【講演会ノート】修復家から学ぶ「絵画の損傷と保護」の実際

11月1日 大山崎ふるさとセンターで開催された、 大山崎山荘美術館企画展「美術館で大航海!コレクションをたどって世界一周」の 講演会「絵画作品の損傷と保護」を聴講してきました
展示作品名は【 】内に示します。
録音・録画NG
今回は、速記のように読みにくい文字を整理するためノート形式にまとめていこうと思います。
なお、私の心の声は〈 〉内に示します。
《講演テーマ》
本展の展示作品(サム・フランシス【無題】、【Green Wave】、マルク・シャガール【春の恋人たち】)の修復を担当された工房の方による講演。
核心の問い: 『絵画が壊れるとはどういうことか?』
《作品が痛む要因の分類》
絵画の損傷は、外的要因と内的要因に分類される。
1.外的要因(環境・取り扱い)
温湿度/空気の質 → 埃、カビ、酸性・アルカリ性雰囲気/不適切な取扱い/衝撃・落下/汚れ
2.内的要因(作品固有の性質)
〈画家さんたちは修復まで考えて絵なんて描きませんから仕方ないですよね〉
支持体(紙、キャンバスなど)の品質/色材(絵具、顔料など)の品質/技法の特性/作者特有の描き方/寸法の特性/用途の特性
《具体的な「損傷」の事例と対処法》
A. 支持体の変形(折れ・シワ)
折れ: 小さく折りたたんでしまったことによる損傷 → 対処: 折り目を慎重に伸ばす。
シワ: 温湿度の影響により紙やキャンバスがたわむ現象 → 対処: シワを伸ばす。
↓ シワを放置してはいけない理由 ↓
作品がグレージング(額の保護材)や木枠・中桟に触れる
→ 触れた部分の色材層が薄くなる
→ 振動で擦れ、静電気で跳ねたりくっついたりする
→ 経年により損傷がより顕在化する
→ 温湿度管理の不徹底は作品に致命傷を与えかねない。
観察方法:作品の斜め横から光を当て、影のでき方を見る。
B. 裂け・破れ
額表面のガラス割れ → 破片が落下し作品を傷つける。
柔軟性の無くなったキャンバス → 引っ張りにより裂ける。
傷んだキャンバスに鉛筆を落とした → 衝突点からひび割れ状に亀裂が広がる。
↓ 修復の基本原則 ↓
修復は魔法ではない。
→ 損傷を「なかったこと」にはできない。
→ 修復を依頼する側は、この現実をよく理解する必要がある。 〈いろいろあったのでしょうね〉
《素材別の損傷事例》
1.紙作品の損傷
水ジミ: 着色の周囲が輪ジミになる。
対処: 水道水でも濡れたら、すぐに水分を吸い取る。
→ 乾燥による変形は後で治せるため、ドライヤーで乾かすことを最も優先する。
油・膠ジミ:半紙に薄墨を使うとき墨の外側に膠液が広がり輪ジミになる。
2.油絵の損傷
ニス層の劣化: 表面のニスが経年劣化し、黄色に白濁りがかかることが多い(特にヨーロッパよりも日本作品)。
対処: ニスのかけ直しで回復可能。
油絵の水ジミ: 表面からは浸水が分かりにくい。
メカニズム: 油絵の層構成に親水性の部分がある
→ 拭いただけでは乾燥できない
→ 内部で絵具が剥がれやすくなる。
→ つまり、 油絵は表面は強いが、内部(層間)は水に弱い。
ペインティングナイフによる剥離: 接着不足が原因。
→ 作者の技法なので仕方ないが、一般的にペインティングナイフより筆の方が接着力は強い。対処としては、支持体を揺らさない・温湿度を厳重に管理することが必須。
3.油絵・紙作品 共通の損傷
・変色(酸性材による)
原因例1: 額の裏板の素材が悪く、酸性のガスが紙に移り劣化。
原因例2: マットの材質が悪く、外枠が変色。
原因例3: 光による劣化で、マットがかかった部分と絵画部分で変色差が生じる。
・粘着テープ・接着剤の劣化: 樹脂が紙に侵食し、紙が崩れる。
→ 対処: 溶かして取り除く。
・カビ: 洪水などで額装に水がかかった場合。
誤った対応: 額を開けると壊れると萎縮し、開けずにいる
→ その結果カビが発生する。
〈額を開けることが怖いのはわかるが、みるみるカビが繁殖する様子が見えてしまうことはもどかしい〉
正しい対応: 額は開けただけでは壊れない
→ 早く開けて、乾燥させることを最優先する。
・虫食い: 湿度と埃のある環境で発生しやすい。
メカニズム: 埃が水を吸い、湿度が上がる。
・動物の排泄物: 強アルカリ性 → 変色、変質を引き起こす。
・表面の汚れ パステル画: 表面に凹凸ができやすく、埃がたまりやすい。
→ 額に入れる前から汚れていた可能性も。
推奨事項: 額ごと絵を購入した際には、一度額を開けて埃を取り除くのが良い。
・平面の絵: キッチンの油やタバコのヤニなどにより汚れる。
学芸員への苦言:汚れた状態で研究しようとするのはナンセンスである〈繰り返し言われるほど実感がこもっていました〉。
・亀裂・剥離の主な原因: 支持体が動くこと。
→ 作品が大きければ大きいほど、支持体が波打つ。
→ 硬い色材が支持体の動きに追従できない
→ 亀裂や剥離につながる。
・突き・押し: 指や道具で押し込む。
→ 直後は分からないが、数ヶ月〜数年後に損傷が顕在化する。
〈何かしら作品に触れた場合は、その行為を記録することが大切。〉
・作者特有の技法による亀裂:
キャンバスに地塗りをせず絵具を直塗り
→ 布の収縮がダイレクトに絵具に影響する。
・布は動いていないが絵具が収縮する亀裂
→ 「壊れた」とまでは言えないため、積極的な修復はしないことが多い。 見極めが難しい。
《結論:作品保護の鍵》
『 結局、正しく額装されていれば、多くの損傷リスクを回避できる 』
〈見せる側と見る側のバランスなのでしょう〉
《正しい額装の材料と方法》
長期保存や劣化防止を重視する保存額装で使われる素材は以下の通り。
1.額装のポイント
油絵にも裏にフタが必要。
油絵も紙作品も、表面保護にグレージング(ガラスやアクリル板)を使う。
ベニヤ板を裏板に使う場合、作品への色移り防止のため、板と作品の間に中性紙を置く。
2.額装業者への依頼時の注意
額装依頼時:「中性の素材を使って額装してくれ」と明確に伝える。
業者側が「なんですかそれ?」と返答したら → その額屋さんはすぐに変更しましょう。
3.保存額装で【使用推奨】される素材
アクリル樹脂/中性紙/アーカイバル/ポリカーボネート/ポリプロピレン/ステンレス金具(錆びない)/中性接着剤 /信頼できる和紙〈わざわざ信頼できるというからには信頼できないものも扱ったことがあると読み取りました〉
4.保存額装で【使用推奨しない】素材(劣化の原因)
普通のガラス/酸性紙/発砲スチロール/ダンボール/ベニヤ/金属板/鉄など錆びる金具/ホッチキス/木工用ボンド等酸性接着剤/セロテープ/マスキングテープ/
