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コレクターの人生、物語る作品
コレクター展はやはりおもしろい。有名無名を問わず、コレクターの眼にかなった作品たちが形づくる世界観というものがあるからだろう。福富太郎という名前も、キャバレー王という異名もよく知らなかったが、彼の審美眼には共感を覚えた。正統的な美しさというよりは、生の情感がどことなく漂う作品が福富太郎コレクションの特徴といえるだろうか。
とくに戦争画の章では、美人画などの情緒的で物語的な様式美にはないような感傷的な雰囲気があった。展覧会でも解説されているように、福富太郎自身の戦争体験などを思えば、さらに絵画が真に迫る表現にみえてくる。コレクターの人生や記憶とともに作品に想いをはせるのも作品鑑賞のひとつの楽しみだと思うし、美術作品がひとりの人間の人生を作品のように物語ってくれていると考えるのもおもしろい。
さて、日本画好きの方にとっては当たり前のことかもしれないが、絵画そのものが美しいのはもちろんのこと、日本画ならではの軸装もまたそれぞれすばらしかった。個人的には小村雪岱《河庄》の軸装は画中の建物の表現と呼応するように、柱に斜めの橙が施され、さらに軸先にも風帯などと同系色の縞がはいっていてモダンなお洒落さがあって印象的だった。図録では軸装は見られないので、会場ではぜひ軸装にも注目して楽しんでみてほしい。