発掘された珠玉の名品 少女たち -夢と希望・そのはざまで 星野画廊コレクションより
京都文化博物館|京都府
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京都の老舗画廊コレクションから「少女」というテーマで選び抜かれた作品を展示するちょっとレアな展覧会です。
美術関係者なら一目も二目も置く京都の老舗画廊、京セラ美や京近美にも近い神宮道に面した星野画廊さんの現有作品から、「少女」というテーマで星野さんが作品をピックアップした上で、展覧会監修者と担当学芸員さんたちが厳選した121件の作品が展示されています。タイトルに「少女たち」となっていますが、明治、大正、昭和を生きた、少女たちの幼き童女の姿や、思春期の姿、大人となった少女たち、母となった姿など、それぞれの時代や環境の中で生きてきた女性を描いた作品を8つの章立てで構成しています。所謂、「美人画」と呼ばれる範疇には収まりきらない女性像です。
日曜美術館の「甲斐荘楠音展」の放送で、星野さんがご主演なさっていて、「あっ!星野さん!」って叫んでしまいました。そうなのです。京都での「甲斐荘楠音展」の折に「星野さんのところにもデッサンや習作が展示してある」と教えて頂き、私も伺いました。老舗画廊さんのドアを開けるときは緊張しますけれど、中に入れば優しく迎え入れてくださるのです。あの時は甲斐荘楠音だけでなく、本展にも展示されている笠木治郎吉の作品が展示されていて「あっ!この作品!」と思わず声に出てしまいました。
笠木治郎吉も昨年の府中市美術館で開催された「孤高の高野光正コレクションが語る ただいま やさしき明治」で一躍注目される画家となったのでした。本展でも明治期に学校へ通う何ともあどけなく愛らしい幼い少女や逞しく働く少女たちを瑞々しく描いた作品が展示されています。
甲斐荘楠音、笠木治郎吉、秦テルヲ、岡本神草などを見つけ出し、世に送り出してきたのが星野画廊さんなのです。不染鉄展を観た時、私は本当に驚きました。こんな画家が居たなんて!と。
本展のメインヴィジュアルになっている岡本神草《拳の舞妓》インパクトあります。
吊り広告で阪急電車をジャックして、小学生の女の子が「コワイ!」とお母さんに話していたらしいです。お座敷遊びの拳遊び(狐拳)で、狐のポーズをとる舞妓ちゃんを描いた作品です。2017年に京近美で開催された「岡本神草の時代展」を覚えておられる方もおいででしょう。《拳を打てる三人の舞妓》を国展に出展しようと描いていた神草ですが、筆の遅い神草は締め切りに間に合わず作品を切断して出展します。
星野さんは、1985年に《拳を打てる三人の舞妓の習作》と出会い、神草の遺族から資料類全てを譲り受け、徹底的に調査・整理して、作品切断の記事にたどり着き、切断された絵画と資料の中にあった残存部は見事に合致したのでした。現在は額装されて京都国立近代美術館に所蔵されています。本展展示作品は、その後1922年頃に描かれた作品です。星野画廊さんの活動を表す象徴的な出来事です。
星野さんは、図録掲載の対談の中で
「一生を通して作品を生み出せるのは巨匠と言われる人。何度も波を乗り越えて、それぞれの時期に紹介できる作品がある。普通の人はそこまでいかないけど、たった1点でも2点でも素晴らしいものがあったら、その作品については紹介する。そんなふうにうちはやってるんです。」二人三脚でここまでいらした奥様も「作品本位なんです。その作品が世の中に認められているかどうかは関係ない。私たちが『これはいいな』と思ったら、検証したいんです。」と語っておいでです。
長年培った審美眼で見いだした作品を、徹底的に調べ整理し、企画展を開いて、図録として記録に残してこられました。それが美術館の展覧会へと結びつき、美術館の所蔵となった作品も少なくありません。
本展展示作品の中には作者不詳の作品もありますが、なんとも魅力的な少女たち、女性たちで、画家が描きたくなる対象としてそこに存在し、彼女たちはその時代、社会も映していました。何かの拍子に零れ落ちた作品を掬い上げてきた老舗画廊の50年が詰まった展覧会となっています。
京都を皮切りに、福島県立美術館、新潟市美術館、高知県立美術館、呉市美術館、三鷹市美術ギャラリーと全国を巡回します。コアな美術ファンからジワジワと人気が出てきそうな予感です。(話題となってほしい展覧会です。)ほぼ知らない画家ばっかりだけど、展示作品はなんだか気になる展覧会です。それぞれの時代を生きた女性たちが愛おしくさえなる展覧会です。
大家を中心とした名作主義の展覧会に一石を投じる展覧会となるでしょうか。見届けたい。
☆8月5日:シンポジウム「近代京都絵画史研究を振り返る:京都、むかしがたり」
← 参加予定です。
★星野桂三さんによるギャラリートーク
日 時:2023年7月21日(金)、8月4日(金)、8月18日(金)、9月1日(金)
各回17:00から展示室内←夕方からなので参加は難しい、残念。
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- BY morinousagisan