笠間日動美術館コレクション フランス近代絵画の巨匠たち:モネ、ルノワールからピカソ、マティスまで
うらわ美術館|埼玉県
開催期間: ~
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「印刷を展示されているのは何故ですか?」
本展はうらわ美術館の25周年記念展です。日動画廊の創業者によって創設された笠間日動美術館のコレクションのうち、特にフランス近代絵画をピックアップして紹介されています。
■ 笠間日動美術館のベスト・オブ・ベスト展
現役の画商でもある館長の長谷川徳七・智恵子夫妻によりコレクションからセレクトされた作品集「HIGHLIGHTS」を見てみると、実にその半数近くの作品が今回の展覧会に来ていました。ですので今回展示されている作品は同館選りすぐりの名品ばかりと言って良いと思います。
■ 物語を感じるキャプション
本展の特徴として、まずキャプションが工夫されている点が挙げられます。画家の解説・作品の紹介・「やさしい日本語」による作品紹介の要約、の3種類のキャプションが併記されています。
作品紹介のキャプションは特に面白く、美術史的・客観的な解説に留まらず、両夫妻が画商兼コレクターの立場から見た作品と画家についてのエッセーのような内容になっています。
たとえば、女性遍歴を重ねるなかで次々に画風を変えていったピカソを評して、彼の中にはモデルになった恋人たちの数と同じだけ、別々の作家が潜んでいるように思える、とか。
ヴァン・ドンゲンの大コレクターがスイスにいらっしゃるのだけれど、そのご夫人は正にドンゲンが描くような、大きな眼が魅力的な女性でいらっしゃった、とか。
はたまた、直接お会いできたマティスの長女いわく、父はよくモデルに対して「一番楽なポーズを取りなさい、後で動く必要がないように」と語ったが、それは一本の線で描かれたデッサンに同じ感情が宿るようにするため、休憩なしで長時間の制作に付き合ってもらうためであった、とか。
このエッセーのような作品紹介は、冒頭でもお話した「HILIGHTS」にも掲載されていますので、ショップで買って「お持ち帰り」することもできます。
■ 気づきをもたらす「やさしい日本語」
作品紹介のポイントを要約してかみ砕いて書かれた「やさしい日本語」のキャプションも良いです。学芸員さんの意図としては、小学生や海外のかたに向けた配慮が本来の目的なのだろうと思われますが、案外それ以外の方にとっても役立つと思います。
通常のキャプションを読んでから「やさしい日本語」のキャプションを読むと、自分がキャプションの要点を見落としていることに気づくことがあったりします。自分ではしっかり読んでいるつもりでも、結構目が滑ってしまっているんだな……と反省しきりでした。
他の展覧会でも、こどもたちや海外の友人に自分の言葉でこの作品を説明するとしたら果してどう語るだろう?と自問自答しながら見ると、より気づきのある深い鑑賞体験が得られるようになるかもしれません。
■ 「本の美術館」ならではの構成
ところで、来館者のかたがスタッフのかたに「印刷を展示されているのは何故ですか?」と言った趣旨の質問をされているのを二度ほど見かけました。
私たちはオールドマスターの美術史の専門家から「写真の図版ではなく、美術館で<本物>を見る体験が重要」というメッセージを受け取りすぎているせいか、ややもすると「印刷物」の作品全般を軽視してしまいがちです。それはちょっとばかり残念なことです。
19世紀末~20世紀末の西洋は、版画や印刷の技術の革新に伴って複製絵画の地位が大きく向上した時代でした。機械的な型どりを用いるため、大量印刷が可能なコピーであっても原画における画家の筆触や色彩を忠実に再現できると考えらえれていました。
実際、現代のオフセット印刷と比べてみると、当時の技術による版画や印刷は色彩が瑞々しく、またマットな質感も美しいと感じられると思います。これは「なんだ、ただの印刷か……」と思い込んで眺めると見落としがちです。浮世絵版画を観る注意深さと構えで鑑賞したほうが良いです。
当時の画家たちは自分の作品をこれまでとは比較にならないほど多くの人々に届け、手元でじっくり鑑賞してもらえる時代がきたと確信していました。このため彼らは、詩人や小説家とコラボレーションしたアートブックや美術雑誌を油彩画と変わらない「アート作品」とみなし、企画・制作する試みが積極的に為されました。
うらわ美術館は「本をめぐるアート」をコレクションの柱のひとつとしていますので、そのような貴重なアートブックも数多く所蔵しています。笠間日動美術館のコレクションと並置して展示することで、作家直筆の作品だけではなかなか見えてこない19世紀末~20世紀初頭のアートシーンを包括的に体感できる展示となっているかと思います。
■ 楽しいのは企画展だけじゃない
開館○○周年の記念展……なのに、他の有名な美術館の出張展になってしまっている展覧会というのも少なくないとは思いますが、本展はうらわ美術館のコレクションのコンセプトを活かし、笠間日動コレクションの作品群をより大きな文脈のなかで見せようとする素晴らしい展覧会だと思います。
しかけ絵本を多数所蔵している図書室や、ちょっとおかしなジャバラ絵本を紹介している小企画も是非あわせてご覧ください。「本の美術館」の多彩な側面を垣間見ることができると思います。