4.0
研ぎ澄まされた美をじっくり
日本の写真史に大きな足跡を記した土門拳の『古寺巡礼』シリーズ第一集が刊行されて、今年で60年を迎えるのだそうだ。彼は、昭和14(1939)年に室生寺を初めて訪れ、その翌年に広隆寺と中宮寺の弥勒菩薩を撮ったところから始まり、全国各地の百か所以上のお寺を巡り、仏像を、古寺の建築・風景を、路傍の石像を、途中脳出血で倒れ車椅子生活になってからも不屈の精神で撮影を続け、心血注いで撮り続けた『古寺巡礼』シリーズ(第5集は昭和50(1975)年。脳血栓で倒れ11年間の昏睡状態を経て平成2(1990)年永眠している)。まさに文字どおりのライフワークだろう。その作品たるや、彼自らの眼で選んだ古寺や仏像を徹底して凝視し撮影するもの。建築の細部、仏像の手や足、口もとなどをクローズアップで捉えるなども含めた独自のスタイル。撮影機材と共に奥山に踏み入り、底冷えのする寺院に、長時間対象と対峙し、その本質を見つめ、最も美しいと思えるアングルや光(自然光)を見出している。どの作品も、なまなかな努力では撮れなかったと思われる。そしてそんな作品にそっと添えられる彼の一言もまた実にいい。写大出の友人も居るものの、未だに写真のことは全くよく解らない私だが、仏像好きということもあり、まだ学生時代にたまたま写真集「室生寺」を初めて観てから、彼の作品に少なからず魅せられ、高価い写真集は図書館を頼りつつ、若い頃はあちこちへ(山形にまでは行けていないが)、彼の作品を尋ねても来た。めっきりフットワークが悪くなった最近では、昨年の写大ギャラリー「古寺巡礼―土門拳が切り取った時間」展や、あとは百貨店やFUJUFILM SQUAREなどの小さな作品展に出向いたくらい、になっていた。恵比寿のTOP MUSEUMも本当に久しぶりで、それも本展の会期末ぎりぎりでの訪館になった。会期末が近いこともあってか平日昼時、中高年の方々中心に、結構な盛況ぶりだった。彼の作品は特に、今までに何度となく観たものであっても、会場の雰囲気などや展示作品の並び順や、作品サイズから受ける迫力、或いは自分の側の心境などで、なかなかに違って感じるものだ。今回も、行けて本当に良かった。作品の並びも導線もとても良かった。ただ、写真専門の美術館にしては若干、照明などがよくない部分があると思った。