今さら聞けない江戸絵画について分かり易く解説してくれる展覧会です。
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- by morinousagisan
秋の京都嵐山、渡月橋直ぐにある福田美術館、嵯峨嵐山文華館で「ゼロからわかる江戸絵画ーあ!若冲、お!北斎、わぁ!芦雪ー」が始まっています。紅葉にはまだ早いですが、嵐山はさすがに観光客が多いかったです。一足早く記者内覧会に参加してきましたのでご報告します。
本展のタイトル「ゼロからわかる江戸絵画」の「ゼロからわかるとは?」人気が高まる江戸絵画について今さら人には聞けないことや「江戸絵画の基礎知識や鑑賞ポイント」をキャプションや図解入りのパネルなどで分かり易く解説してくれる展覧会です。福田美術館さんまだまだ出てくる初公開作品を含む江戸絵画の優品118点(福田美術館80点、嵯峨嵐山文華館38点)を前後期に展示します。本ブログに掲載する画像数が限られており、画像を選ぶのに本当に悩みました。アート作品はサイズ感も重要です、ご自身の眼で実際にご覧になって頂きたい。江戸絵画に詳しい方も「おっ!」と足を止めて見入る作品も多く展示されていると思います。
本展を担当されているのは、大阪中之島美術館で開催中の「長沢芦雪展」の監修協力者でもある福田美術館学芸課長岡田秀之さんです。(※10/22放送の「京都知新」では岡田さんが紹介されます。Tverでも視聴できます)
第1会場 福田美術館
第1章 18世紀京都で活躍した画家たち
応挙、若冲、芦雪・・・江戸時代の京都画壇の魅力
18世紀に「写生」つまり見たままを描く(写す)ことを説いて画壇に革命をおこした円山応挙とその門下の作品と彼らと同じ時代に活躍した伊藤若冲や曽我蕭白も紹介します。
応挙を支援した円満院祐常のために描いた応挙35歳の作品です。鴨が今まさに着水しようとする瞬間を描き、「写生」の成果が表れています。
例えば、この作品のキャプションには作品の解説と「どんな素材に絵は描かれているのか」を「Q&A」で解説しています。
福田美術館では、スマホで音声ガイドが無料で利用できる上に、注意事項を厳守しての写真撮影も許されており、細部はスマホで拡大して視る事も出来き、至れり尽くせりな感ありです。音声ガイドには、全ての作品に解説があります。
※福田美術館 作品リスト ⇒ コチラから
応挙と芦雪のもふもふのワンコの作品も展示されています。両者の描く仔犬はどちらもカワイイのですが、岡田さんは、「応挙の描く仔犬は可愛い理想の仔犬の姿であり、芦雪は道端に居そうな生活の中にいる今にも動き出しそうな生き生きとした仔犬を描いています」とお話しくださいました。本当に芦雪の仔犬はワンワンとこちらに駆け寄ってきそうです。両者の仔犬の描き方の違いも展示室で見比べてください。
さて、「長沢芦雪展」@大阪中之島美術館では展示されない、長沢芦雪作品も展示されています。本展では52年ぶりに再発見された《大黒天図》が初お披露目されています。上記掲載「展示風景」画像でもひときわ目立つ作品です。「長沢芦雪展」@大阪中之島美術館をご紹介した拙ブログにも画像を掲載しました《寒山拾得図》(和歌山県田辺市・高山寺)とほぼ同じ大きさ、つまり畳一畳ほどもある大きな掛軸にはみ出すほどに描かれた温和な表情の大黒天図です。応挙の名代として南紀に赴いて(天明6年[1786]10月頃から翌7年2月)筆を揮った時期の作品で、和歌山県田辺市の旧家に伝わったものです。『蘆雪名画選』(恩賜京都博物館編、1937年)に掲載され、その後「近世異端の芸術-若冲・蕭白・芦雪」展(新宿・小田急百貨店、1971年)で展示された後行方不明となっていた作品です。美術史研究家の辻惟雄先生の著書『奇想の系譜』の中でも取り上げられた芦雪代表作の1つでした。辻先生は「芦雪の大変なエネルギーが発散、ピークの時の作品ではないか」とコメントされ、学芸課長の岡田さんも「長年探していた作品だけに、目の前に現れた時は感動した。画面いっぱい使った構図はインパクトある」とお話されています。次々と行方知れずになっていた芦雪作品が再発見として岡田さんの前に現われ、岡田さんの芦雪研究への執念が通じたような気がしています。
《大黒天図》は、商売繁盛、子孫繁栄を願ったおめでたい図柄で、見どころポイントは
・大黒天の大きさを感じさせる空間表現
・画面上部の顔部分の平面的に見える輪郭線に芦雪作品の特徴が表れています。
・真正面を向いたシンメトリーな顔の不思議なインパクトに魅了されます。
・画面下方には、小さな鼠が生き生きと描かれています。
※参考:福田美術館公式YouTube「《大黒天図》について辻惟雄先生にお話を伺いました」⇒◆
もちろん、若冲作品も展示されています。《蕪に双鶏図》は、《動植綵絵》の前、30代初めに描いた著色作品です。「なぜ若冲はこんなに人気なの?」や《鯉魚図》では若冲独自の描法である「筋目描きって何?」の”Q&A”があり、「そうだったのか」と納得される方も少なくないかもしれません。
掲載画像の《大角豆図》《花鳥図》は、初公開の40代の作品です。《雲中阿弥陀如来像》若冲の仏画は珍しいとの解説です。
奇想中の奇想、奇矯とも呼べそうな曽我蕭白が描いた馬と虎。洋犬のようにも見える《柳下白馬図》の馬、「アイラインが印象的」と解説される瞼下に引かれた墨線は蕭白作品に特徴的なポイントだそうです。《虎図》なんともおちゃめな虎の表情でとても魅力的です。
蕭白筆、滝瓢水賛《蟹図》も初公開の珍しい作品です。
第1展示室突き当りの壁面には、芦雪と並び称された応挙の弟子・源琦や応挙の長男・応瑞の作品も展示。呉春の《孔雀図》には、蕪村に俳諧や文人画を習い、蕪村の死後応挙の門下となり、四条派を開いた流れが作品の中にも感じられます。二つの流派を併せた四条円山派は後の京都画壇につながります。
第2章 狩野派・琳派の画家たち
狩野派って?琳派って?
室町時代から続く絵師集団「狩野派」、絵師になるならとりあえず狩野派で絵を描く基礎を学びました。江戸時代には幕府お抱えの御用絵師として中心的な存在でした。一方、俵屋宗達に始まる「琳派」は、その作品に憧れ、私淑して独自に学んだ絵師たちの流れで、尾形光琳に因む「琳派」という言葉も近代になってから作られたものです。
2F展示室では、「屏風ってどう数えるの?」「掛け軸ってどんなもの?」を図解入りパネルで分かり易く解説されています。
京都国立博物館で大きな展覧会が開催された、龍描きの名手、海北友松や豪華な《柳橋水車図屏風》の画題で名を成した長谷川等伯などの屏風が壁面を飾ります。掲載の《源氏物語図屏風》の山本素軒は、光琳の絵の先生だったそうで、キャプションには「狩野派タッチで描かれた大和絵」とあります。こちらも初公開作品です。繰り返し描かれる「源氏物語図」金雲で区切られた場面は象徴的で誰もがあの場面と分かる、それほどに源氏物語は身近なものだったのでしょう。
この展示室もご紹介した作品ばかりでしたが、こんな芳中作品もあったのかと惹き寄せられました。芳中と言えば、たらし込みドボドボで「シメジではありません松です」などというキャプションが付くほどに緩―い作品が多いイメージでしたが、隅田川の風景をたらし込み技法を使わずに描いています。キャプションにも「えっ、芳中!?」とあります。
パノラマギャラリーでは現代作家の品川亮の個展「Re:Action」を開催中。
ご本人も登場されて、熱い思いを話してくださいました。
第2会場 嵯峨嵐山文華館
第1章 浮世絵の流行 福田コレクションの名品・北斎の肉筆画
北斎が80歳で描いた《大天狗図》キャプションには「どうみてもスパイダーマン」とあり、アクロバティックな構図、陰影も描かれて西洋画の影響も感じられます。ホントおそるべし北斎!
この章では、「浮世絵って何?」を解説しています。「肉筆画」は、版画でない絵師が描いた1点もので、美人画が並びます。美人画も絵師一人ひとり描き方も違っていて、着物の柄にもご注目。祇園井特の画、なんだか生々しいと感じたら解剖現場にも立ち会っていたらしく、肉眼でははっきりとは分かりませんが、写真に撮って拡大して視ると瞳の中を色を変えて描いています。ちょっとゾクッとする美人?画です。
第2章 歌川広重の《東海道五十三次》で旅をしよう!
今さら聞けない「五十三次」って何?
2階では、歌川広重の浮世絵版画《東海道五十三次》を日本橋から京都三条まで出発地点と到着地点も含めて55点、順番に前後期に分けて一挙公開。キャプションには日本橋からの距離や作品内容や宿場の説明、お土産品までも解説します。
大人気の観光地嵐山これからの季節さらに観光客も増えそうですが、こちらはロケーションも抜群、渡月橋のすぐそばにある美術館です。福田美術館も嵯峨嵐山文華館にも素敵なカフェがあります。私のお薦めは、嵯峨嵐山文華館の2階の川に面した縁側です。椅子に腰かけ外の喧騒を忘れ見てきた江戸絵画を思い返しながらまったりと時が過ごせますように。
【開催概要】ゼロからわかる江戸絵画 ーあ!若冲、お!北斎、わぁ!芦雪ー
- 会期:2023年10月18日(水)~2024年 1月8日(月・祝)
前期:10月18日(水)~12月4日(月)
後期:12月6日(水)~2024年1月8日(月・祝)
- 開館時間:10:00〜17:00(最終入館 16:30)
- 休館日:12月5日(火)展示替え、年末年始:12月30日〜1月1日
- 開催場所:第一会場 福田美術館、第二会場 嵯峨嵐山文華館
- 入館料詳しくは⇒コチラから
- 美術館展覧会サイト⇒◆