新たな推し画家発掘にホクホクのスイス プチ・パレ美術館展
スポーツの日でしたが、アートに変更して新宿駅西口のSOMPO美術館【スイス プチ・パレ美術館展】を訪問です。
新宿西口の高層ビル群の一角を担う損保ジャパンビルですが、美術館は以前の上層階から併設の別館へお引越し&リニューアル。
地上からは断然入りやすくなりましたね。
建物は5階建てのメタリックシルバー色で、フォルムは損保ジャパンのロゴを意識した球体がモチーフとのこと。
滑らかな曲線が金属色ながらも鋭利な印象は持たせない落ち着いた雰囲気です。
入口の前には美術館の象徴、ゴッホの【ひまわり】複製画がパネル展示してあり、さりげなく所蔵品アピールしてます。
出入口が1F。2Fはカフェとショップで、展示スペースは3~5F。エレベーターでに昇り、見ながら下へ降りていく動線です。
プチ・パレ美術館は名前で勘違いしそうなフランスではなくスイスのジュネーヴにあります。なんと1998年から現在まで休館しっぱなしです。(四半世紀閉館って。。。)
何度かガイドブックを見てもずーっと【休館中】なので、すっかり記憶が埋没していました。今回の展示は初お目見え作多数確実!と期待が高まります。
館の特徴は、ルノワールやユトリロ等、著名な画家達の作品はもちろんですが、日本では馴染みの薄い、不世出の画家たちの作品も数多く収蔵している点。
創設者であり実業家ゲーズ氏の、その時代まるごとを記録した芸術を後世に伝えたいという考えに基づいています。
今回は38名の画家による油彩画65点が展示され、印象派からエコール・ド・パリに至る有名無名のフランス近代絵画を紹介しています。
今回の展覧会で特筆したいのが従来のチラシ・作品リストの他に、A3二つ折りで鑑賞ガイドがあった点です。
見開き1枚で章毎の解説や、裏面に作家たちの生没年一覧年表等、分かりやすくて鑑賞のお供にピッタリです!
こういうの他会場でも増えて欲しいですね、ジュニアガイドとか羨ましいけど逆年齢制限で大人には手が届きませんし。
鑑賞ガイドでだいぶテンション上がったまま会場へ入ります。
1章の【印象派】と続く2章の【新印象派】でもう初鑑賞作品と注目作家多数で目移りして、推し作品が絞れない。。。
断捨離気分で頑張って絞って一目惚れ作品5点(笑)ご紹介します。
①【冬の風景】アルベール・デュボワ・ピエ 1888-1889年 油彩カンヴァス
直径2mmくらいの小さな点描で、雪に埋もれた農村の風景を描いています。明るい静けさという不思議な印象です。
白、薄紅、薄紫色や淡いグリーンやブルーを使い、冬の柔らかな光に照らされる静謐な雪景色。
ゴッホやゴーギャンのような原色や鮮烈さとは対極の印象で、じんわりと滲み出る情感を纏っています。
作者のピエは現役フランス軍人と画家という、現在なら推奨される副業生活両立の先駆けのような人物。
彼は無審査・無賞・自由出品を原則とする新印象派の美術展『アンデパンダン展』の設立と開催に貢献した中心メンバーでもあったそうで、
会場の確保や団体立上げ申請書類の準備など実務運営をサクサク行っていた模様。規律や秩序に特化した軍組織に鍛えられた事務処理能力の高さが伺えます。
こうした協会運営の在り方は現在の美術業界にも繋がっているのですから社会貢献度高いですよね、マルチタスクなピエ氏。
悲しいことにこの絵を描いた翌年、天然痘で44歳の若い生涯を終えています。
②【収穫】シャルル・アングラン 1890年油彩カンヴァス
一目惚れ作品②。新印象派主要メンバーのひとり、アングランの作品。
交流のあったスーラやシニャックの影響がよく分かる点描の描き方ですが、ピエの冬の風景よりもどこか明るく明瞭な色彩で、収穫した麦穂の山が
可愛らしいです。この麦わらの山、なにかに似ているなーと思いましたが、銘菓『きのこの山』のきのこの形にすごくよく似てます(笑)
3章から4Fに移動。この階段降下(1フロアなのでEV使うの遠慮してしまう)でちょっと気持ちが逸れちゃいますね。
全く窓のない非常階段の雰囲気で、閉塞感もあるし。もう少し展覧会PRなりデッドスペース利用をすればより素敵になるのではなかろうかと妄想です。
3章【ナビ派とポン・タヴァン派】では前衛芸術ナビ派の代表、ドニの作品が最多3品。
4章【新印象派からフォーヴィスムまで】は名前の通り、印象派からよりタッチが大胆でカラフルになるフォーヴィスム作品が並びます。
どこか現在のカフェやギャラリーにも飾ってありそうな親近感を覚えるのがこの時代くらいからでしょうか。
市民生活を題材にした【ブーローニュの森の散歩道】【村の広場】など、身近な風景を輪郭が崩れたデザイン性を感じさせる作品が描かれています。
なんというかアコーディオンのフランス音楽が聞こえてきそうです。
5章【フォーヴィスムからキュビスムまで】はピカソに代表される空間表現の自由を追求するキュビスム作家の作品群。
③【スフィンクス】 ジャン・メッツァンジェ 1920年油彩カンヴァス
赤、水色、白、黄色とポスターカラーのようにマットで明瞭な色彩で描かれた現代アートポスターのよう。
白い雲の浮かぶ晴れた空の元、N・Yの自由の女神のような陶器を思わせる白の女神が真っ赤なスフィンクスを捧げ持っています。
濃淡が全くない明瞭な線と色彩がものすごく目立って、存在感が半端ない。。。
メッツァンジェはキュビズムを代表するフランス画家で、作家、批評家、詩人も兼ねた才人です。
キュビスムの理論書である『キュビスム (Du Cubisme)』を友人アルベール・グレーズと共に執筆し、キュビスムの理論体系の創設に貢献しています。
私が知っていたのは奥行き、濃淡のある色彩の【カフェのダンサー】という作品だったので、目が覚めるような色彩表現は新たな魅力の発見でした。
全く趣きが異なる作品を生み出すメッツァンジェはかなりクレバーな人物だったのかも。
6章【ポスト印象派とエコール・ド・パリ】は現代にも通じる、特定の流派を持たない画家たちが独自路線の追求し個性重視の作品が多くなります。
④【猫と一緒の母と子】テオフィル・アレクサンドル・スランタン1885年油彩カンヴァス
愛猫家の同志でアールヌーヴォー画家、スランタンの作品。デザインを学んでポスター制作に勤しんだ彼の絵は装飾的でお洒落です。
有名なのは黒猫が描かれたポスター『ルドルフ・サリスの「ル・シャ・ノワール」の巡業』ですが、猫をこよなく愛したスランタン。
団欒を描いた中にもしっかりと茶トラ猫がいい味出してます。フランスにお馴染みの、世相を皮肉る風刺画も描いたスランタンが描く猫たちは
どこか高慢で皮肉げな表情を浮かべていますが、しっかりと可愛いのです。眼福です。
⑤【フォリー・ベルジェールのバーカウンター】ジョルジュ・ボッティーニ1907年油彩カンヴァス
今回見つけた1番の推し画家かもしれません。イタリア出身のモンマルトルで活躍半ばにして33歳という若さで亡くなった夭折の画家ボッティーニ。
この作品は美術館会場外の展覧会看板の絵にもなっていて、ルノワールのように優雅で、でも軽やかで洒脱な雰囲気がものすごく気になっていました。
どこに展示されてるのかなーと思いつつ、最後の章でようやくの発見。タイトルを見て、ん?どっかで聞いた題名・・・( ゚д゚)ハッ!
2019年東京都美術館で開催されたコート―ルド美術館展の目玉、エドゥアール・マネの大作と同じ!
制作年こそ違いますが、同じ場所がモティーフの作品だったのです。お洒落な帽子を被った若い2人が凭れるバーカウンターの後ろは鏡貼り。
映りこむ喧噪風景からはマネの作品との既視感を覚えます。
『フォリー・ベルジェール』は当代の芸術家がこぞって訪れた劇場を兼ねたナイトクラブ。
いわゆる夜のお店なので、単に観劇とか食事ではなく歌謡曲の題材になりそうないろんなショートストーリーが生まれたのだろうと想像がムクムク膨らみます。
ユトリロやヴァン・ドンゲン、レオナール藤田の活躍する時代でまたひとり、勝手に新たな推し画家(笑)が生まれました。
新たな作品との出会いでホクホクなプチ・パレ展。こういう出会いがあるから、ついつい美術館に足が向かってしまうのです。
※巡回展は東京会場をもって終了しました。