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画業を超えて、生きざまの全貌を見せてくれます
明治の洋画の先駆者のひとり浅井忠氏の画業、更には真摯な生きざまの全貌を俯瞰する力のこもった展覧会でした。浅井忠という画家、人物として好きになります。
重文指定作品を二作(東博蔵《春畝》・東京芸大蔵《収穫》)も描いている重要画家の大展覧会なのですが、借用してきていません。そもそも主催者も「代表作品を網羅した名品展ではありません」と謳ってます。県立館として千葉ゆかりの浅井にコミットし、膨大な作品・資料収集や調査研究を深めてきたその成果を、当館50周年の機に集大成披露されていて誠に天晴、敬意を表します。
浅井忠が画壇の中でも、またその外でも、多くの同時代人に慕われていたことがよくわかります。展示構成の最終章「弟子たち」では、晩年の京都時代に浅井の周りにいた梅原龍三郎、安井曾太郎らの珠玉の作品が並ぶが、これこそが浅井の人生の”作品”かと省察させらます。また、そのコーナーの手前には、浅井の最期に寄せられた弔辞・弔電が多数展示されており、西園寺公望・原敬など凄い面々、実に立派で感銘しました。
工部美術学校時代、バルビゾン派を汲むフォンタネージに師事し、農村・農民を描く画風を確立してゆきます。その後フランスに留学するのはずっと後の40歳の頃。フランソワ・ミレーに通じるこの画風形成は留学前なのですね。代表作の一角の油彩画《藁屋根》《漁婦》はもちろん素晴らしいが、風景画《曳舟通り》等のペン画表現も完成度高く気に入りました。
フランス留学時代の幅広い活動ぶり、そして、明るい色調を得た画風の変化も興味深い。先に留学を果たした黒田清輝と同じ宿に長期滞在しており、そこでモデルを描いた作品を残してます。その一つ《編みもの》、なんとなく清輝の《読書》っぽくて面白い。百年前の日本男子にとって、そのとき感じたモノが同じだったのかな。
2時間近い時間をかけて本展を見終えて。館内の彫刻作品や、レトロ感とともに歴史を感じる意匠凝らした立派な建築も楽しみました。1974年の開館以降、ほぼ毎年3回開催の企画展の全チラシが時系列でパネル展示されていて、これも壮観です。
エントランスを出たところ、パレットと絵筆を手に隆々と立つ緑色の浅井忠像がお見送りしてくれました。