一足早くご紹介!来春開催 特別展「日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―」@京都国立博物館
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- by morinousagisan
来春京都国立博物館で開催される本展、既にインパクトのあるチラシを手にされた方も多いでしょう。サブタイトルは「異文化交流の軌跡」、同紙面には「出会いは、海を越える。日本美術の名品が一挙集結」とあります。
現代に伝わる日本の古美術も、古今東西の芸術文化が混じり合ってダイナミックに形づくられてきました。日本文化の交流の軌跡をたどり、日本美術の底力を再発見しようというのが本展の主旨です。
タイトルにある「るつぼ」って何?理科の実験でも使った遠い記憶があるような、金属を溶かしたり化学実験をしたりするために、物質を高温で熱するのに用いる耐熱性の容器のことです。「人種のるつぼ」などと使われるように「種々のものが混合する、融合することをたとえて」使います。タイトルでは、日本列島にもたらされた様々な異文化が混ざり合い、美しい品々を生み出してきた歴史を「日本、美のるつぼ」としています。
見どころ
① 交流を軸にとらえなおすと、お馴染みの名品の新たな一面が見えてくる。
19世紀末欧米では万国博覧会が盛んに開催されていました。しかし、西洋人が抱いていた日本美術のイメージは、その頃目にしていた安価な輸出工芸品や骨董品を基にしていたそうです。日本美術はそのようなものだけではない!当時の日本が世界に見てほしい、見せたい美術とは・・・と明治政府は、日本の独自性を強調した官製の日本美術史を整えます。
明治33年(1900)のパリ万国博覧会への参加を契機に明治政府が西洋式の日本美術史を編纂して、フランス語で『Histoire de l’Art du Japon』を刊行しました。「世界に見せたかった日本美術」がギュッとつまっています。本展でも京都国立博物館所蔵のこの貴重な初版本が展示されます。翌年、政府公認の日本美術史として和文で『稿本日本帝国美術略史』も刊行されて、現代の私たちが認識している「日本美術史」の原型となっています。
『Histoire de l’Art du Japon』については、調べてみるととても興味深い。本展で本物を間近で見られるのも楽しみですし、そこに掲載された実物を展示する展示室も設けられるそうです。
★東京国立博物館にも『Histoire de l’Art du Japon』は所蔵され、展示もされてきたようで、HPの解説を参照すると「農商務省から委嘱を受けて、明治30年(1897)頃から帝国博物館(東京国立博物館の前身)で岡倉天心が中心となって美術史が編纂され、主に国内外の要人、学者に献上・配布されました。」とあります。フランス語版に大きな役割を果たしたのが、パリで画商として有名な林忠正です。彼は1878年のパリ万博で「起立工商会社」の通訳として渡仏し、1900年のパリ万国博覧会では日本事務局の事務官長を務め、『Histoire de l’Art du Japon』の序文を寄稿しています。ところが和文『稿本日本帝国美術略史』では、林忠正の所がバッサリ削除されていたそうです。
★フランス国立国会図書館の電子図書館「ガリカ」で“Histoire de l’Art du Japon”を検索すると閲覧する事が出来ます。
★『稿本日本帝国美術略史』も、国立国会図書館から全頁閲覧できます。
② 出展総数は約200件、巡回はありません。
確定ではありませんが、現時点では国宝18件、重文53件を含む約200件
どのような作品が展示されるのでしょう。そのほんの一部をご紹介します。詳しくは公式サイトを参照ください。
① 世界にみられた日本美術
19世紀前半の日本開国までは、以前から輸出されていた伊万里焼や輸出漆器などを西欧の王侯貴族が東洋趣味として飾っていました。
開国後19世紀後半からはジャポニスムの流行と共に裕福な市民が浮世絵や輸出用工芸品などを蒐集しました。
・北斎の《富嶽三十六景 神奈川沖浪裏》江戸時代 天保2年(1831)頃 は、19世紀後半のパリで名声を博し、日本へ逆輸入的に北斎が再評価されました。1998年にアメリカの「ライフ」誌「この1000年の間に偉大な業績をあげた世界の人物100人」に、日本人で唯一選ばれたのが北斎です。本展では、葛飾北斎画《富嶽三十六景 神奈川沖浪裏》《富嶽三十六景 凱風快晴》《富嶽三十六景 山下白雨》前期は山口県立萩美術館・浦上記念館所蔵、後期は和泉市久保惣記念美術館所蔵品を展示予定です。
・《色紙団扇散蒔絵料紙箱・硯箱》江戸時代 19世紀 京都国立博物館所蔵〔通期展示〕
日本が国家として初めて参加したウィーン万博からの帰国時に、展示品を載せたニール号が伊豆沖で沈没し、その約1年半後海底から引き揚げられた積み荷の中にあったものです。奇跡的な保存状態であったために、蒔絵が豪華客船の内装に採用されるきっかけとなったそうです。
② 世界に見せたかった日本美術
・《突線鈕五式銅鐸》弥生時代 1~3世紀 東京国立博物館所蔵〔通期展示〕
現存する日本最大の銅鐸で、『Histoire de l’Art du Japon』に日本の初期の美術における金工の代表例のひとつとして掲載された。
・国宝《風神雷神図屏風》俵屋宗達筆 江戸時代 17世紀 京都・建仁寺所蔵〔通期展示〕
『Histoire de l’Art du Japon』には掲載されていませんが、明治後半になってから日本でも広く知られるようになった作品です。当時西欧において人気だった尾形光琳、そして酒井抱一へと連なる琳派概念の形成は、近代国民国家として歩み始めた日本が必要とした「伝統の創出」でもありました。
③ 世界と混じり合った日本の美術
ペルシア・インド・中国・朝鮮半島・・・と様々な文化の影響のもとに日本の造形の世界は繰り広げられてきました。
・国宝《宝相華迦陵頻伽蒔絵そく冊子箱》(ほうそうげかりょうびんがまきえそくさっしばこ)平安時代 延喜19年(919) 京都・仁和寺所蔵 〔通期展示〕※「そく」の漢字が表記できませんが、リンクをご覧ください。
空海が唐から持ち帰ったお経を納める箱です。文様は唐の影響が見られるが、迦陵頻伽の顔立ちは和風。
・重要文化財《宝誌和尚立像》平安時代 11世紀 京都・西往寺所蔵〔通期展示〕
宝誌和尚は、中国南北朝時代の僧です。
・《十八羅漢坐像のうち羅怙羅尊者像》范道生作 江戸時代 寛文4年(1664) 京都・萬福寺所蔵〔通期展示〕
中国人仏師・范道生の代表作。
・重要文化財《鳥獣文様綴織陣羽織》豊臣秀吉所用 桃山時代 16世紀 京都・高台寺所蔵〔4/19-5/11展示〕
サファヴィー朝ペルシアの宮廷工房で製作された室内装飾品が南蛮船でもたらされて、武将の陣羽織に転用された。
珍しいこんな作品も異文化の交流に視点があるからこその展示でしょうか。
・《クリス》インドネシア 16~17世紀 京都・石清水八幡宮所蔵〔通期展示〕
現在のインドネシアとマレー半島周辺で広く用いられてきた伝統的な短剣で、日本では雨乞いに用いられたのではないかと。
その他、まだまだ唐物の茶道具など多岐にわたる展示品が見られそうです。
初公開として、土佐光祐、鶴沢探山ら日本人画家24名の絵に、朝鮮通信使随員が序文等を寄せた合作《二十四孝図巻 乾巻》土佐光祐ほか筆 江戸時代 正徳元年(1711)、享保4年(1719)〔通期展示 ※巻替あり〕 江戸時代における日朝間の文化交流を示す貴重な作品です。本作品については本展にてじっくり深堀して頂きたい。
海洋堂の「風神雷神図屏風」の展覧会限定フィギュアがお目見えするようです。
同時期に、奈良国立博物館では奈良国立博物館開館130年記念特別展「超 国宝-祈りのかがやき-」が開催されます。こちらについてもご紹介予定です。
【開催概要】
・展覧会名:大阪・関西万博開催記念 特別展「日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―」
・会 期:2025年4月19日(土)~2025年6月15日(日)
[主な展示替]前期展示:4/19(土)-5/18(日)/後期展示:5/20(火)-6/15(日)
※会期中、一部の作品は上記以外にも展示替あり。
・開館時間:午前9時~午後5時30分(金曜日は午後8時まで)※入館は各閉館の30分前まで
・休 館 日:月曜日※ただし、5/5(月・祝)は開館、5/7(水)は休館
・会 場:京都国立博物館 平成知新館
・お問い合わせ:075-525-2473(テレホンサービス)
・京都国立博物館公式HP:https://www.kyohaku.go.jp
・展覧会公式サイト:https://rutsubo2025.jp