祈り・藤原新也
世田谷美術館|東京都
開催期間: ~
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仄暗さの中にある、美しさ
これは、、、見た方が良い。
想像を遥かに越えて、見るものの心に訴えかけてくる。
くれぐれも心の準備と覚悟が必要だ。
いち写真家の展覧会だと思って、気軽に足を踏み入れると大怪我を負うことになる。
『祈り』と称された展覧会名の通り、平和か、命の尊さか、神仏か、何にせよ
何かへの祈りを思わせる写真の数々に心が押し潰されそうになる。
序盤、インド放浪時の写真から非常にショッキングだ。
<メメント・モリー死を想え>のサブタイトルが冠されており、死の匂いが
色濃く写っている。僧の死体を数人で抱えている場面、死体を燃やしている炎のゆらめき、
水葬の果てに川岸に打ち上げられた死体を野犬が貪り喰う場面、散らばる骨。
撮影可にも関わらず館内にシャッター音は響かない。
誰に言われた訳でもないが、気軽に撮っていいものではないと、皆思っているのだろう。
中盤から後半にかけては、ほんの僅かだが見やすくなる。
チベット僧や地域住民を撮ったもの、香港や朝鮮半島での写真。
そのどれもがほのかに憂いを帯びていて物悲しさを語っている。
東日本大震災後を写したものも同様だ。
幾つか芸能人や有名人を被写体にした作品もあるが、その者の内面を
深く抉り取った様な表情は、普段の姿からは想像もできない。
ある意味でとても人間らしい一面が覗ける。
写真と同等に重要なものとして各作品に対する本人の解説?解釈?の様な
文言が添えられているのだが、それも作品の雰囲気を底上げしている。
個人的に最も印象的な作品は玄界灘の沖ノ島の森を撮った写真。
自然の壮大さと雄々しさを感じさせる作品。
その解説文の一節にドキリとさせられる。
「……この世に人間がいなければこんなに美しい世界が保持される」、と。
全体的に暗い印象が残るが、その中に美しさも感じ取れる展覧会である。
『死』がつきまとうモノに美しさとは不謹慎に思うかもしれないが
それさえも、自然の流れの一部分だと認識し、生あるものの
抗いようのない宿命に美しさを感じるのである。…と、締め括ったりなんかしてみたりして。
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