長 安村敏信さんの講演会は超お薦めです。


【開催概要】歌川国芳展 ―奇才絵師の魔力

  • 会期:2024年12月21日(土)~2025年2月24日(月・休)

前期:2024年12月21日(土)~2025年1月19日(日)/後期:2025年1月21日(火)~2月24日(月・休)

  • 会場:大阪中之島美術館 4階展示室
  • 開場時間:10:00~17:00 (入場は16:30まで)
  • 休館日:月曜日、12月31日、2025年1月1日、1月14日 ※2025年1月13日、2月24日は開館
  • 観覧料:一般1800円(1600円)、高大生1500円(1300円)、小中生500円(300円) ※()内は20名以上の団体料金です

詳しくは⇒◆ https://kuniyoshi2024.jp/tickets.html


プロフィール

morinousagisan
阪神間在住。京都奈良辺りまで平日に出かけています。美術はまるで素人ですが、美術館へ出かけるのが大好きです。出かけた展覧会を出来るだけレポートしたいと思っております。
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