4.0
豊かな気持ちになれます
日本美術院同人で、現在も画壇でご活躍の那波多目画伯。その画歴を辿る展覧会。
会期末の週末午後の訪問で、やや混みあってました。
最初の部屋、1階A展示室には1990年代~2000年代の大作が並び、お出迎えです。
静謐でやさしくて、描かれた光や牡丹・菊が楚々と揺らいでいるような。心沁みる作品の中でも、日展大臣賞受賞作《寂》は特に印象的。
次の間、1階B展示室では、18歳で日展初入選作《松山》から始まり、40歳代辺りまでのスタイル変遷。ジョルジュ・ルオー、ブラック、クリムトと、西洋の大家にインスパイアされて入魂に描き込んだ意欲作は、活き活きとして楽しい。
3階展示室に移動すると、そこは白い花の空間。牡丹の花弁や蕊の質感、そして、マット感ある色彩の背景との組み合わせが素晴らしい。時の移ろいや生命に向けられた視線が慈悲深い。那波多目氏の真骨頂に息をのみます。
最後の2階展示室。当館コレクションの中核である現代日本画家の桜の作品群「桜百景Vol.38」。そのなかに那波多目氏の作品も数点あり。満開の桜の枝に3羽の孔雀がとまる《春に憩う》、って、非日常的情景ながらもストレートな美しさを素直に感じます。
氏が日本画家になった動機が執念深い。画家の父親は公募展に落選続くなか、父の親友が入選し。その後辱めを受けて不仲に。見返したい思いで画を始め、好きで始めた訳ではないと。
氏は、見ることの大切さを語られてます。圧倒的な写生力。作品は失敗の連続であり、失敗を上手に活かせるようになって現在に至る、と。ですが、そんな卓越した画力は作品では自己主張せず。優しさや慈み、謙虚さに包まれます。素敵です。
コンセプトのしっかりした小さな美術館で、とても豊かな気持ちになれました。
纏まって見られる機会の少ない作家ゆえ、写真撮影可は有難い。