没後50年 福田平八郎
大阪中之島美術館|大阪府
開催期間: ~
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写生を基本にした装飾画
京近美所蔵の「花の習作」や雨が降り始めて瓦にポツポツと落ち始めた瞬間を描いた東近美所蔵の「雨」を見る機会があり、この日本画家は「トリミング」の人なのかと思い込むようになっていました。
2007年に京国美で開催された平八郎の展覧会を私は見逃しており、その後とっても後悔することになるのですが、当時はそれに今ほど京都画壇にも興味がなく、都路華香展や福田平八郎展に出かけておりませんでした。
ところが、重要文化財《漣》を、どこかで目にしてこれは一体なんなんだ!日本画なんでしょう・・・と吃驚して心斎橋の準備室まで観に行きました。その時は二曲一隻の屏風仕立てで観ました。修復されて蝶番とかがもろくなり本展では額装で展示されています。
金箔の上にプラチナ箔を重ねた画面に(表具屋さんに「銀」と電話で依頼したものの、その頃どっぷりのめり込んでいた釣りに出かけていたら、金屛風と聞き違えて出来上がってきたので、プラチナ箔にしたようです。)群青で波だけを描いています。屏風でたてた時とは光の当たり具合で違って見えるかもなぁとも思いました。下絵や写生帖が本画の対面に展示されています。下絵には、本画に波の写し忘れがないようにと、下絵に波1つずつに移し終えた後にチェックをいれています。また写生帖の中にこれを本画にしようと決めた写生の画面のどこをクローズアップしてトリミングするかを決めるためにハガキの中をくり抜いたものを置いていてそのプロセスが分かってとても興味深いです。(クリムトも正方形の風景画はそんな風にしていたような)
本展は、初期から晩年まで、代表作を集めて前後期に展示するまさに大回顧展ですが、なーんといっても「写生狂」と自称する平八郎の写生帖や素描・下絵がふんだんに展示されているのが魅力ではないでしょうかしら。日頃の平八郎の作画への姿勢が伝わり、本画へのプロセスも見えてきます。
特集展示の「水の探究」も面白く、水が変化した、氷や雨、雪、雲と形がないものをどう描いてきたかとても興味深い。また、《漣》や《雨》や釣果の跳ねる鮎を描いた作品はとてもリズミカルですね。空とモクモクと立ち上がる雲しか描いていない大分県美所蔵の《雲》、大分県立美術館以外で展示されるのは初めてだそうです。一見単純に見えるのですが、空と雲のキワキワ、輪郭線の取り方をじっくり観るのがポイントだそうです。
郷里大分の旧制中学で大の苦手の数学で留年が決定して、画家を目指して京都に出た平八郎さん、絵を習う京都での暮らしは水を得た魚のように楽しかったようです。画塾に属さず、特定の師を持たなかった平八郎さんは、学校制度のカリキュラムが整った時期の京都で、美工から絵専と学校教育で絵を学んだ「学校派」の一人でした。栖鳳などの京都画壇の錚々たる日本画家を教授陣に、新しい日本画を模索する国展のメンバーたちが一世代上に居て影響を受け、岡本神草は同級生だったそうです。技術もメキメキとあがり、優等生だった平八郎さんは、倣った絵はなんでもそのように描ける分、独自の画が描けなくて苦悩します。美学美術史の先生から麦僊の様に主観的か、榊原紫峰の様に客観的か、平八郎さんの場合は「写生から入った方が・・・」とアドバイスを受けて生涯の方向性が決まったようです。
その後水を描かずして色の濃淡や陰影で水中の鯉を描いた《鯉》が帝展特選を受賞して「鯉を描いて恋を得」て、結婚を許されました。平八郎は妻テイを生涯大事に思い、癌を患った妻への思いにはホロリとしました。今は仲良く法然院に。
《漣》の制作には、趣味の「釣り」に出て、釣れない日に湖面に吹いた風で波立つ一瞬にインスピレーションを得たのですが、東京の美術評論家や山口蓬春などの日本画家や木村荘八などの洋画家をメンバーとするグループ「六潮会」に誘われて、そこで多様な芸術論に接し、特に洋画家からは多くの事を吸収して、新しい日本画の表現に繋がります。モダンな感じが白熊の蓬春さんと似ているような気がします。「京都にいては、こうもむき出しに言うてくれる人はいなかった・・・」とあり、そうやろうなぁと一人クスッとしました。
晩年になるほどにカラフル「写生にもとづく装飾画」
図案のように単純化された身近な光景の作品は、鮮やかな色によって色面構成され大らかに造形化されていきました。最後の展示室は「カラリスト」福田平八郎で満ち満ちていました。
日本画展示と言うこともあって、今回も前後期で展示替えがあります。宮内庁買い上げの《鯉》は3/24までの展示、作品リストで展示期間を確認してお出かけ下さい。
モネもまぁいいんですけれど、大阪中之島美へ出かけるのなら本展も是非是非観てほしい!
モネが混み混みなので、18時まで開館しています。4月は月曜日も開館だそうです。モネ展も夕方4時近くになるとグッと空くらしいので(1時間半あれば見られると思います)先に福田平八郎展を観て、ちょっと休憩してモネをご覧になってはいかがでしょう。
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- BY morinousagisan