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国宝祭に些か疲れたあなたにピッタリ、1点1点じっくりじっくり見入ると見どころ満載 「広がる屛風、語る絵巻」@細見美術館

「風を屛(ふ)せぐ」つまり風よけや間仕切り、今で言うところのパーテーションでもあった調度の1つである大きな画面の屛風と手元で巻物を進めながら鑑賞する小さな画面の絵巻を楽しむ展覧会です。細見館長のギャラリートークに参加してきました。館長のお話はとても興味深く、見逃しそうな見どころを教えて頂きました。屛風の前を行ったり来たり、立ったり屈んだり、解説パネルで確認して再度作品を確認したりと単眼鏡で見入ってしまいました。

※本展は撮影禁止です。アートアジェンダの本展紹介記事の画像をご参照ください


広がる屛風 屛風を平らにして展示する展覧会もありますが、ジグザグとアコーディオンカーテンのように広げられる調度でもある屛風。その形状も考慮して絵師は描いていたでしょう。屛風の並べ方は一様ではなく、第2展示室にはその詳しい解説もありますが、屛風はたててある反対に折ってもOKだそうです。

人々が集う場所 西洋の絵画は建物に主を置いて描かれますが、日本の場合は、人物、人の賑わいに主を置いて描いたものが多いそうです。

重要文化財《豊公吉野花見図屛風》 6曲1双 紙本金地著色 桃山時代 細見美術館蔵[通期展示]

豊臣秀吉が文禄3年(1594)2月27日から3月2日にかけて家臣など5000人を引き連れて吉野に花見に出かけた様子を描いた屛風です。私も昨秋に世界遺産・国宝の「金峯山寺本堂・蔵王堂」の秘仏ご本尊金剛蔵王大権現三体の特別ご開帳に合わせて吉野に出かけていました。左隻は、あの時にロープウェイ山頂駅から歩いた道のりでわぁーとなりました。

創建以来、何度も焼失と再建を繰り返し、現在の蔵王堂は豊臣家の支援により天正20年(1592)ころに完成したものです。秀吉53歳、天正18年(1590)「小田原の役」で天下を統一し、文禄2年(1593)には「文禄の役」をおさめ、翌年には側室の淀君に待望の秀頼が誕生し、秀吉にとって束の間の平穏な時期でした。今でもかの地に出かけるのはまぁまぁ遠いのに、5000人もの人が出かけたとは、宿泊やロジスティックもどう用意したのかと描かれてないところまで気になります。文禄3年は、利休の死後ですが、右隻には、様々な喫茶風景が描かれています。天秤棒の様なものを担いで売茶翁のように茶を売り歩く男の姿や、現在の立礼席のように小屋の中で腰掛けて茶を点て飲む人たち、草庵風茶室で茶を楽しむ人たちが描かれています。左隻、銅(かね)の鳥居前では当時マハラジャが使っていた渡来品の輿に担がれている秀吉がみえます。随員たちは、仮装した者もいて無礼講だったのではないでしょうか。現在は修理中の仁王門を通って、一行は蔵王堂に裏から入っています。秀吉はこの花見で宿所としたかつて南朝があった吉水院に仮設の能舞台をこしらえて、「吉野に参詣した秀吉の前に蔵王権現が現れ、秀吉の治世を賛美する」という自作の能「吉野詣」を演じました。到着から3日間は雨が降っていましたが、僧たちの晴天祈祷により漸く雨が上がり事なきを得たようです。吉野を後にした秀吉一行は、那智の滝と青岸渡寺を訪れており、屛風には吉野からは見えるはずのない次の目的地を左隻左上に描いています。俯瞰的に描いたこの屛風は、秀吉一行に帯同した絵師がルポルタージュのように描いたのではないでしょうか。来春奈良博で開催予定の特別展「神仏の山 吉野・大峯―蔵王権現に捧げた祈りと美―」に出陳予定ですので、予習を兼ねて解説パネルも参考にじっくり眺めてみて下さい。

《洛中洛外図屛風》6曲1双 紙本金地著色 江戸前期 個人蔵[通期展示] 

室町時代後期から江戸時代にかけて多く描かれた「洛中洛外図屛風」のうちでも本作は近年確認された作品だそうで、保存状態がとても良い豪華な屛風です。右隻には方広寺と内裏を描き、左隻には徳川家康が築城した二条城が描かれており、徳川の治世になってからの洛中洛外を描いていることが分かります。二条城を出立した行列が右隻の御所へ続いていることから、後水尾天皇の寛永3年(1626)の行幸に将軍が天皇をお迎えに参内する行列を描いたのかとも思われます。右隻、五条大橋の手前に祇園祭の長刀鉾が見え、鴨川を渡った先にあるのが方広寺の大仏殿、上方にあるのが豊国神社、四条大橋は祇園祭で神輿が渡るために仮橋で、今と同様に欄干に擬宝珠がありません。右隻端にある黒いお城は、漆の漆黒の伏見城です。

《祇園祭礼図屛風》6曲1双 紙本著色 江戸前期 細見美術館蔵[通期展示]

祇園祭の前祭を右隻に、後祭を左隻に山鉾巡行を描いています。

3点ともに街の賑わいが聞こえてきそうで、登場人物を追っていくといつまでも観ていられそうです。


細見美術館は、、1階、地下1階、地下2階と順次展示室を下りていく作りになっています。

いきものとの共存 動植物を描いた屏風

《雪中花鳥図屛風》伝 狩野元信 6曲1隻 紙本墨画 室町時代 細見美術館蔵[5/24-6/29]

狩野派2代目 元信、伝の作品。座して見上げる屛風には、画面の下1/3でいろんなことが起きており、臨場感があります。私は描かれた鳥たちの顔の向きや視線を右から左へ追うようにして見ています。

重要美術品《観馬図屛風》勝田竹翁 6曲1双 紙本金地著色 江戸前期 細見美術館蔵[通期展示] 

戦時において重要な役割を果たした馬は、太平の世には鑑賞の対象となりました。描かれた男たちの顔の色にご注目。上位の人ほど色白に描かれているそうです。

《四季草花草虫屛風》6曲1双 右:紙本金地著色、左:紙本銀地著色 江戸後期 細見美術館蔵[通期展示]

いかにも琳派な艶やかでひときわ目を惹く屛風で、右隻から左隻へと季節が巡ります。左右で銀地金地となっており、光琳の金地の《風神雷神図屛風》の裏に抱一が《夏秋草図屛風》を描いた様に、元は表裏だったかもしれないとのこと。銀地に秋冬を描いた左隻は冷えた月夜のようで静けさも漂います。

《水辺家鴨図屛風鈴木其一 6曲1隻 紙本金地著色 江戸後期 細見美術館蔵[通期展示]

細見美術館の琳派展でよく目にする家鴨の屛風です。水辺の大きく湾曲する曲線が効いています。其一が描く近代的な作風を後世の画家たちは倣ったに違いありません。



 和歌や物語を描く 絵画化された和歌や物語の世界

《四季歌意図巻》鈴木其一 4巻 絹本著色 江戸後期 細見美術館蔵[通期展示] 小さな巻物4巻、上から春:在原業平⇒夏:柿本人麻呂⇒秋:西行法師⇒冬:藤原定家。書かずとも和歌が浮かぶ当時の教養の高さがうかがえる。横長のワイドな画面に空気感も表現する其一の先見性。横山大観の「武蔵野図」なども本作の秋をギュッと凝縮したようだとのお話でした。

《源氏物語図屛風「総角」》岩佐又兵衛 6曲1隻 紙本金地著色 江戸前期 細見美術館蔵[通期展示]

又兵衛の《源氏物語図屛風》は、宇治十帖の「総角(あげまき)」の場面を描いたものです。宇治で紅葉狩りをする匂宮一行と匂宮を待つ八条邸の「豊頬長頤」の女性たち。左端には宇治という事で「柳橋水車図屛風」のように彼岸と此岸を結ぶ金の橋が架かっています。江戸期には教養を示すために嫁入り道具として源氏物語図屛風が多く作られました。一方、ストーリーが簡単な伊勢物語は町衆に人気があったそうです。


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物語る絵巻 絵巻物は、右から左へ物語が進むので、机や床など平らな所に置いて、両手を使って、肩幅くらいずつ広げながら読み進めます。これは日本の漫画を読み進むことと共通しています。「左へ開く⇒読む⇒右から巻く⇒右端へ移動させて左へ開く」を繰り返して読み進めるわけです。展示室には絵巻についての図解解説もあります。正倉院展などでは、経を読むときの書見台が展示されているのを見ることもありますが、絵巻物もこのような書見台で読むこともあったのでしょうか。

《藤の衣物語絵巻》1巻 紙本墨画 室町前期 細見美術館蔵[巻替あり] 「遊女物語絵巻」として長く知られていた白描の小絵で、展示されている1巻は主に物語の前半部分で、後半はブルックリン美術館などに所蔵されています。内容は貴公子の数奇な運命が語られているらしいです。詞書とは別に、絵の部分に登場人物たちの台詞や場面説明が事細かに書き込まれていて、なんだか女性たちのガヤガヤが聞こえてきそうでした。

《硯破草紙絵巻》1巻 紙本著色 明応4年(1495) 細見美術館蔵[通期展示] 1巻全部が広げて展示されています。巻末に「明応四年 十一月廿九日 源義高」とあることから室町幕府第11代将軍足利義澄(1480-1511)が16歳のときに所持していた絵巻です。内容は、ちょっと悲しいお話ですが、若い将軍への教訓物語でもあったかもしれません。本紙を貼り付けてある上下の料紙や表紙裂も将軍家所持らしく美しい。本絵巻には、屏風の使用場面も描かれているのでご注目ください。

断簡の美 巻物は様々な理由から時に切断を余儀なくされ掛軸に改装されて継承されてきました。切断されたものは「断簡」と呼ばれています。自分の手元に来た断簡を自分好みの表装にするのもコレクターたちの楽しみでした。それはちょうど茶入などに新しい仕覆を仕立てるようなものです。細見家でも初代は表装するための長持2棹もの裂を保管していたそうです。大名家から諸道具類を受け継いだ近代数寄者たちにとっては、断簡となった絵巻物を新たな表装へと改装することも楽しみの1つであったことでしょう。その典型が「佐竹本三十六歌仙絵」です。皆さんも2019年京都国立博物館で開催された「流転 100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」で、本紙に負けない意匠を凝らした表装をご覧になったことでしょう。表装や修理に注目した展覧会も近年開かれています。

《白描源氏物語絵巻断簡》紙本墨画 室町後期 細見美術館蔵[通期展示] 室町時代に流行した小型の絵巻である「小絵」の白描による源氏物語絵巻の断簡2幅です。白描の本紙より大きな表装が目立ちに目立っていました。

重要美術品《梵字経刷白描伊勢物語絵巻断簡「彦星」》1幅 紙本墨画 木版墨摺 鎌倉時代 細見美術館蔵[通期展示]

白描による伊勢物語絵巻で、料紙の表裏に梵字で「光明真言」の経文が木版刷りされています。一番古い伊勢物語絵巻の断簡で、その上からびっしりと表裏に梵字の経文が版木で押されていて、なんだか念がこもっているような。紙継から左には第95段「彦星」(「へだつる関」)の絵を接ぎ合わせているそうです。黒髪の女性の後ろ姿の向こうに、御簾越しに相手の男性が描かれています。二人の間にある御簾は二人を隔てる天の川(「へだつる関」)にたとえられています。男の思いは遂げられるのですが、経文の合間から見える女性の黒々とした長い髪が女性の情念を表しているようにもみえるようで・・・。絵巻はかつて益田家(益田鈍翁の家系)、団家(團琢磨の家系)が各1巻ずつ所蔵していましたが、後に分割され断簡となり引き継がれています。本作の表具裂は熊野速玉神社伝来という代物だそうでビックリです。近代数寄者たちは、豪華な裂を用いて改装して茶掛けとしました。

 

国宝祭の前後期の合間に伺った本展、屛風や絵巻、断簡それぞれに歴史ありでした。


細見美術館 写り込んだ人を消すと、一緒に電柱や電線も消えてしまいました。

【開催概要】「広がる屏風、語る絵巻」


プロフィール

morinousagisan
阪神間在住。京都奈良辺りまで平日に出かけています。美術はまるで素人ですが、美術館へ出かけるのが大好きです。出かけた展覧会を出来るだけレポートしたいと思っております。
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