2/23 万葉文化館 絵本が「演劇」ならば、原画は「パントマイム」

2/23 万葉文化館 町田尚子 絵本原画展「隙あらば猫」に行ってきました
もともと絵本を読んで大泣きしてしまう性質なので、原画展という公共の場で泣き出したらどうしようという不安はありました。しかし、表紙の猫がわが家に遊びに来るノラにそっくりだという魔力には勝てず、遠征を決意しました。
万葉文化館は、飛鳥の地の小高い丘、その広大な敷地に建てられた博物館です。近隣には飛鳥寺や酒船石遺跡があり、歴史の息吹を感じる場所にあります。
絵本ではなく「原画」だからこその良さ
画材にはアクリルガッシュが使われています。普通のアクリル絵具のようなグラデーションや、淡くぼかした表現には不向きですが、ポスターやアニメ、ポップアートなどで力を発揮する画材です。それが猫の「柔らかそうでいてシャープ」なイメージに完璧に合致していました。どんなに小さく描かれていても「猫」だと認識できるのは、アクリルガッシュならではのパキッとした表現力のおかげでしょう。
色を重ねる質感は油彩のようでありながら、ツヤがないため、作者が意図した色を光の反射に邪魔されず鑑賞できるのがよいですね。通常の絵本では塗工紙による反射で色の情報が変わってしまいますが、原画にはそのストレスがありません。
「隙あらば猫」の真骨頂
多くの作品が展示されていましたが、「隙あらば」というからには、主人公は別にいて、そこに猫がひょっこり現れる構成なのだろうと想像していました。そのテーマで特に心に残ったのが、『うらしまたろう』と『ねこはるすばん』の2作品です。
『うらしまたろう』は(読者の)隙に入り込む猫を、『ねこはるすばん』は(飼い主の)隙に入り込む猫を愛らしく描いており、まるで質の高いパントマイムを観ているような感覚に陥りました。
絵本を「演劇」とするならば、原画は「パントマイム」かもしれません。絵そのものの表現力だけに集中できるため、原画展はより一層、こちらの想像力が働きます。
展覧会の後半には、原画の元となった絵本が自由に閲覧できるよう置かれていました。驚いたのは、盗難防止のチェーンなどもなく、そのままの状態で置かれていたことです。ギャラリー側が鑑賞者を信頼している、その思いが伝わっているのか、お子さんたちも静かに本と向き合っていました。
これは外せない、感動作
今回、額縁の前で堪えきれず泣いてしまったのが、『なまえのないねこ』です。
原画初見は、猫が様子を伺う「隙」の仕草を本当によく捉えているな、と感心し、そしてラストの公園のシーンでは、その瞳の美しさに目を奪われました。
そこまでならまだ良かったのですが、傍らの絵本で「文と絵のコンビネーション」を確認してしまったのが運の尽きでした…。ウルッときた状態で改めて原画を見上げると、もう視界は雨で濡れていました。原画の持つ威力ヤバいです。
もう一つ外せなかったのが、『マッチうりのしょうじょ』。
ストーリー自体が泣けるのは言わずもがなですが、注目すべきはやはり猫です。少女がマッチを擦る時、一匹の黒いノラが寄り添うように座り、マッチの炎が映し出す幻影を一緒に体験していました。
少女が一人ではなく、猫がそばにいる。その存在が救いでした。これは『フランダースの犬』のラストシーンと同じ効果ですね。アントワープの聖母大聖堂にネロが一人だった場合と、パトッラシュが共にいた場合とでは、感情の揺さぶり方が段違いであることは想像に難くありません。
そもそも、私は猫が大好きです。
どういうわけか猫からは避けられがちですが、それでも猫が大好きなんです。
だからこそ、遠路はるばる万葉文化館まで足を運びました。久々に絵本で泣かされ、笑わされ、目まぐるしく感情を動かされて出口に辿り着いた時には、結構疲れましたが、猫好きにはたまらない、大満足の展覧会でした。
余談:アクセスについて
京都からは近鉄で橿原神宮前まで行き、そこからレンタサイクルを利用しました。
バスもありますが、本数が少ないため、計画が崩れた時のリスクが大きいです。
普通のママチャリでも行けますが、微妙にアップダウンがあるため、電動アシスト付きの方が楽でしょう。
万葉文化館の入口付近にある酒船石遺跡は、昔は道端に自転車を置いて、林を突き進んだ先の開けた場所に鎮座する石を眺めることができたのですが、今は有料スポットになっていました。「古き良き時代」は遠くなりにけり、ですね。
