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独自の画境を築いた木島櫻谷の画業を二館で紹介します。「京都の巨匠・木島櫻谷 画三昧の生涯」

木島櫻谷《細雨・落葉》部分 絹本着色 屏風 明治38年(1905)福田美術館蔵

福田美術館と嵯峨嵐山文華館では、三年半ぶりとなる木島櫻谷の回顧展です。京都市京セラ美術館蔵《寒月》(4/26~5/10 2週間限定展示です)が日曜美術館で取り上げられ、井浦新さんの絶賛と漱石の辛い批評も相まって一気に認知が広まり、リニューアルなった泉屋博古館東京での展覧会開催でさらに人気上昇中というところでしょうか。《寒月》お目当ての方もいらっしゃったでしょうが、こちらは京都市京セラ美術館のコレクション展で展示されることもあります。毎度毎度初公開が披露される福田美術館さん。本展では、100年以上もの間行方不明だった櫻谷と岸竹堂の共作《嵐山清流》[通期展示]が注目作品ではないでしょうか。第7回文展出品作《駅路之春》[5/11-7/6]が展示されます。桜の木を描かずして桜の花弁はひらひらと舞い、若い柳の葉が揺れる、描かれている人たちと春を感じるなんとも気持ちも和らぐいい絵です。


左から:木島櫻谷《剣の舞》明治34年(1904) 公益財団法人櫻谷文庫、《双美図》明治34年(1904)頃 福田美術館蔵 共に[通期展示]

第1会場 福田美術館

第1章 画三昧の日々 若くして頭角を現した写生画の天才、「画三昧」のはじまり

本章では、櫻谷が若い頃に描いた作品や展覧会出品作品、櫻谷と関連ある作家の作品を展示しています。



今尾景年《寒菊飛鴨図、胡枝花渡雁図、巻丹錦鶏図、牡丹唐山雀図》明治28年(1905)頃 福田美術館蔵

京都の三条室町の商家に生まれた日本画家・木島櫻谷(1877-1938)は、16歳から花鳥画を得意とする今尾景年に師事します。

京都画壇伝統の「写生」重視にならい、膨大な数の写生帖が遺されています。《剣の舞》は、第7回新古美術品展2等賞5席作品です。


《双美図》部分 明治34年(1904)頃 福田美術館蔵[通期展示]

泉屋博古館東京で開催中『ライトアップ木島櫻谷Ⅱ-おうこくの線をさがしに』アートアジェンダのREVIEW欄に同展の櫻谷の線に注目した解説が秀逸との感想が多くあり、本展に展示されている作品から、櫻谷の若かりし頃よりしなやかな線の描きっぷりを!と拡大写真を掲載しました。

若い頃から頭角を現していた櫻谷は、全国絵画共進会、新古美術品展などに次次と出品し受賞、明治19年に官展である文展(文部省美術展覧会)が始まると、第1回文展で二等賞を受賞し、その後連続上位入賞を果たし、「文展の寵児」とも呼ばれました。


木島櫻谷《望郷》昭和5年 公益財団法人櫻谷文庫[前期展示]

第11回帝展(帝国美術院展覧会)出品作である《望郷》は、中国後漢の武将 蘇武に題材をとったものです。櫻谷は儒医・山本渓愚について漢籍を学び、『前賢故実』の作者として知られる菊池容斎に私淑して、故事や史実にも精通していました。フランス留学後京都に移り住んだ浅井忠とも交流がありました。本展では、浅井忠が描いた日本画《風景》も展示されています。櫻谷は大正期には京都絵画専門学校(現京都市立芸術大学)教授も務めました。


《嵐山清流》右隻:岸竹堂 明治10年代(1877-1886)、左隻:木島櫻谷 明治41年(1908)頃 福田美術館蔵[通期展示]

第2章 京都の巨匠 木島櫻谷 100年以上も行方不明だった《嵐山清流》に注目

本章では、文展での活躍期から晩年に至るまでの櫻谷の精緻で優美な作品を紹介しています。

1913年には第七回文展では審査員に就任、1919(大正8)年、帝展と改組後もしばしば審査員を務めました。パリ、ロンドン、トレド(アメリカ)など海外の展覧会にも出品を依頼され、京都を代表する画家として竹内栖鳳と並び立つほどでした。

早くに亡くなった櫻谷の父は、趣味の人でもあり岸竹堂とも親しかったようで、木島家には岸派の作品を目にする機会が少なからずあったと思われます。本展でも、岸派三代、岸駒、岸岱、岸連山の作品が展示されています。右隻を岸竹堂、左隻を木島櫻谷が描いた《嵐山清流》は、1920年代にオークションカタログに載って以来長く行方不明になっていた屏風で、福田美術館の前を流れる大堰川の上流の景色を題材にしています。八曲一双の大きな屏風で、竹堂が描いた後20年後に左隻を櫻谷が描いています。もともと別に左隻があったのかどうかなどは、今後の研究が待たれるところです。


左から:木島櫻谷《獅子》昭和時代 公益財団法人櫻谷文庫蔵、《厩》昭和6年(1931) 公益財団法人櫻谷文庫蔵、《孔雀》昭和4年(1929) 公益財団法人櫻谷文庫蔵、《夏山飛瀑》昭和時代 福田美術館蔵[全て通期展示]

京都や大阪の動物園へも写生に出かけていた櫻谷、京都市立記念動物園(現・京都市動物園)より贈呈された優待観覧券(年間パスポート)が遺っています。他人と関わるのが得意でなさそうな櫻谷ですが、写生に基づいて正確に描かれた動物は表情も柔らかで、櫻谷の動物に向ける目は優しい。掲載画像の《獅子》を見た時、栖鳳が海外の動物園で写生して描いたライオンがここに居たと思いました。

第3章 京都の精鋭画家たち 櫻谷の同時代の京都画壇の「団扇絵」

夏の風物を団扇に描いて掛軸に仕立てた12の作品が展示されています。初夏から夏に向かうこの時期に涼やかな作品をお楽しみください。公益財団法人櫻谷文庫には、扇面233点、団扇51点が現存しているそうです。それほどに夏には需要があったのでしょう。


衣笠絵描き村マップ

第2会場 嵯峨嵐山文華館

第1章 衣笠絵描き村の画家たち 櫻谷とともに「衣笠」で絵を描いた画家たち

大正12年(1913)に京都市内の室町御池から京都北西、衣笠等持院へ住まいを移します。その後、菊池芳文・啓月親子やその塾生たちの、土田麦僊、村上華岳、小野竹僑などの国画創作協会の若手画家も住まうようになり衣笠は「絵描き村」と呼ばれるようになりました。その地には今も母屋や収蔵庫兼展示室、旧アトリエが残っています。

現在、旧堂本印象邸ものこり、そのお隣に白亜の堂本印象美術館があります。

本章では、衣笠にアトリエを構えていた画家たちの作品を展示しています。また櫻谷が旅に出るときに愛用したトランクや帽子、持ち物なども展示され、櫻谷が偲ばれます。


左から:木島櫻谷《小禽詩画賛》《菫詩画賛》大正-昭和時代  福田美術館蔵[共に前期展示]

第2章 画家三昧の生涯 生涯画家であり続けた櫻谷の穏やかな優しいまなざし

櫻谷は、40代になって画壇とも距離を置くようになっていきます。58歳で明治神宮総督記念絵画館の壁画を完成させて以降、徐々に体調もすぐれず、昭和13年(1938)電車事故で急逝しました。62歳でした。衣笠へ隠棲してからは、漢籍の素養のあった櫻谷は、漢詩を自作しそれに寄せた絵を描きました。まさに「自画自賛」です。好きな絵を描き、漢詩を作って絵を添える、気儘な隠棲の日々が良かったはずなのに・・・。


木島櫻谷《松図屏風》明治時代 福田美術館蔵

大きな金屏風から歴史画、山水画、風俗画、静物画、お得意の動物そして時は女性の日常を写すとなんでも描ける画家だったと再認識しました。京都画壇伝統の徹底した写生に基づき、官展への入選を重ね、審査員となるもやがて画壇と離れ、衣笠に大きな居を構えて、子や孫とともに暮らす動画に映し出される櫻谷は好々爺。まさに「画三昧」の日々、しかしその一部がメインヴィジュアルにもなっている《画三昧》がどうもう好きになれない。空虚?空疎?虚無?やりつくした感があるのか、満たされているはずの日々の櫻谷さんが嬉しそうにないのです。それは櫻谷の最期を知ってのことだからでしょうか。みなさんはどの様に感じられているでしょう。

嵐山は、連休が過ぎても混沌としていることでしょう。美術館はこの地のオアシスではないか。特に嵯峨嵐山文華館の二階縁側で晩春から初夏にかけてまったりとお外を眺めて過ごしてはいかがでしょう。


【開催概要】「京都の巨匠・木島櫻谷 画三昧の生涯」

  • 会期:2025年4月26日(土)~ 2025年 7月6日(日)

前期 2025年4月26日(土)~ 6月2日(月)/後期 2025年6月4日(水)~ 7月6日(日)

  • 開館時間:10:00~17:00 (最終入場時間 16:30)
  • 休館日:5月13日(火) 6月17日(火)設備点検、6月3日(火)展示替え

 

第一会場:福田美術館

  • 観覧料:一般・大学生:1,500(1,400)円/高校生:900(800)円/小中学生:500(400)円 障がい者と介添人1名まで:各900(800)円※( )内は20名以上の団体 料金 ※幼児無料
  • URL:https://fukuda-art-museum.jp/  

第二会場:嵯峨嵐山文華館

  • 観覧料:一般・大学生:1,000(900)円/高校生:600(500)円/小中学生:400(350)円 障がい者と介添人1名まで:各600(350)円 ※( )内は20名以上の団体料金 ※幼児無料
  • URL:https://www.samac.jp/

二館共通券:一般・大学生:2,300円/高校生:1,300円/小中学生: 750円/障がい者と介添人1名まで:各1,300円


プロフィール

morinousagisan
阪神間在住。京都奈良辺りまで平日に出かけています。美術はまるで素人ですが、美術館へ出かけるのが大好きです。出かけた展覧会を出来るだけレポートしたいと思っております。
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